41. 「誕生!! 魔法少女」
ホタルは、光の中から何かが出てきて、こちらに向かってゆっくりと近づいてくるのを、ただ不安な思いで見つめていた。
(一体なんなんだろう? 怖い……)
ホタルは現実逃避して、何も見えてないと思いこみたかった。だが実際には、いくら見たくなくても、ホタルの目は、自然とその何かの一挙手一投足に注目せざるを得なかった。
その何かは、ゆっくりとホタル達の元に近づいてきたが、意外と小さかったので、遠くからだとよくわからなかった。だが、徐々にその輪郭がはっきりしてくると、それは細身で、四足歩行で歩いているのがわかった。
(あれ? ……もしかして、あれは猫?)
ホタルの目には、それは猫っぽく見えた。
「……えっ? ……まさか? ……でも……なんで?」
一方ミカは、まったく状況が飲み込めずに、小声で何やらブツブツとつぶやいていた。
そして、とうとうホタルとミカは、その猫?と石段とグラウンドを挟んだ状態で向き合った。
「……パ……パパ?」
その時、ミカの口から思いもよらない言葉が飛び出した。
(えっ? ……パパって……まさか、ミカのお父さんってこと?)
ホタルは驚いた表情でミカのことを見た。
その猫?は、猫の形をしていて、その特徴的な長い尻尾からみても、猫種はミカと同じウラニャースショートヘアのようにみえる。
ただし、それには原型は……という注釈が必要だった。
その猫?は、確かにウラニャースショートヘアと同じ形状をしてはいるが、特徴のシルバータビーは、ミカの美しくて触り心地のいい温かな毛並みとはかけ離れた代物で、すべてが金属パーツのようなもので固められた外観に、シルバータビーのカラーリングが施されているに過ぎなかった。その長い尻尾も、人工的に作られたもので、不自然にカチャカチャと左右に波打っていた。それは、遠目からアメリカンショートヘアだと言われると、確かにその通りだと思うかもしれないが、こうして近くから見ると、猫の形状をしたロボットにしか思えなかった。
そのロボットには、普段、猫を見た時に感じるような、親しみや愛らしさが一切備わってなくて、何か奇妙で冷たいものを見ているかのような気にさせた。そのロボットの、片目に掛けた片眼鏡だけが唯一、彼が昔、確かに猫として生きていた証を感じさせた。
「……パパ……パパなの?」
ミカは、おそるおそる、もう一度そのロボットに声を掛けた。
するとそのロボットは、人工的に作られた瞳でミカを見つめると、
「そうだよ、ミカ。パパだよ。久し振りだね。」
その声は、確かにミカの記憶のままのパパの声だったが、どこか人工的で無機質で、言葉には抑揚がなく、その言葉の端々には、なんの感情も感じ取れなかった。
「……パパ……ロボットになっちゃったの?」
ミカは、自分が今相対している相手が、ロボットにはなっていても、間違いなくパパなんだと確信した。
でも……一体何が起きてしまったんだろうか? もう一生会えないかもしれないと思っていたのに……どんな形でも、こうしてパパと再開できたのはうれしかったが……一方で、大好きだったパパが、もう自分の知っているパパとはまったく別人になってしまったような気がして困惑した。
「そうだよ。ロボット達は私達との約束を守ってくれたんだ。かつて惑星ウラニャースにいたウラネコ達は、一人残らず、すべてロボットになったよ。もちろん、ママも含めてね。それで……残ったのは、ミカ、君一人になったんだ。……でも、やっと見つけたよ。ミカのこと、パパもママも、そしてロボット達も、随分と捜したんだよ。さあ、一緒に故郷に帰ろう。そして、ミカもロボットになるんだ。ふむ、なんとも素晴らしいことじゃないか。」
ミカのパパは、無機質な声と感情のない表情で、ミカに語り掛けた。
「……そんな……そんな約束してないよ。……一体、どうしちゃったのパパ? 絶対ロボットにはならない。そうなったら、もう家族じゃないって……そう言ってたじゃない。」
ミカは、パパに向かって切々と訴えた。一方ホタルは、二人の様子を交互に見ながら、どうしたらいいのかわからず、一人オロオロとするばかりだった。
「ふむ、そんな約束をした記録はないな。おそらく、それはミカの記憶違いだろう。……それにミカ。こうして再び君に会うのに、実に500年以上の月日が必要だったんだ。もし、私もママもロボットになっていなければ、家族全員が、こうしてまた一緒になることはできなかったんだ。」
「5……500年?」
ミカは、惑星ウラニャースから地球に着くまで、ずっと宇宙船の中で眠っていたので、自分の体感だと、だいたい5分とか10分くらいにしか感じなかった。しかし、実際には、かなりの月日が経過しているのだろうとは思っていたが、まさかそれが、実に500年という気の遠くなるような年月が経過していたとは夢にも思わなかった。
「そうだ。ロボット達は500年以上約束を守ってくれたんだ。私達家族が全員ロボットになって、永久に一緒にいられるように、私達にだけ特別な配慮をしてくれたんだ。それで、ミカが宇宙船に乗って惑星を出て行ってからも、私達は、ずっと君のことを捜していたんだ。」
「……嘘だ。」
「嘘なんかじゃないさ。ミカも知っているだろう? 我々ロボットには、嘘をつくという機能は備わっていない。そして、あれから500年。惑星は、ロボットの叡智によって素晴らしい発展を遂げたんだ。ほら、あの光をご覧なさい。」
パパは、メカメカしい尻尾をガチャガチャいわせながら、光の方を指した。
「あれは……ウラニャースの、光の塔?」
「そう、その通り。あれはまさしく光の塔だ。あの光は、惑星の奥底に眠るエネルギーの塊が、地中から湧き出して、常に天高くまで伸びているという、まさに惑星の象徴と呼ぶべきものだ。そして我々ロボットは、その驚異的なエネルギーを別の次元へと繋げる大きな力へと転換することに成功し、今、こうして君に会うことができたのだ。」
ミカは、伝説の五色の魔法子猫を探しにウラニャースを出てすぐ――すでに500年前に――故郷のウラ猫達は絶滅してしまっていたという事実を知ると、悲しさと絶望の気持ちが交差した。
ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、
【ブックマークに追加】
【ポイントを入れて作者を応援しよう】
に、あなたの評価『★』をお願いします。




