33. 「誕生!! 魔法少女」
日も沈みかけて、そろそろナミ達も家に帰らなければならない時間が近づいてきた。ナミ達は、予定にはなかったが、旅の最後に、新葉さんが教えてくれた、とっておきの場所に行くことにした。
その高台は、新葉さんが言っていた通り、見晴らしがよくて、街の景色を一望することができた。その場所は、ナミ達は知らなかったが、偶然にも『マジカルクイン』の作中でも重要な場面で登場した場所だった。
ナミはミカを抱きかかえて、「あそこが、私達がお弁当を食べた公園だよ。」とか、「あの山、まだ雪が積もってる。いつか一緒にスキーに行けたらいいね。」などとしゃべりかけていた。ミカも、ナミと同じ景色を見ながら、ナミの言うことに、一々うれしそうにうんうんとうなずいていた。
「……ミカが俺達の家族の一員になってくれて本当によかったな。」
そんな二人の様子を見ながら、パパはしみじみと口に出した。
なぜかその言葉は、ナミ達にはミカとの別れの言葉みたいに聞こえた。言った本人のパパ自身もそう感じてしまったので、それ以上は誰も口が出せなかった。
「パパ、ママ、ナミ……みんなありがとう。」
ミカが心を込めて、ナミ達に感謝の気持ちを伝えた。
パパもママも、ミカがなんて言ったのかわからなかったが、ずっと一緒にいたせいか、ミカが自分達に何を伝えようとしているのか、ミカの雰囲気でだいたいわかるようになっていた。パパもママも、そしてナミも、ここで泣いてしまったら、本当に最後のお別れみたいじゃないかと思ったので、三人とも泣くのを我慢して笑顔を装った。
それからは、四人とも無言のまま、暮れゆく街の景色をぼんやりと眺めていた。
「――もう時間だし、そろそろ駅に戻るか?」
パパが言うと、三人は賛同し、それからは長い時間をかけて帰宅の途へとついた。
――ナミ達が家に戻る頃は、もうすっかり遅い時間になっていた。
ナミの家から出ていく。今のところ、ミカの口からそういう言葉はなかった。
家に戻ると、自然と話題は、明日から学校が始まるナミと、ミカのことになった。
「ナミも明日から、もう高校2年生になるのね。つい最近まで、ほんの小さな女の子だと思ってたのに……本当、月日が流れるのって早いわね。」
「ママ。ちょっとそれは言い過ぎだよ。でも、2年生になっても、1年生の時みたいに楽しい高校生活が送れるといいな。それに……今度はミカがいるしね。」
ナミは、ミカを見て幸せそうに微笑んだ。
「そういえば……ナミが学校に行ってる間、ミカのことはどうする?」
「そうだよね……。私と一緒に学校に行くわけにもいかないし……」
「そうね。かといって、私達のお店に連れていくこともできないし…」
「う〜〜ん。」
ナミもママも、聞いた本人のパパも、真剣に悩み出した。
「……私、お家でずっとお留守番してるから大丈夫だよ。」
ミカが尻尾を垂直にピシッと立てて答えた。
そのことは、日乃彩家内でも前からずっと結論がでない大きな問題だった。ナミも、地球ではペットにしか見えないミカを学校には連れていくことはできないし、パパとママも、洋食屋という多くの客が来店する場所にミカを連れていくのは難しかった。かといって、ペットの猫なんかではなくて、本当は惑星ウラニャースから来た誇り高きウラニャースショートヘアであるミカを、ペットホテルなんかに預けるわけにもいかない。ミカを一人だけ家に残すのは、セキュリティ上、かなり不安だったが、消去法でいくと、結局それ以外他に方法は見つからなかった。
「うーん……できれば、それだけは避けたかったんだけど……。私もミカが学校に一緒に行けるよう学校に相談してみるから……申し訳ないけど、とりあえず明日はそれで我慢してね。」
「うん。」
「それと、みんなが外出している間、危ないから絶対外に出ちゃダメだよ。もしも誰かが家に来ても、絶対出たりなんかしちゃダメだよ。」
「うん。」
「そうよ。もしミカが外なんか歩いてたら、かわいいから、絶対知らない誰かに連れてかれちゃうわ。」
「そうだな。ミカの魔法も、大人相手だと多分通用しないだろうし……それに、ミカの能力や魔法を誰かに見られでもしたら、それこそ大変なことになってしまうからな。」
「うん。わかった。」
ナミの春休みが終わった後の一番の懸案事項だったミカの問題が、とりあえずこれで一旦解決した。時計はすでに0時をとっくに過ぎて、ナミ達は、明日に備えて一時も早くベッドに入らないといけなかった。
「あの……」
最後に、ミカは真剣な顔でナミに話しかけた。
「えっ、なに? ……どうしたの?」
ナミは一瞬ビクッとしたが、平静を装おうと努力しながら、ミカに対し無理に笑顔を作った。
ミカは瞳に大粒の涙を貯めながら、ナミを、それからパパとママの順番で振り向くと、
「ありがとう……」
その一言に感謝の気持ちを伝えた。
ミカは、本当は頭を大きく下げて、今までの感謝の想いをナミ達に伝えたかったが、頭を下げてしまうと、今にも目から涙がこぼれそうだったので、少し顔を上にあげたまま、その一言を精一杯伝えた。
ナミのパパとママも、ミカがなにを伝えようとしているのか、その気持ちが痛いほど伝わってきたので、これ以上涙が堪えられなくなった。
「ああ……ちょっと……もう遅いし、寝るか?」
「……そうね。明日も早いし、早く寝なくちゃ……」
「うん……ミカ……部屋に戻ろう。」
それからナミ達は立ち上がると、何も言わず各々の部屋へと向かった。
ナミは自分のベッドに入って、それからミカも春休みに買ってもらった自分のベッドに腰を下ろすと、ナミは部屋の灯りを消した。
ナミは、自分が寝ている間に、もしかするとミカがどこかへいってしまうのではないかと不安で仕方なかったので、しばらくの間、暗闇の中からミカの様子をずっとうかがっていたが、やがてミカのベッドから、スース―と気持ちのよさそうな寝息が聞こえてきたので、やっと安心して自分も眠りにつくことができた。
ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、
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