39. 「誕生!! 魔法少女」
ホタルは、ナミのバッグパックを両手で大事そうに抱えながら、教室を出て校舎の裏のグラウンドまでの道のりを慎重に歩いた。
校舎とグラウンドは、通路を挟んで、ちょうど段差で分かれていて、校舎側から大きめのコンクリートの石段を三段くらい降りたところからグラウンドになっている。
ホタルは、石段の真ん中の段に腰掛けると、ナミのバックパックを全開にして、そっと中を覗き込んだ。
すると、いつのまにかミカも目が覚めたみたいで、まだ少し眠そうな顔で、バッグの中からホタルをぼんやりと見つめていた。ホタルは、ミカを見ると自然に笑顔になった。
「あれ? もう学校終わったの?」
「うん、終わったよ。ミカは何も問題なかった?」
「うん。お昼ご飯を食べたら……ふぁ~ぁ……うん、なんだか眠くなってきちゃって……気づいたら、今までずっと寝てたみたい。」
「そう、それはよかった。でも、まだ学校の中だから、窮屈だけど、もう少しバッグの中で辛抱してね。」
「うん、わかった。……あれ? ナミは?」
「ナミは少し用事ができたみたいで、今は外してるの。後で私たちのところに合流する予定だから。」
「ふーん、そうなんだ。……ナミ、どうしたんだろう?」
「えっ? でも、そんなに大した用事じゃないみたいだよ。なんか放課後に、クラスメイトに誘われちゃったみたい。」
「ふーん……じゃあ、ナミが戻ってくるまで、しばらくの間、バッグの中でじっとしてるね。」
「うん、お願いね。」
ホタルは、ミカが原因で遅刻したせいで、ナミが新葉さんに生徒会室まで連れていかれたとは、とても言えなかった。
ホタルは、何気なくグラウンドの方に目をやった。グラウンドでは、陸上やテニスなど運動部の学生達が、ちょうど部活動の準備をしているところだった。今日から再開した2年目の学園生活は、1年の時と何も変わらない平和な日常の1ページを映しだしていた。
――それなのに、私は5色の魔法少女になったのかもしれない。
ホタルには、そんな実感まったくなかった。
確かに、自分も小さい頃は、「5色の魔法少女」が好きでよく観ていたし、5色の魔法少女の中には、自分と同じように、内気で気が弱い女の子もいたが、彼女なりに立派に魔法少女の任務を果たしていた。自分はテレビを観ていると、ついついそんな魔法少女に感情移入して、パパとママにもお願いして、あの娘のお人形やステッキなんか買ってもらったっけ?
かといって、自分も、あの娘のように立派に5色の魔法少女を務められる自信はない。
でも、ナミならきっと大丈夫な気がする。もし自分が本当に5色の魔法少女になってしまったら、その時は、ずっとナミの後ろに隠れて守ってもらおう。
ホタルは、自分のバッグからスケッチブックを取り出して、自分が書いた魔法少女姿のナミを描いたページを開くと、改めてじっくりと眺めてみた。
――このコスチューム、ナミが着るのをイメージしてデザインしたんだけど……。もし、ナミが本当に5色の魔法少女になって、このコスチュームを着たら、彼女スタイルがいいから、シルエットがきれいに映えるだろうし……ナミだったら、単にかわいいだけじゃなくって、かっこよく見えるだろうな。……でも、私もこのコスチュームを着ることになるかもしれないなんて、まったく想定してなかった。雑誌で色んな服を着るけど、このコスチュームを着て人前に出るなんて、さすがに恥ずかしいよ。……あーあ、猫耳と尻尾なんか付けなきゃよかった。
「ふぅー……」
後悔しても時すでに遅し。なぜかそんな気がして、ホタルは思わずため息をついた。
「どうしたの?」
ミカが不思議そうな顔でホタルを見た。
「えっ? ううん、なんでもない。」
ホタルは、スケッチブックをバッグに戻すと、グラウンドでボールを追いかけているソフトボール部やラクロスス部の女の子達の姿をぼんやりと目で追った。それにひきかえ、世間はものすごく平和だなと思った。
その時だった。
それまで平和に思えた景色が、突然ホタルの目の前で、それとは真逆なものへと改変した。
グラウンドで汗を流してボールを追いかけていた女の子達が、突然、そのままの姿勢でピタッと動きが止まった。
同時に、遥かに見える空の青、豊かに実った木々の緑、ラクロス部のジャージの赤、今ホタルの見えるものすべてが、目の前で鉛筆でラフにデッサンし直したかのように、白と黒だけで描かれた冷たくて無機質なものへと、右から左に向かって、さーっと変容していった。
「えっ? 何? ……な、何が起こってるの?」
ホタルは、目の前に映し出された光景を現実のものと信じることができなかった。
ホタルは、不安げに辺りを何回もキョロキョロと見回した。しかし、一度すべてが白黒になってしまった世界は、一向に元に戻る気配が感じられなかった。
「……これは……ゆ、夢? ……夢なんだ……」
ホタルは、自分は夢を見ているのだと思うことにした。
しかし、気持ちに反して、ホタルは今起きていることが現実でしかないという実感しかなかった。ホタルは、今世界は自分だけを残して、時の進行を停止していることを感覚で理解した。
「……ど、どうしよう?」
ホタルは、すべてが白黒で時が止まった世界の中で、自分だけが唯一彩り(カラー)を維持し、時が進行してるのが怖かった。できれば、私もみんなと同じように灰色の世界の住人になりたい。……それに、こんな大変な時なのに、頼りのナミがいない。
「どうしたの?」
その時、バッグの中から、ミカがホタルに声を掛けた。
「……ミカ?」
――よかった……。彩り(カラー)を失ってないのは、私だけじゃなかったんだ。
ホタルはミカを見て一瞬ホッとした……が、ミカも大丈夫なんだったら、この異常事態は、もしかすると5色の魔法少女に関係することなのかもしれない。
ホタルは、そう思うとゾッとした。
「ミカ! たっ、大変なの! お願い、外に出てきて!」
ホタルがヒステリックに叫ぶと、ミカも何かただ事じゃないことが起きてるんだと直観し、バッグの中から軽やかに飛び出して地面に着地した。
「え――っ!? なんなのこれ!?」
ミカも目の前に見える光景が信じられず、思わず大声で叫んだ。
「えっ? ミ、ミカもわからないの?」
「わからない! 一体何が起こってるの?」
二人は、この未知の現象に対し、どう対処していいのかわからず、その光景を見て、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
その時、突然グラウンドの奥から、目がくらむほどのまぶしい光が輝いた。その光は、一瞬にして天高くまで伸びていった。それは、鉛筆で部活動中のグラウンド風景をデッサンしてたら、後ろから誰かがいたずらして、消しゴムで画用紙の真ん中を下から上にすーっと一直線に引いたような、そんな風に見えた。
「えっ? 待って……あれは……まさか?」
「えっ? ……ミ、ミカ……あの光を知ってるの?」
「あの光は……もしかして……ウラニャースの光の塔?」
「ウ、ウラニャースの……光の塔?」
ミカとホタルは、なすすべもなく、ただ黙って光をじっと見つめていた。
すると、光の中から何かが出てくるのが見えた。それは光から出てくると、二人に向かって、ゆっくりと歩きだした。そして、それが一体なんなのか二人が認識できる距離に近づくと、ミカは、ウラニャースの光の塔を見た時、いや、それとは比べ物にならないほどの衝撃を受けた。
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