神様、アルバイト募集する!
「あの……どぉ~して、私なんでしょうか??」
困惑気味に彼女がおそるおそる雇用形態や給与、福利厚生など諸々必要な情報が記された紙を一枚、持ち当たり前の疑問を発言する。
極上の微笑を浮かべながら雇用依頼した理由を淡々と述べていく。
「これはひとり暮らししてみてわかったコトなのですが、ご覧の通り、わたくし家事のスキル(能力)全くダメでした!」
食べ終わった皿を洗ったところ、うっかり手を滑らせて割った枚数は数しれず!
料理をすれば、真っ黒こげ!
洗濯はシワだらけ!
まだ良い、上達したほうだ。
最初は洗濯機に入れる洗剤の量が分からず適当に投入してみたところ、ぶくぶく泡だらけ!!
購入して初日でぶっ壊れる羽目になった。
「いや……ゴミ屋敷、もとい汚部屋をどぉ~にかして欲しい!のは分かります。
私はただの人間です
どちらかというと、私ではなく家事の神様に依頼するのが最善だと思うのですが……?
というおはなしです」
ニコニコ微笑を浮かべながら、あえて彼女にしか頼めない事情をそれっぽく説明していく。
「意外かもしれませんが、家事に特化した神は存外……
仕事が終わったら、さっさと切り上げてご自宅に戻られるんですよ……
仕事の成果は完璧です!
そりゃもう~非の打ち所がないほどに!!」
ここで伏し目がちに視線を外して、わざとゴミだらけのテーブルを虚ろな眼差しで眺める。
「想像してみてください?
ピカピカに磨かれた床や部屋、シワひとつないベッド!
ホカホカ出来立て料理の数々……
「じゃ!私はコレで!!」
おカネ貰って、さっさと引き上げて、ひとり家に取り残されて黙々とご飯を食べるわたくしだけの光景!」
しばしの沈黙の後、彼女は少し顔を上げる。
「あ~……
それは……なんていうか……むなしいですね?
というか、既に体験済みだからこそ……な訳ですね??」
要は話し相手が欲しい!
合点いった様子で、目の前の彼女は、明記した条件部分を指さす。
「だから、勤務滞在中に経験した内容は一切、口外しない!が書かれているんですね?」
そして不思議そうに、ある待遇部分に首を傾げる。
「この……護衛は雇用者全額負担かつ現地支給!ってどういうコトでしょうか??」
こればっかりは実際にいまこの場で体感して貰うのが手っ取り早い!
近くに置いたナイフを素早く手に取り、彼女の頬をかすかに横切るように投げ放ってみせた。
ダン!
ソースがついた銀製のナイフが、勢い良く後ろの壁に突き刺さる。
「わたくしは仕事柄、どぉ~しても敵が多い立場でした。
故にたまぁ~になんですが、居るんですよ?
手柄や賞賛欲しさに一度はチャレンジしたがるバカな連中がっ!」
そんなあんぽんたんがメイドとして採用、働き始めた彼女を襲撃してくる可能性はゼロではない。
自動迎撃システムがあるとはいえ、いつでも護れる範囲に側に居てくれたほうが、こちらとしてもありがたいのだった。
「な、なるほどぉ~……???」
微笑を浮かべ続ける自分をどこかドン引き気味な表情で相槌を打つ。
「ひとまず……いつから出勤……というか、いまから掃除……はじめますね???」
「ええ、よろしくお願い致します」
どうやら働いても良い!と判断してくれたらしい!
ひとまず前段階、無事に成功だ!!
ゆっくり椅子から立ち上がり、のそのそした手付きで食べ終わって散らかり放題のテーブルのゴミを片付けていく彼女にこれからの呼び名を確かめる。
「たしか貴女のお名前はイシュテリアでしたね?
イシュー!とお呼びしても?」
「はい、どうぞ呼びやすいように、好きに呼んでください」
戸惑い気味に返事して、要望を伝えてくる。
「あの……掃除の邪魔なんで……どいて貰えますか??」
「分かりました、ごめんなさい!
というか、女性ひとりだけ働かせるの悪いし、なによりわたくし自身、少しは家事能力を獲得、成長させねばなりません!」
慌てて自分も席を立ち、手伝い始める。
「だって貴女が風邪引いたり体調崩した時、介抱はおろか食べやすい食事を作りたくても、分からない!のでは意味ない!じゃないですか!!」
??
ただの住み込みのアルバイトに過ぎない人物ーー
『そこまで雇い主が気にかけるか……普通???』
イシューが一瞬、違和感を抱くが、深く考えずに黙々とゴミ屋敷と化したコテージを片付けていくのだった。




