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モンステラの反乱軍

 結局、モンステラ王国までおもむいたギル。フォードからの頼みでもあり、認めたくないがドレイクたちは命の恩人。無下に断ることもできずに反乱に参加することに。パディとミアにだけ数日間、家を空けると伝えている。そしてオルバンに乗ってモンステラまでやって来た。


 林の中の野戦キャンプ内でドレイクが作戦を立てている。

「深夜、ギルをオルバンに乗せて屋上のこの辺りで投下…」

 城内の図面を見ながら、隣の魔女マーガレットも意見する。

「ハイフレアで屋上の戦力を削った方がいいねえ! ヒッヒッヒ!」


 ドレイクが唇を歪めて言う。

「屋上に降りたギルは兵士を切りながら一階まで走る。モンステラ王子! こいつは黒い格闘家と同等の強さを持っています! この男一人いれば千人は切れます。勝ったも同然です! わはは! わははー!」


 モンステラ王国では数年前に大臣がクーデターを起こし、王と王妃を暗殺。モンステラ王子も命を狙われていたが、すんでのところで逃走に成功。己を鍛え、仲間を集め、今一度、王位を取り戻さんと元大臣に挑んだ。が、あと一歩というところで黒い格闘家ことガドラフが現れ、王子の軍を蹴散らしてしまう。大勢の兵士が戦場で死に、蘇生されてそのまま敵軍に吸収されている。


 薄い反応しか示さない周りにドレイクは気にも留めることなく、熱弁をふるう。

「一階の入口までたどり着いたギルは一人で城門を開ける! 巨大なかんぬきで門は塞がれているらしいが、こいつなら一人で開けられるはず! そうだ、でかいメイスを持たせよう! 金づちみたいに端から叩いてかんぬきを動かすんだ! 敵が来てもこいつなら戦いながらいけるだろう! ノミのように俊敏なギルに敵軍は全て切り殺されることだろう! 一帯は血の海だ!」


「むー…。その作戦、穴があるようだが…」

 ギルの言葉にドレイクが驚いた。ギルが城内の図面を指差した。

「門の外と内、川というか、用水路が二本通ってる。橋がある。これは跳ね橋だ。上がっていたら下ろさないいけないぞ」


「え…」

「それから通路が壁一枚で仕切られているところが何ヵ所もある。…おい、王子」

 ギルがふいに金髪の王子に訊いた。十二歳の少年だ。

「何?」


「通路の隣は空洞の部屋になっているが、所々に穴が空いてたんじゃないか?」

「言われてみたらそうだね! 空いてたよ! それがどうしたの?」


「それは罠用の穴だ。兵士が待機してボウガンや槍を撃つ。いきなり壁から側面や後ろから攻撃されたら俺様でも避けようがないぞ。矢に毒でも塗られていたらさすがに死ぬ。たぶん、俺が門までたどり着くことは無理だろう…。

 そして王子。お前、そんなことも知らずに漫然と城での生活を満喫していたのか。そんなことだから、大臣から裏切られるんだ」


「おじさん、初対面の僕にひどいなあ! あの穴は僕が小さい頃に兵士を驚かせて遊んでいたよ。大臣もびっくりさせてたからそれで恨みを買ったのかな。はは!」

 モンステラ王子の髪型はセミロング。赤いダブレットを着こなし、一見して王族とわかる品の良さを醸し出している。少年は苦労人のようだが、それを匂わせない魅力と風格を備えていた。


《おい、少年》

 ギルの左腕、シムが王子に言った。

《お前、無理にかたき討ちなんかしなくていいんじゃないのか? よかったらうちの孤児院に来ないか? お前は美少年だからみんなの人気者になれるぞ》


「うーん、今も国じゃ元大臣の悪政に国民が苦しんでるんだ。僕だけ逃げることなんかできないよ。それに国外から連れて来た仲間も捕まって、嫌々手下にさせられている。僕のせいで申し訳ない。みんなを助けたいよ」

 出会った時からそうだった。言葉に冗談を交えていて泣きごとを言わない。未来を取り戻そうと希望を忘れない。子供好きのギルとシムは王子のことを気に入ってしまっていた。どうにか力になりたかったが。


「仮に俺が城門を開けたとしても、兵士たちがこれでは立ち向かえないのではないか。戦力差が数十倍か、百倍か?」

 テントの外を覗くと兵士たちが屋外で焚き火や訓練、食事の用意をする姿が見えた。それは女子供、年寄りも混じっており、寄せ集めの集団とうかがえる。


「作戦に問題が多すぎる。無謀だぞ」

 それからオルバンは四人乗りのためここには勇者のセレオスがいない。能力がギルと重複するため、スレーゼンで留守番となった。

 ギルがドレイクに命令する。


「一人でも戦力が多い方がいい。ドレイク、今からセレオスを連れて来い。そもそも貴様は図体がでかい。お前が普通のサイズだったら、オルバンに五人は乗れるはずなんだ。それに痔になりやすいようだし、はっきり言ってお前、ドラゴンの戦士に向いてないぞ」

「ひどいぞ、ギル! 私が気にしていることを!」


 魔女のマーガレットがフォローする。

「そうじゃ。ワシらがドレイクに思ってることをそうスラスラと言うな!」

「ばあさん、ひどいな…」


 王子がここで本音をこぼす。

「本当は同じ国民同士で戦争なんかしたくないんだよね…。みんなかわいそうだよ」

「何を今さら、ぬるいことを。お前は一度戦争を起こしておいてアホじゃないのか?」

 王子にギルがたしなめようとするが、金髪の王子は続けた。


「それと家来の経理の人間が捕まっているのが痛すぎる。前の戦いで経理のレリチアが人質になってるんだ。彼が捕まってる限り、こちらは手を出せないよ…」

 元大臣は自分の悪事を前国王に押し付けた。元大臣を倒しても汚名を晴らさない限り、おそらく王子に王位と実権は戻らない。経理の男は元大臣の悪事を知る強力な証拠だった。


 人質の救出、やぶれかぶれのギルの突撃、無謀としか言いようのない戦力差。

「分が悪すぎる!」

《断念してうちに住め》

 ギルとシムはすでに諦めの言葉を飛ばしている。


 ずっと黙っていた賢者のバロウズがここで口を開いた。

「なあ、シムエスト。お前は魔法使いの呪文が全部使えるんだよな?」

《使えるが》

「それなら俺に考えがあるぜ。ちょっと練習だ」


    *


 その晩、モンステラ城の地下牢に座り込んでいた人質、経理のレリチア。肥満の彼は食事が少ないことに一人不平を言っていた。

「お腹が空きました…。ご飯が少ない…」

 そこへ頭上から黒い籠手が舞い降りてさっと彼の口を塞いだ。


《お前、レリチア・コセックか?》

 声を出さないレリチアは黙ってうなずいた。

《俺は王子から頼まれて来た。大声を出すなよ》

「あなたは一体…」


 肥満の男と籠手が向かい合う。

《俺は味方だ。これからお前を俺が転移(トランシジョン)の呪文を唱えて城の外へ出す。とにかく黙っていろ》

転移(トランシジョン)の呪文⁉ 知り合いに魔法使いがいましたけど、座標を間違えたら死ぬんですよね⁉ 壁の中とか地面の下に潜り込んで窒息死! その魔法使いは死んでも使わないって言ってましたよ!」


《うるさいな。一応、図面を頭に叩き込んで来た。仮に死んでも蘇生してやる》

「いや、窒息死は生き返りませんって! あなたはそんなに転移の呪文が得意なのですか⁉ そんなに普段から使っているのですか⁉」

《いや。今日、二、三回練習しただけだ》


「し、死ぬ! やめてください! うわ、やめて!」

 シムはうるさくわめく経理のレリチアの首根っこをつかんだまま呪文を唱えた。そして結果、呪文は成功。二人は晴れて城の外へ。念のために空中を狙って転移したが、あまりの重みでシムはレリチアを地面に落としてしまう。肥満のレリチアは両足を骨折する重傷を負ったが、別段、シムは気にもとめなかった。


「レリチア!」

 予定にしていた河川沿いに一同が集結。王子と経理が再会を果たす。

「王子ー!」

 熱い抱擁を交わす二人についでにギルが回復呪文を唱えてやった。


《こいつが騒いだせいで衛兵に見つかった! 急いで元大臣を捕まえてくるぞ!》

 シムが再び城に向かって慌てて飛んで行く。そして同じ要領で元大臣は捕獲され、あっさりと革命は成功するのであった。


     *


 元大臣は幽閉され、裁判にかけられることになった。王にかけられた不名誉な嫌疑も晴れることだろう。王子はドレイクたちに心から感謝した。

 礼がしたいに何か欲しいものはないかとと問われると、ギルは「フォード不動産の営業がそのうちやって来る。取引してやってくれ」とだけ言った。


 その後、ギルがメンバーを連れて呪文で自宅まで帰宅すると。

「よお、ギル。久しぶりだな。やっぱりドレイクたちも一緒か」

 セルガーがスプリウスたちと共に家でくつろいでいた。

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