2. まよう少女とまどう少女
2026年1月1日連載スタートしました。
毎日朝8:00投稿予定しております。
――その時だった。
「あれ? なんだろう?」
少女は、魔法少女の背中越し、遥か上空から、何かロケットに似た物体が少女達を目がけ猛スピードで降下してくるのが見えた。
「!?」
魔法少女が少女の指さした上空を振り向くと、その物体はすぐ少女達の前まで迫ろうとしていた。しかし魔法少女は瞬時にそれに反応すると、右手を振ってその物体を軽く弾き返した。
ガチンと音を立てて魔法少女に弾かれた物体は、空中でヒュンヒュンと何度も弧を描いた後、轟音とともに地面に突き刺さった。
少女は落ちてきたのがなんだったのか確かめようと穴の空いた地面を見た。
地面に突き刺さっていたのは巨大な長い槍だった。
少女はたとえ幼くとも、それが自分達の生命を奪うためだけに投げられた誰かの恐ろしい悪意そのものであることを瞬時に理解した。
この世界を構成していたはずの生の喜びに対極する死の恐怖が、今理由もなく冷酷にもその矛先が少女に向けられていた。
少女はおそるおそる空を見上げた。
すると、上空には空一面を埋めるほどのおびただしい数の敵達が、自分に対し狂暴な殺意を向けていた。その数はあまりにも多すぎて、とても少女には数えられなかった。
「ひぇ〜〜。」(私は今日死ぬんだ……せっかく生まれたのに……)
少女は絶望のあまり死を覚悟してその場にへたへたと倒れ込んだ。
「絶対に大丈夫だから! だから! しっかり私に掴まって!」
その時、魔法少女の大きくてはっきりした声が少女の耳に届いた。
それまでどこかゆるい顔をしてたのに、今の魔法少女はキリリと引き締まった顔をしていた。
「うん!」
少女は魔法少女の声を聞くとむくむくと勇気が湧いてきた。そして少女はすぐに立ち上がると魔法少女の足にひしと掴まった。
それまで死さえ覚悟していた少女は、これで自分はまだ生きることができると確信した。さっきまではどこか頼りなく見えたのに、今目の前にいる彼女は、少女にはなぜかぜんぜん違って見えた。これが魔法少女なんだ。どんなことがあっても絶対になんとかしてくれる。今の彼女にはそんな最強な安心感があった。
「許せない。私はともかく、なんの関係もない子供まで殺そうとするなんて。」
魔法少女は上空の無数の敵達をキッと睨みつけた。
少女が空を見上げると、千を超える敵達がまさに一斉に降下してくるのが見えた。
「絶対に私の側から離れないでね!」
「うん!」
「よし。いい子だ。」
魔法少女は足元の少女を確認すると、右手に持った武器に力を込めた。そして魔力を込め終えると、上空に向かって彼女の最大魔法を解き放った。
「てぃやーーーーーい!!!!!!!」
魔法少女が大声を上げて上空に魔法を解き放つと、一面灰色だったはずの空が黄金色に光り輝いた。そして一瞬の間を置いて空が爆発した。
「ぎょえーーーーーっ!!!」
少女は魔法少女の驚異的な魔法の威力を前に大声を上げた。テレビで観る5色の魔法少女の魔法もすごかったが、彼女が放った魔法はまったくそんなものの比ではなかった。
――それから上空は爆発の影響でしばらくモクモクして何も見えなかったが、少しずつ煙が晴れて、中学生が書いたうまいのか下手なのかよくわからないデッサンのような灰色の空が再び姿を現すと、そこにはあれだけいたはずの敵達の姿が跡形もなく消えてなくなっていた。
「ちょっとがんばりすぎちゃった。てへっ。」
魔法少女は普段のゆるい感じに戻ると、少し照れくさそうに笑った。
「魔法少女いるんだね!」
「うん。魔法少女いるんだよ。ほら。」
魔法少女はおどけて少女にポーズを決めてみせた。
「私も魔法少女になれる?」
「えっ? それはどうかな? 私も別になりたくて魔法少女になったんじゃないし。……それに、魔法少女になったからって特になんもいいことないよ。」
「ふーん……。」
少女の純粋な質問に、魔法少女はとっさのことだったので、気の利いたことも言えず、少女に身も蓋もない回答をしてしまったことを少し後悔した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あっ!」
その時だった。それまで彼女達の周りをすべて支配していた白黒で無機質だった世界が突如消え去ると、いつもの彩りと生命感に満ちあふれた世界が、まるで何事もなかったかのように、いつもの顔で舞い戻ってきた。
少女は突然きょろきょろと不思議そうに辺りを何度も見渡すと、きょとんとした顔で彼女のことを見た。
「お姉ちゃん……誰?」
「えっ? なんでまたこのくだり?」
彼女は、なぜかまた少女と初めて会った時のスタート地点からやり直しみたいな感じになってしまったので、意味が分からなくなった。
「いや、だから魔法少女だって。」
「えっ? 魔法少女って本当にいるの?」
――ははーん……。さてはこの子、なぜかわかんないけど、さっきむこうの世界であったこと、全部忘れちゃってるんだな。
「うん! 魔法少女はいるんだよ。ほら。」
彼女は得意げに少女にさっとポーズを決めてみせた。
「私も魔法少女になれる?」
「うん。きっとなれるよ。」
彼女はニッコリと少女に微笑んだ。
――彼女が少女とそんな話をしていると、少女の両親がようやく少女を迎えに来た。
少女は両親を見つけると、まるで長い時間会えなかったように、うれしそうに母親の元に駆け寄って思いっきり抱きついた。それから父親の手に引かれて再び家路へと向かった。
少女はふと後ろを振り返ると、彼女にニッコリと微笑んだ。
「桃色のお姉ちゃん、なんかわからないけどありがとう。」
「うん。」
彼女はニコニコと手を振って、やがて姿が小さくなっていく少女を見送りながら、何気なくぼそりとつぶやいた。
「たいせつなことはね。目に見えないんだよ。……ってあれ? この言葉って誰の言葉だっけ?」
彼女は頭の中で少し考えてみたが、それは別に彼女にとってはどうでもよいことだった。
「ま、いっか。」
これは休日になればどこでも見かけるような、そんなありふれた平和な街角で、少女が今住んでいる街に越してくる前、今から10年以上前に実際に起きた出来事である。
幼い頃の記憶はあいまいでおぼろげなものである。とはいっても、あれだけ強烈な体験をしたのだから、少女の中に少しは残っていてもおかしくないはずである。なのに、なぜか少女にはこの時の記憶がまったくない。それどころか、当時の記憶は、現在では少女の他にも誰の頭の中にも残っていないそうである。だがこの出来事をきっかけとして、少女の心の奥底で「いつか私も5色の魔法少女になりたい!」その想いだけが、いつまでもいつまでも残ることになったのである。
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