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サフラン十六歳

 天気の良いとある日曜日。孤児院に現れたのは上流階級の婦人。中庭で子供たちに向かってその婦人は説明する。

「こちらで動物も蘇生してくれると聞いて来たの…」

 婦人が見せる子犬の死体。白いマルチーズだった。事故死であろうか。血に染まって何かにぶつかったのか体が変形している。特に脚がねじれ曲がっていた。


「かわいい顔をしてるね」

「洗ってあげたら綺麗になりそう」

「触りたいな」


 肩を落としながらここに訪れた婦人であったが、子供たちの反応には驚いた。この子たちは生きている子犬のイメージを頭に描いている。日常的に見ている光景だと気づく。婦人は期待に胸が高鳴った。

「大人の人はいないの?」


「ミアもギルもじいちゃんもいない…。ちょうど今、大人は不在です…」

「一人、完全復活(レザレクション)が使えるお姉ちゃんがいるけど…」

「いいわ! そのお姉ちゃんを呼んで!」

「お姉ちゃんは人格に問題が…」


「大丈夫よ! 早く!」

 子供たちは二階に上がるとサフランの部屋にドタドタと入って行く。

「サフランお姉ちゃん、起きてー」

「ぐー、ぐー」


「起きない…」

「何でこんなぐうたらな人がすごい呪文が使えるんだろうね…。信仰心に疑念を抱くよ…」

「あたしも…」

 子供は大きく息を吸い込んで大声をあげた。

「お姉ちゃん! お客さんが来たよ! 完全復活(レザレクション)を使って欲しいって!」


 サフランは跳ね起きた。

完全復活(レザレクション)⁉ やった! お客さんどこどこ⁉」

 サフランはパジャマ姿のまま、玄関へ駆け出した。

「こんにちはー! 私、サフラン! 死んでる人はどこですかー⁉」


 パジャマ姿におかっぱの女の子。身長は百五十五センチほど。胸は大きく、太もももむっちりしている。これが十六歳になったサフランであった。

 完全復活(レザレクション)は長年修行を積んだ僧侶しか扱えないと聞く。到底、彼女にその能力があるようには見えなかった。

「あなたが僧侶…?」

「それではおばさん、説明するよ!」


 サフランは笑顔で寺院に決められた約束、その説明を始める。打って変わって張りのある声だ。

「動物の蘇生は当寺院では三千ゴールドです。成功率は九十五パーセント。失敗すると魂の器になります。その場合、再度呪文が必要になります。さらに失敗すると再生不能となります。リスクはお客様に負担していただきます。全てノークレームでお願いします。代金は前金になっております。よろしいでしょうか!」


「い、いいわよ…」

「リクト、サイン!」

 僧侶見習いの少年が客から誓約書のサインをもらう。代金も支払ってもらう。

(サフランお姉ちゃんの小間使い、やだなあ…)


「はい、ありがとうございます! では呪文を始めます」

 婦人の腕で眠る子犬に向かってサフランは両手を広げ、厳かに呪文を唱え出す。

「…タビリティ・レッドヘイト・ニングガードゥ・マスビス……リッドヘイト・アザーイーチ・ルートファント・レイルズゼント・完全復活(レザレクション)!」

 サフランのとりわけ長い詠唱が終わると子犬が光った。しばらくは寝ぼけまなこだった子犬がぴょんと跳ねて地面に着地、急に元気に吠えだした。

「ワンワン、ワンワン!」


 そして婦人の周りをクルクルと走り回る。婦人も涙目で笑顔を輝かせる。

「よかったねえ、ワンちゃん!」

 サフランが子犬をなでようと頭上から手のひらを差し出した。

「ガウッ」


 みごとに噛みつかれる。

「痛い」

「ばっかだなあ、お姉ちゃん! 犬は顎の下からなでないと!」

「そうそう! 初対面なら特にそうだよ!」


「うふふ…」

 子供の一人が婦人にハサミを渡す。婦人は血がついた犬の毛を優しくカットした。本当は洗ってあげたいところではあったが、今は春先でまだ寒い時期だった。


「今日はありがとう! 本当にありがとう! それに僧侶のお姉ちゃん! あなた、もうちょっと僧侶らしい格好をしなさいね!」

「ヒヒヒー! じゃあねえ!」


 パジャマ姿のだらしない格好のサフランが手を振ると婦人と子犬は帰って行った。

「呪文を唱えたから疲れた。何か食べてお昼寝しよう…。リクト、さっきのお金でプリン買って来て」

「寺院のお金だから勝手につかったら駄目だよ! それに昨日、ギルから階段から廊下まで掃除しろって言われてたじゃない!」


「眠い…。あとでやろ…」

 だらけた態度で家に入るサフランに、リクトが指差して言った。

「何であんな人がすごい呪文が使えるの⁉」

 ゼラという女の子もうなずいて愚痴を言う。


「どうしてだろ。それにあんなに大きくなったのに何で孤児院から出て行かないんだろ…。サフランお姉ちゃんだけだよ、ここに居座ってるの…。お姉ちゃんはお家賃も食費も払ってるからえらいでしょって自慢してるけど、それなら一人で生活できるような…。でもあの人は自分のこともちゃんとできないから…」


「たぶん掃除はやらないだろうね…。今日もサフランはギルからお尻を叩かれるよね…」

「笑い方も『イヒヒ』だし、気持ち悪いよね!」

「ほんとほんと!」


 小さな子供たちのうっぷんはたまっていた。一人前になっても全く巣立とうとしないサフラン。彼女は高尚な考えがあってここに住んでいるわけではない。ただただ義理の親たちに甘えたいだけ、甘い孤児院の生活を楽しみたいだけであった。

「プリン食べたい…寝る…」

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