47. お好み焼き屋の少女
キーンコーン♪ カーンコーン♪
ひばりの誕生パーティーから、時は一週間戻って、再び高校2年生になって今日が初日。
市内にある宝箱女子高校では、始業式、新しいクラス、そして本日の授業もつつがなく終了し、2年D組の教室では、生徒達が学校から帰る準備をしていた。
「今日何する? カラオケでも行こっか?」
「うん、いいね! 行こ行こ。」
楽し気に放課後の予定を相談している2年D組の新しいクラスメイト。
そんな彼女達とは対照的に、教室の左奥、一番後ろの席から、クラスメイトの様子をなんの気なくボーっと眺めている少女がいた。
――あっ……うちか? うち、江戸紫ゆかり言うんや。
宝箱女子高校に通う2年D組の生徒で、それも日本一不幸な女子高生っちゅうおまけ付きや。……いや、さすがに日本一はちょっといいすぎやな。うちの実家は、親子三代で歴史もあって、関西でも有名なお好み焼き屋を経営してるんやけど……ここ3年で8回も……8回やで! 店がなんらかの原因で燃えて、その度に、なぜか北へ北へと店が移転していって、気づけば昨年、とうとう関西とはなんの縁もゆかりもない宝箱市に引っ越してきたっちゅうわけや。……ちなみに一応言っとくけど、縁もゆかりもないって、別にうちの名前のゆかりとかけたダジャレちゃうからな。そんなしょーもないこと言ってたら、関西やったらおもんない女子認定されてしまうわ。……まあそういうわけやから、もしかすると、うちは日本一不幸なお好み焼き屋の女子高生なんかもしれんな。
ほんで、今日は春らしく過ごしやすくてええ天気っちゅうわけや。こんな気持ちいい日に、クラスメイトと一緒にどこか遊びに行ったりしたら、すごく楽しいやろな……って思わんこともないけど、うちはそういう甘えたこと言ってられん身分やねん。
季節は春いうても、うちの実家だけは常時真冬状態なわけや。実家のお好み焼き屋の、度重なる焼失による、その補償や移転費なんかで、実家は今まさに借金が雪だるま式なんや。もちろん、全部が全部、うちの店が出火の原因やないんやで。しかも8回目の焼失の時なんか、夜中、家族で家で寝てたら、突然、雷がうちの家だけに直撃したんやからな。不幸中の幸いゆうんか、家族は全員、怪我なく無事やったんやけどな。
でも……週刊誌なんかに嗅ぎつけられて、「宝箱市に実在する呪われたお好み焼き屋」とかいうタイトルでうちの店が特集でもされた日には、うちの店はもう終わってしまうやろな。現在の宝箱市の店舗は、オープンから半年くらい経ったけど、幸いお客さんもようけ入ってくれて、店の方もえらい繁盛してるみたいやから、今のところは大丈夫そうやけど……。
やからうち、これから家に帰って実家のお好み焼き屋の手伝いせんとあかんねん。うち、元々実家の手伝いするの、昔から好きやったし、将来は実家のお好み焼き屋を継ぎたいなーとか思てた時期もあったけど……今は状況が一変してしまって、店でバイトを雇う余裕もないんで、義務感でひたすら働いている……そんな感覚や。こうなってまうと、おもろかったもんも、すっかりおもろなくなってしまうねんな。
そんな不幸を絵に書いたような、この江戸紫ゆかりという関西人。背は小柄な方で、だいたいひばりと同じくらいだろうか。かわいくて地元でも人気な宝箱女子高校の制服だが、靴下を履かないのが彼女の自己主張――というか単純に買うのがもったいない――で、見た目だけだと、全体的にちんまりして、とても愛らしい印象がある。
髪型は特徴的で、頭の左右に、大きなツインテールを腰のあたりまで伸ばしている。吊り上がった眉毛と大きな目が、彼女の芯の通った性格をよく表している。
元々は、大らかで気立てのいい少女だったが、ここ最近、彼女の身の回りに立て続けに起きた不幸な出来事が影響したのか、それとも生粋の関西人である彼女が、初めて圏外で生活することになった心細さのせいか、ここ宝箱市に引っ越してからは、どこか投げやりで卑屈な性格になってしまったようである。
「ねえ、この後クレープ食べにいかない?」
「うーん、どうしようかな?」
教室では、先ほどとは別のクラスメイトが、楽しそうに放課後の予定の相談をしていた。
(同じ粉もんやったら、お好み焼きでもええんちゃう?)
ゆかりは、心の中で彼女達と会話していた。
(そういや、お好み焼きを焼いてる鉄板でクレープみたいなん作れんかな? ……いや、無理か。……そしたら、お好み焼きの生地を薄ーく伸ばして、上に果物とかアイスとか乗せてデザートとして売ってみたらどうや? ……いや、それもちょっとキツイか?)
なんといっても、彼女の一番の関心事は、実家のお好み焼き屋である。
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