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サフランの給料、他

 ドレイクたちが冒険の最中、病に苦しむ中年を見つけた。冒険の任務終了後、その中年をスレーゼンまで連れ帰り、パディにみせて治療してもらう。その男の娘がたまたま魔法使いで、パディたちが病院で働いてみないかと持ちかけたところ、彼女は二つ返事でカスケード病院での勤務が決まる。故郷を離れての修行になるが、父を助けてもらった恩義と感動で彼女のモチベーションは非常に高い。

 そして魔法使い兼看護師の誕生でシムエストは病院に常駐する必要はなくなった。


 サフランがカスケード病院で働き出して一か月と少しが過ぎた。孤児院でサフランがギルに満面の笑みで報告する。

「ギル―! お給料が出たから一緒にプリンを食べに行こ! 奢ってあげる! 私の初めてのお給料だよー!」

「サフラン、お前は給料いくらもらった?」

「二千ゴールド」


 日本円にして四万円ほど。この孤児院の子供には大金だ。そばで話を聞いていたミアが驚いた。

「そんなに⁉」

「貰いすぎだ…」

 病院では言うほどサフランは仕事をしていない。人を透視してパディ医師から病名や人体を学ぶだけだ。掃除や洗濯など面倒な仕事は中年僧侶にうまいこと押しつけている。勉強のためにこちらの方が金を払わないといけないぐらいだ。


 嬉々としてサフランが言う。

「ミアにも奢ってあげるよ! 三人でお菓子屋さんに行こう!」

(私がこんなにいい子になったらもうギルとミアは私を本当の子供と間違っちゃうかも! カシミアからお父さんとお母さんを取っちゃうよ! ヒヒ―!)


 ギル夫婦はこそこそと相談すると、夫の方が部屋を出て子供たちに呼びかける。

「おーい! ガキども! サフランがプリンを奢ってくれるそうだぞー! サフランの初給料だー! みんな出て来ーい!」

 子供たちが一斉に寄って来る。スプリウスも現れる。


「うわーい、プリンプリン!」

「サフランお姉ちゃんありがとう!」

「やったー!」

 サフランはか細い声で「言ってない、私、言ってないよ…」と否定しようとする。


 お手伝いのアデリスを家に一人残して、全員が喜び勇んで外へ出る。子供たちは大はしゃぎだ。

 この時、ミアの腕の中にはカシミアが、ギルは乳母車を押していた。スプリウスの両腕は他の子供と手を繋がれ、サフランの入って行く場所がなかった。

「私がギルとミアと手を繋いで歩きたかったのに…」


 スイーツ店では子供たちがプリンだけでなく容赦なくケーキまで注文される。お土産まで用意されてサフランの手出しはたいへんなことになっていた。

(ひ、ひどいよ、みんな…。ギル…)


 サフランにとって厄日だった。給料をもらってすぐに彼女は財産のほとんどを失った。かわいそうなサフラン。彼女はただただ父親と母親を求めていただけなのに。サフランは半べそをかいていた。


 翌日。不動産屋のフォードの家で、カザニル・フォードと養子になったレナード少年が朝食を取っていた。レナードはいまだに丸坊主で、学校では優秀な成績を収めているそうだ。

「サフランの給料はそんなふうにつかわれたらしい。昨日、ギーリウスが言っていた」

「あはは! ギルらしい! サフランは自分勝手だから丁度いいおしおきだよ!」


 食卓は親子の距離が離れないよう、なるだけ小さなテーブルで食事を取っている。親子になり立ての二人が早く親しめるようにとフォードの配慮だ。

「結局ギーリウスは自分の懐から手出ししてサフランに少し金を渡したそうだ。来月もサフランの金でみんなでプリンを食べに行こうというふうになったみたいだ…」


「お父さん! サフランに給料をあげすぎだよ! あんな奴に二千ゴールドもって!」

「好かれてないなあ、サフランは…」

「そうだよ! あいつ以前は仕方なかったけど、脚がちゃんと治ってるのにお手伝いをしないんだよ! なんかうまい具合に言いくるめて仕事さぼるし! それでギルからお尻を叩かれて! あいつ一人のせいで孤児院の空気がすっごく悪くなってたんだ!」


「むー…。ワシは看護師が一人でも多くなればいいと思っているから…。それにギーリウスが国交を広げてくれたおかげで商売がしやすくなってるんだ。ワシはちょっとでもあいつに還元したいのよね…。甘いかな…」

「いいんじゃないかな」

 レナード少年は父の思いやりと、義理深い育ての親の話を聞けて顔をほころばせた。


    *


 それから数日経ったある日のこと。サーキスとサフランはナタリー食堂でグレイビーソース添えの肉料理を食べていた。

「そんなわけでお給料がなくなっちゃったんだよー! ひどいー!」

 サフランの愚痴を聞きながらサーキスが笑っていた。


「まあ、仕方ないぜ。ギルも考えあってのことだぜ。あー、このウサギの肉はうまいなあ。ねえ、セレオスさん」

 サフランの隣の席に座るセレオスはたおやかに笑う。説明が後になったが、勇者のセレオスは現在スレーゼンに住んで仕事をしている。


 ギルが悪党退治のためにドレイクたちと仲間になったわけだが、ギルと能力が重複するセレオスは冒険のメンバーからはずれることになった。目下、看護師としてカスケード病院の裏方で働いている。穏やかな性格の彼はそんな境遇をなんとも思っていないようすだ。

 ちなみに本日のギルはドレイクたちと遠征で家を留守にしている。こうなると数日は帰って来ない。


 三人が食事を楽しんでいるとカウンターで支払いを終えたリリカが、声をかけて来た。

「ちょっとあんたたち」

「何だ、リリカ」

「聞いた話だけど、先日の早朝、サーキスの家の近所にある川で妖怪が現れたらしいの。三人とも気をつけなさい」


 それだけ言うとリリカはさっさと食堂をあとにした。リリカの後ろ姿をずっと目で追うセレオスにサーキスは憂いを感じてしまう。

「怖いね、ライオンさん!」

「本当かな、妖怪なんて」


 サフランとセレオスが首をかしげているとサーキスが出し抜けに言った。

「その妖怪って俺なんだ」

「え?」

 脈絡がない話に二人が顔を見合わせているとサーキスが続けた。


「この間、ファナの友達が怪我をしてたんだ。それで俺が勝手に回復呪文で治してやったの。ファナが最近仲良くなった友達らしくて、俺が回復呪文を使えるって知らなかったらしい。それで突然治療を受けて感激のあまり俺のほっぺにチューしたんだ。それでファナは大泣き。『サーキスが浮気したー!』って当然のようにばあちゃんにチクられたぜ」


「ふふっ」

「ヒヒヒ!」

 耳を傾ける二人は笑っている。


「で。ちょいと話がズレるけど、ばあちゃんって常に俺の味方なんだ。よそのお嫁さんってどんなふうに生活してるか知らないけど、お婿さんの俺はそれは優遇されてるんだ。ばあちゃんからはいつもお客さん扱い。たとえば食事が終わっても皿はばあちゃんが洗うから、あんたはゆっくりしときなとか、毎日ばあちゃんは気をつかってくれるぜ。


 俺の味方のばあちゃんだから、ギャン泣きするファナの前でばあちゃんが俺のほっぺにチューしようとしたぜ。『ほら、不意打ちされたら誰も避けられないだろ』みたいな感じでフォローしようとしたんだ。でもよ、ばあちゃんが俺の視界に見えたし、動きが遅かったから俺は思わずばあちゃんのチューを避けてしまったぜ。

 それでファナはさらに大泣き。で、前から言いつけられていた俺への『レオの家に引っ越しの刑』を受けることになったぜ」


 セレオスから素朴な疑問をもらう。

「君はおばあちゃんからそんなにキスされたくなかったの?」


「いやいや、ばあちゃんからチューされるのは俺は何ともないぜ! ただ、お年寄りだったから動きが遅くて条件反射で避けてしまったぜ。それで俺は犬小屋で一晩寝ることになったの。飼い犬のレオは俺が小屋に入って来てくれたことを初めは喜んでたぜ。ただ、どれだけ時間が経っても俺が出て行かないから迷惑そうにしてたぜ。そして夜中なのにたまにファナが抜き打ちチェックに来るから俺は外に出られなかったぜ。そんで朝方になって外に出たら俺の体がすっごく犬臭くて。

 それで近所の川に体を洗いに行ったぜ。それを誰かに見られたらしいな。最悪だぜ」


「かわいそうなライオンさん。そんなライオンさんに私もチューしたい。チュッチュッチュー」

「やめろ、サフラン。そんなことをしたらブラウン家が崩壊するぜ。…正確には俺がブラウン家から放り出されるぜ。犬のレオを残してな。お婿さんってのは犬より立場の低い存在なんだぜ」

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