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ユヅちゃんの友達のお父さんも助けたよ

 今日もコンビニでお昼ご飯を購入。ユヅキはあえてサフランに自分自身の分だけを支払わせる。

「…すみませんね、店員さん。この子、外国人だから計算が遅くて。…ほら、サフラン! だからすぐに大きなお札を出そうとしない! 不便だけどその国の通貨を覚えて、外国に来るというのはそういうことなのよ!」


 店員は初々しいサフランの行動にニコニコとしている。サフランはすでに気だるい顔だ。

「木こりさんは日本円の価値を向こうで教えてくれなかったの!?」

「教えなかったよ」

(どうも木こりさんはサフランに都合のいいことしか言ってないみたいね! 腹立つわ、木こりさん! …どうしてもサフランをこちらに送りたかったのでしょう…。理由があったことだけは伝わるわ…)


「ユヅちゃんみたいにチャリーンってしたい! ヒヒ!」

「とにかく電子マネーは絶対に駄目! このままじゃ、あなたは際限なくお金をつかうわ! きっとあたしが破産するわよ! …ですよね、店員さん⁉」

 店員は笑顔でうんうんとうなずいた。

「イヒヒヒー!」


   *


 サフランとユヅキが病院の廊下を歩いていると、ユヅキから質問される。サフランはやみくもに患者を回復させるようにも見えるが、そうしない。医師の指示を受けないと人を回復させない。

 サフランはサーキスから言いつけられた言葉をユヅキに伝えた。全ての人間は助けられない。そしてより多くの患者を助けるには知恵が必要だと。そんな話だ。


 サフランを思う謙虚な手紙や、先のことを考えた思慮深いサーキスという人物。ユヅキは彼のことに興味をさらに惹かれた。

(あれ? でもサフランとライオンさんって年が離れてるわよね?)

「あのね、サフラン。あなたって同世代…同じ年齢ぐらいの友達って多い?」


「え? 少ないよ。孤児院を出てよその子になったり、就職した友達がたまに孤児院に帰って来てたけど、みんなギルとかミアが目当て。私を見ても『あ、サフランまだ孤児院にいたの?』みたいな感じで好かれてなかったのがよくわかったね。孤児院の最初のメンバー五人は仲良しだけど、私は相手にされてない感じ。私がお手伝いなんかしょっちゅうサボっていたからね。自業自得だよ、ヒヒヒー!

 私に友達って言ったらライオンさんとかセレオスさんとか大人の人だけだったなあ。小さい子の相手するのとか面倒だしね。ヒヒヒ!」


 ユヅキは苦悩に満ちた表情をした。

(ぐむむ…。あたしはこの子と同世代の友達を見つけてあげるべきかしら…。いや、友達なんて無理に作るものでもないし…。この子の性格が特殊なのよ…)


 そんな日にユヅキは男性看護師から声をかけられる。夕方には屋上に呼び出され、熱い告白を受けるかと想像していたら、男性看護師のターゲットはサフランだった。ユヅキは頭をフルに回転させて一条という看護師を撃退。

 勝手に失恋したユヅキは家で号泣していた。そんな彼女を歯牙にもかけないサフラン。

(こっちの大人の人も泣いてばっかり! ヒヒ!)


     *


 ユヅキとサフランの楽しい毎日は続く。今日も冷蔵庫がピーピーと悲鳴をあげている。

「ちゃんと冷蔵庫を閉めて。冷蔵庫さんが暑い暑いって言ってるわ」

「ごめんね、冷蔵庫さん! ぷはーっ。仕事帰りの豆乳は最高だぜ! 『国王! 新たな飲料品を発見しました! 豆乳でございます!』 『なんと! いかほどの飲み物か!』」


 豆乳を飲みながら突然、脈絡もなくサフランの寸劇が始まる。

「『うまい、うまいぞ! あっぱれ! 大臣、この者に褒美を与えよ!』

『ありがたき幸せ!』」


 ユヅキは思った。

(この王様は何を食べてもおいしいって言うからご褒美のあげすぎでサフラン王国は財政難で崩壊するわね)

 サフランが飲み終わったコップをユヅキは勝手に手に取ってまた豆乳を注ぐ。

「私はもう飲まないよ…」


 それを電子レンジに一分ほどかけてあっためてココアと砂糖を入れ、かき混ぜてサフランに渡した。

「おおー!」

 サフランが一口すするとやはり笑顔に。

「ファンタスティックな味になったよ! さすがユヅちゃん! 美味なり! 褒めてつかわす!」


「ありがたき幸せ」

「アニメ見ながらこれ飲も…。この飲み物の名前は何?」

「え? ホット豆乳ココアじゃない?」

「ホット豆乳ココア! 飲みながらアニメ観るー!」


   *


 翌日。ユヅキたちの休み時間の終わりかけ、病院の玄関に戻った時、外来患者の受付ホールを横切ろうとするとふいに声をかけられた。

「はーい、ユヅキ!」

 ユヅキの友人、瀧口奈美恵。父親の付き添いで来院したらしい。車椅子を押している。


「こんにちは。お父さんと一緒に病院?」

「そうだよー。父ちゃんが頭が痛いって言うから連れて来てやったの。そしたら、自分で歩けないって言うから車椅子を借りて。大げさだっつーの! えっと、そっちのかわいい女の子は誰?」

「私、サフラン! ユヅちゃんの友達!」


「こんにちは、サフラン! あんたお人形さんみたいだね! …でね、ユヅキ。父ちゃんは頭が痛いからって、脳神経? 内科? …で診てもらって頭痛薬もらって今日は帰るところなんだ。よかったら今度一緒に遊ばない? サフランも!」

 彼女の父は終始無言で頭を抱えている。そこに手のひらをかざしたサフランが呪文を唱え出した。


「アハウスリース・フィギャメイク…」

「え、なになになに?」

 奈美恵の父の頭に手をかざして、その中を観察したサフランが少ししてから言った。

「くも膜下内に動脈瘤(どうみゃくりゅう)ができてる…。大きい…。早く手術しないと!」


 これをユヅキは脳神経内科の誤診か見落としなどと判断し、患者を連れて画像診断センターへ急いだ。そして診療放射線技師を説得にかかる。

 頭痛を訴える全ての患者がCTやMRIを受けることができるわけではない。たいていの患者は一時性頭痛で異常が見つからない場合がほとんど。過剰検査は無駄なコストになる。MRIは時間と費用がかかり、全ての患者に行うのは非現実的である。ユヅキはこのことを知らなかった。


 瀧口隼人という患者は我慢強い人間だった。診察で少しでも大げさに、これまでの人生で一番頭が痛いと伝えていれば医者はCTを撮っていただろう。彼は診察室では何とか歩くことができていたが、立つのもままならなくなったのは会計前のこと。娘や他人に迷惑をかけられないと遠慮したのが間違いだった。


 結局、ユヅキに診療放射線技師が口裏を合わせて病院に無断でMRIを撮ることになった。サフランは自分が無力な存在だと思い知った。それでいて無条件で信用してくれるユヅキには心から感謝した。

 ユヅキは脳神経外科に直接、手術を依頼。瀧口隼人は一命をとりとめた。



「ユヅちゃん! オズの魔法使いのアニメ、昨日観たところの続きから始まったよ⁉ スマートフォンなのに! どうしてどうして⁉」

 休憩室でサフランが顔を輝かせてアニメを観ている。


「テレビの続きがスマホで観れるのって、あたしも初めて観た時はこのシステムにびっくりしたわ…。この技術はブックマークがどうのこうので、あたしもよくわからない…」

 ユヅキはこの度の不逞行為により、仕事を一旦中断、待機を命じられた。ユヅキは外科と内科の仲は悪い、脳神経内科のプライドをつぶしたから、などと思い込んでいたようだが、実際はそうではなかった。病院にもよるが、この流星病院の医者たちの関係は非常に良好であった。


 今回のことを喜んでいたのは瀧口隼人を診察した脳神経内科医である。ユヅキの知らぬところであった。

 勝手をやったユヅキはクビになるかもと戦々恐々としていたが、流星病院の院長は「そんなことあったの⁉ いいんじゃない、患者さんが助かったなら!」とお咎めなしと言い渡す。

 二人がこの病院の保田院長に出会うのはまだ先のことである。

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