Episode40 苦しい
「どうなんだよ、最近は。」
「どうなのって、ドウイウコト?」
「久井さんとどんな感じなのかってことだよ。」
「どうって、別に…」
「いいじゃん、もったいぶるなよ。今更隠すことはないでしょ?」
「そうだな…。」
俺は雄星にあの日曜日の件(出会いと慰めたコト)とか青井スポーツ杯前の会話とか昨日の夜のことを全部話した。他人に話すのは勇気がいる。一通り話し終えると、一気に力が抜けた。
俺の話を聞いた後雄星は「うーん。」と言って黙り込んでしまった。(何なの?コイツ…)と思いながら雄星が口を開くその瞬間を待った。
30秒ぐらいの沈黙の後、雄星は淡々と言った。
「羨ましいなあ…僕はこの間別れたばっかなのに、お前ってヤツは…」
「えっ、付き合ってたの?」
「なかなか失恋はキツイものなんだぜ…。」そう言って雄星は物思いにふけたようだった。そして重い口を再び開く。
「中学2年の夏から付き合ってたんだ。高校生になったら学校は違うし、僕の部活が忙しいとか色々あった。そして会えない日々が続いて、夏休み前に向こうから別れのメールが来たんだよ。」
(そうだったのか…)
失恋か…恋愛すらまともに経験したことのない俺には分からない。ただ、この時の雄星の顔はいつになく元気がなかった。無理して笑ってるのか、いつになく笑顔がぎこちなかった。
「別れてから、一時どうしようか迷った。学校にも部活にも行きたくなかった。家で一人で1日中泣いていたかった。でも、泣いても諦めなんてつかなかった。」
「…。」返す言葉が見当たらない。ここで励ましの言葉なんて似合わない。まして俺が言うのはもっとダメな気がした。俺は雄星の話を黙って聞き続けた。
「有名な失恋ソングを聞いてみたけど、どれもしっくり来なかった。」
「うん…。」
「失恋をすると何かに無性に集中したくなってさ…それでテニスを夏休みの間、本気で頑張った。そしたら青井スポーツ杯で結果が出た。成長を実感できたんだ。」
「そうなんだ…。」
「あ、ごめんね。話が逸れちゃったね。知の恋愛についてだったね。」
「うん。」
「正直、好きな人がいると楽しいでしょ。」
「そりゃあ楽しいよ。嫌なことがあっても、久井さんと話せば全部どうでも良くなる。」
「そうだよね、でもこれだけは言わせて。」急に声が真剣になる。
「行動しないと、結局何も成果は得られない。今はまだこのままの関係で良いかもだけど、久井さんは1個年上だ。部活を引退しちまえば受験勉強で忙しくなる。」
「難しいよなぁ…。大人になったら年の差なんて気にしなくていい。でも高校生には1個差ってかなり厳しいものがあるよな…。」
「だからと言って諦めるのは違う。知の気持ちは、本物だよ。」
改めて雄星はスゴイやつだと思う。失恋をして苦しいハズなのに、俺の相談に乗ってくれる。そして本気で相手をしてくれる。
「知は久井さんと付き合いたいの?」
「うーん…。付き合いたいかな?」
「結婚とかできるならしたい?」雄星は口角を上げて聞いてきた。
「結婚か…。今はそこまではないかなぁ。ただずっと一緒にいたい。いつまでも今の関係が続けばいいのにって思う。」
「そっか…。そんなもんだよな恋愛って。特に片思いならね。」
(片思い、か…。そうだよな久井さんが俺のコト好きなワケないか…)
その後も俺はしばらく雄星と話をつづけた。一通り話が済んだら部屋で雄星と二人お菓子パーティーをした。
久井さんが好きってこと、誰かにずっと言いたかった。言ってみたら心が少し軽くなった。だけど、胸は依然として苦しいままだった。いや、余計苦しくなった。




