44. 「誕生!! 魔法少女」
ホタルは、助走なしでそのまま現場ロボットにロケットキックを一発打ちこんだら、それですべて終了だったが、加減を間違えると、ミカを巻き添えにしてしまう恐れがあった。
(あっ! そうだ。)
ホタルは右手を高く挙げると、光の塔から何かが飛んできて、そのままホタルの右手にすぽっと収まった。
それは、古代エジプトでシストラムと呼ばれた、左右に振ってカチャカチャ音を鳴らす打楽器に似て、中央に描かれる人間の顔の部分が猫の顔に置き換わっていた。そのシストラムは、ホタルが魔法を使用するための、イエローキティ専用の武器だった。
現場ロボットは、ホタルを攻撃対象として改めて認識すると、ミカを左手で固定しながら、ホタルに向かってクレーンを何度も発射してきた。ホタルは、それらをことごとく片手で軽々とはじき返した。
(うん。この程度のロボットだったら……)
ホタルは、シストラムの狙いを現場ロボットの左腕と胴体の関節に定めた。
「キロライト!」
ホタルは魔法を唱えると、シストラムを軽く振りかざした。
すると、シストラムの先端から、現場ロボット目掛けて電撃が発射された。
電撃は、ホタルの狙い通り、現場ロボットの胴体と左腕の接合部に直撃すると、ボンッという爆発音とともに、ロボットの左腕が、まるごと胴体から吹っ飛んだ。そして左手の吸盤からミカが外れて、ロボットの左腕ともども空中に投げ出されると、ホタルは素早くジャンプしてミカをやさしくキャッチした。
キロライトは、雷属性であるイエローキティのホタルの魔法の中で、一番威力の弱い魔法だった。だが、今回はそれでも充分だった。
現場ロボットと突然覚醒した五色の魔法子猫との戦いを終始冷静に観察していたパパは、現場ロボット程度の力では、五色の魔法子猫の相手にならないと瞬時に理解した。
「ふむ、仕方ない。それに光の塔も、そろそろ異次元の扉を維持するのが限界のようだ。……ミカ、今回は帰ることにするが、次は約束通り連れて帰るから、それまではおとなしく待っていることだ。」
そう言い残すと、パパは、現場ロボットとともに光の中へ消えていった。
パパが言った通り、最初は目に見えない高さまで昇っていた光の塔は、次第に力が弱まっていて、今は3mくらいの高さしかなかった。
ホタルは、ミカを抱きながら、ミカのパパと現場ロボットが光の中に消えていくのを見届けると、ひとまずほっとした……が、ふと地面を見ると、現場ロボットの左腕が、そのままゴロンと放置されているのに気がついた。
ホタルはミカを降ろすと、その左手を拾って、慌てて光の前まで走っていった。
「あの……忘れ物です。」
ホタルは、左腕を光の中に放り投げると、左腕は光の中へ消えていった。
(もし私がこの光の中に入ったら、私も惑星ウラニャースまで転送されちゃうのかな?)
ホタルは、想像するとゾッとした。
ホタルとミカが消えていく光の塔をじっと眺めていると、校舎から誰かが二人に向かって大声で叫びながら、必死に走って来た。
「おーい! ミカー! ホタルー!」
「……あっ、あれはナミだ。」
「本当だ。……それにしても遅いよね。」
ホタルはミカを見てクスッと笑うと、ミカもホタルに同意したように、ニコリと笑い返した。
ナミが二人の前まで来ると、息切れのためか、しばらくは下を向いたままハアハア息をしていた。
「ハア……ハア……ミカ……ホタル……大丈夫、だった?」
ナミは、なんとか呼吸を整えて顔をあげると、魔法少女姿のホタルが見えた。
「ハア……ハア……あれ? ホタル。そのコスチューム……もしかして……」
ナミは、昼休みに話したばかりで、もう魔法少女になっているホタルを見ると、驚いた顔をした。
「ナミ。あなたが来るのが遅いから、私の方が先に魔法少女になっちゃった。」
「ナミ。次はちゃんと魔法少女になってね。」
二人は冗談ぽく笑った。
「……うん。ごめんなさい。」
ナミは、今回のロボットの初来襲に関して、終始いいところなしだった。
それからすぐに光の塔が完全に消滅すると、世界はすべての彩り(カラー)と時の流れを取り戻し、ナミ達以外のすべてが、まるで何事もなかったかのように平常運転を再開した。
ホタルが身にまとっていたイエローキティのコスチュームも、元々着ていた制服に戻って、右手に握っていたはずのシストラムも、知らぬ間にどこかへと行ってしまっていた。しかし、猫のアクセサリーは、ホタルの首元に掛けられた黄色のペンダントにかっちりとはまったままだった。
三人は、無関係な自分達がいつまでもグラウンドにいると、部活をしている女の子達に迷惑なので、急いでグラウンドから出ると、とりあえず今から予定通りナミの家に行って、5色の魔法少女になった自分達と惑星ウラニャースの対ロボットについて、緊急の対策会議を実施することにした。
「うん……よかった……」
ホタルとミカの様子を、最初からずっと屋上で観察していた遊草シノは、ほっとした表情で静かに屋上から立ち去った。
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