ロッフル少年と僧侶のクーリッジ(2)
中庭のテーブルに座っていたミアが立ち上がり、ギルの代わりに説明する。
「お見合いですわよ。クーリッジさんは聞いてないのですか?」
ギルの妻とはあまり面識がない。二人の美人から視線を受けてクーリッジはあがってしまう。
「き、聞いておりません…。知っていたらもう少しマシな格好で来てました…」
ギルがやれやれといった表情で言った。
「このおっさん、いい格好しいだから、見合いと聞かされれば服装なんかに気合を入れて、いいところを見せてやろうって意気込んで来ると思ってた。法衣でいい。自然体でいろ。あんたはいい男だ」
「では参りましょうか」
四人が目的地に向かって歩き出す。前列にクーリッジとミモザ、後ろにギルとミアという二列の形だ。
「ロッフル君のことは聞いています。この度はご愁傷様でした」
ミモザが少年のお悔やみを言う。
「ずっと一緒にいてあげたいって言われていたそうでクーリッジさんはお優しいですね。それを院長先生は許さなかったって」
彼女のすぐ隣を歩くクーリッジは答えた。
「ええ。そしてパディ先生の言うことは間違っておりませんでした。私はロッフル君と家族でもないし、一人の患者に肩入れするのはやっぱりおかしいことだと思いました。長い時間一人の患者だけに執着して接して…。そんな状態で彼を失っていたら私は立ち直れなかった。ギル君から子供をもらって育てようなんて思いもしなかった。きっと看護師も続けられなかった。
…たぶんパディ先生は今までそんなことをして駄目になった職員を何人も見て来たのでしょう。だから、ロッフル君とずっと寝食を共にしたいと言っていた私をとがめたんだ…」
「院長はお優しい方ですね」
「ええ、すごい人です…」
実はギルもパディに、「経費がかかるわけではないから、あのおっさんの好きにさせればいい」とお願いしていた。パディは職員のメンタルを考えてやはり許可を出さなかったわけだが。
ミモザが薄い笑い顔で言った。
「クーリッジさんはロッフル君の手術も邪魔したそうですね」
クーリッジは後ろを振り返ってギルを見る。
「ギル君、君はそんなことまで言ったのか!」
「それは言うぞ。あんたがつまらんことを言ったから執刀のサーキスが今までにないぐらい泣いてたぞ。泣くなってドクターから怒られてた。術後もめそめそだった…」
「サーキス君には申し訳ないことをしたと思っている。謝りたいがなかなかタイミングが…」
クーリッジが後ろをチラチラと振り返りながら言うと、ギルからは手痛く注意される。
「あんたはいいおっさんなんだからもう少し考えてから行動しろ」
「面目ない。しかし君は若いのにいつも大人らしい物言いだ。同年代と話しているようだ」
ギルに限らずバレンタイン寺院の人間は全員、考え方が大人びていた。若い時から人の生死を見て来たのは他の僧侶でも同じではあるが、特にユリウス・バレンタインの妻、リナリアが死んだ時に全員の考え方がどっと老け込んだ。世界は優しくない。けれども希望は捨てたくない。皆がそのように成長した。
四人がライス総合外科病院を通り過ぎようとした時、ミモザが言った。
「ここって婦人科もやるようになったのですね。院長先生は評判だわ。私は見たことがないけど…。どんな方ですか?」
クーリッジが答えた。
「背が小さくて気が強い人ですよ。私は話したことがないけれど…」
土下座をした覚えしかないが、パディの妻ならきっと好人物だろう。
「会ってみたいですね」
ミアが付け加えた。
「酒豪であの小さな体にどこにお酒が消えているのだろうと不思議な方ですわ。いつも何かに怒っていて、正義の怒りを感じさせる人です」
「よく知ってますね」
「お友達ですもの。こちらに引っ越して来て、リリカさんには普通にお友達になっていただいたら、急にお医者さんをやりだしてびっくりしました。お友達にお医者さんがいるのは自慢になりますわ。そして私の夫は看護師。私は長生きできそうですわ」
ギル以外の三人があははと笑う。四人はライス総合外科病院を通り過ぎてそのまま北へと向かう。それからミモザが自分のことを語り出した。
「私は一年前に夫も亡くしまして、今まで一人寂しく生活しておりました。それで子供だけでもいればと思って少し前にミアさんにみなしごを譲っていただけないかと相談していたのです。そうしたら女一人に身寄りがない子供を育てるのは思った以上にたいへんだと言われて。
それで旦那さんのギルさんの方が再婚しろと言いだして。いい人がいないなら自分が見つけてくるから待っていろと言われました」
ギルが言う。
「俺はミモザと面談をしてカスケード寺院からこいつに見合う人間を見定めていた。徐々にクーリッジはどうかと考え出し、クーリッジが子供が欲しいと言ったのが決め手で今日は見合いに来てもらった」
「そ、そんな経緯が…。ごにょごにょ…。光栄だ…」
四人はカスケード寺院まで来ると門を通り、一階の通路を抜けて裏口へと向かった。中庭には巨大な霊園があり、その最後尾まで移動するとロッフルの墓があった。
全員が指を組んで祈りをささげる。祈りが終わった二人は笑顔があふれた。
「今日はお会いできてよかったです」
「私もです!」
二人はわずか二週間ほどで籍を入れた。そして諸事情により引き取り手が戻らなかった孤児院の赤ん坊の一人がクーリッジ夫妻に渡された。
クーリッジは寺院の仲間たちから羨望の眼差しを受けた。
「ギル君、私も結婚したい!」
「お願いだ!」
ギルの周りには独身中年が群がって来た。
「面倒くさいおっさんどもだ…」
家に帰ってそのことをミアに伝えると彼女はどんと胸を叩いた。
「私にお任せあれ。全員面倒をみて差し上げますわ!」




