38. 「誕生!! 魔法少女」
昼休みが終了し、2年A組の教室に戻ると、ナミは教室の後ろの棚に、ミカを入れたバッグパックをそっと戻した。それから授業が終わって、ミカの様子を確認しに、バッグにそっと耳を近づけると、バッグからはスース―と小さな寝息が聞こえてきた。
――どうやら、お腹もいっぱいになって眠っちゃったみたい。……とりあえず、今日は無事に乗り切れそうだけど、でも、明日からどうしよう? ミカがかわいそうだし、こんなこと、いつまでも続けられない。
その後、特に何事もなく今日の授業が終了して、ナミはすぐにホタルと家に帰ろうと思って、棚のミカの入ったバックパックに手を掛けた。
その時、突然、後ろから誰かに声を掛けられた。
「日乃彩さん。ちょっといいかしら?」
ナミが後ろを振り返ると、いつも通りの落ち着いた感じの新葉さんが、目の前に立っていた。
「あっ、新葉さん。……へぇー、新葉さんも同じクラスだったんだ。これから1年間よろしくね。」
ナミは、能天気に新葉さんに挨拶した。
「ふふ、こちらこそよろしくね。……ええ、それはそうと、これから私と一緒に生徒会室まで来てもらえないかしら?」
「えっ? なんで?」
「なんで? じゃないでしょ。あなた、始業式早々学校を遅刻してきたじゃない。それに、体調不良だって聞いたのに、ぜんぜんそういう風には見えないんだけど。」
「うっ……確かに……」
ナミは、新葉さんに何も言い返せなかった。
「私、A組のクラス委員として、あなたのことを放っておけないの。今日は生徒会室に誰もいないはずだから、そこに行って少し事情を説明してほしいの。だから、これから生徒会室まで一緒に来てくれる?」
新葉さんの言っていることは、至極真っ当で、言い訳の理由も思いつかなかったので、ナミは黙って新葉さんの後をついていく他なかった。
(それにしても……新葉さんって始業式から、もうクラス委員なんだ。)
ナミは、教室を出る前、ホタルに声を掛けた。
「ホタル。悪いけど、私のバッグを持ってグラウンドで待ってくれる?」
ナミは、ミカをホタルに託すと、新葉さんの後ろについて教室を出て行った。
(あっ……行っちゃった。)
ホタルは自分の席から、ナミと新葉さんが教室を出ていく様子を目で追いかけると、なぜかわからないが、ナミから大役を任されたような気がした。
(……よし!)
ホタルは、ナミから託されたバックパックにそっと耳を澄ますと、バッグからはミカの気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。ホタルは、ミカを起こさないように、そっとバッグを両手で抱えると、一人教室を出て、グラウンドへと向かった。
一方、ナミの方は、新葉さんと誰もいない生徒会室に入ると、コの字にセッティングされた机の、ちょうど角合わせの席に向き合って座った。
新葉さんは、席に座ると開口一番、
「日乃彩さん。それにしても、一体どういうことかしら?」
「えっ? 何が?」
「何が? じゃないわよ。あなた、今日体調不良でもなんでもないのに、学校を遅刻してきたじゃない。あなた、中学時代からまじめだったし、まさかサボったわけでもないでしょう? それに、昨日東北の街で偶然会ったけど、それで家に帰るのが遅くなったから遅刻したってわけでもないでしょう? 他に、何か事情があるんでしょう? 私、心配だから、二人きりになって事情を教えてほしかったの。」
新葉さんは別に怒っているわけではなかった。クラス委員としての責務と、ナミのことが本当に心配で、何か困ったことがあるんだったら、相談してほしかっただけだった。
ナミは、新葉さんの心遣いがありがたかった。しかし、だからといって、新葉さんに、魔法少女になったからとか言うわけにはいかなかった。
「新葉さん、心配かけてごめんなさい。それに、遅刻したこともごめんなさい。遅刻したのは体調不良じゃなくて、本当は私の個人的な理由で……でも、本当に大したことじゃないから……ごめんなさい。明日からはちゃんと学校に行くから。」
ナミは、新葉さんに余計な心配をかけて申し訳なかったが、今はそれよりも、一刻も早くミカ達の元に合流したかった。
「あら? ぜんぜん大したことじゃなくないでしょう。あなた、今日学校に猫かなんか連れてきてるでしょう?」
「え――っ!? なんで!?」
ナミは、新葉さんの口から予想もしない言葉が飛び出してきたので、びっくりした。
「だって……午後の授業中、あなたのバッグから、スース―と気持ちのよさそうな寝息がずっと聞こえてたし、それに時々「うにゃ。」とか、かわいらしい声がするし……それは誰だって気づくわよ。」
そういえば、新葉さんの席は教室の一番後ろで、しかも自分のバッグを置いてある棚の真正面だった。ミカの寝息が聞こえてたとしても、ぜんぜん不思議じゃない。
(どうしよう? 今さら言い訳できない。)
こうなっては、もうミカのことについて、新葉さんに正直に話すしかない。
「……あの、新葉さん。実は……」
ナミが言いかけた時、突然、世界は一変した。
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