Episode36 予想外
あっという間だった。1週間ぶりではあったが、以前よりは確実に打ち込めるようになっていた。それなのに、雄星から1点も取ることができなかった。いや、俺のミスじゃない。俺はちゃんと攻めた。シュートボールもツイストも全部やった。なのに、雄星は簡単にボールを打ち返してきた。
「足痛くない?」雄星は俺に心配そうに話しかけてきた。俺は、雄星が分からなかった。確かに、雄星は中学の時から上手かった。だけど、俺と実力は似たようなものだった。高校に入ってからも、実力差はそこまで感じなかった。それなのに、雄星はとんでもないくらい成長していた。強くなっていた。
(これで4番手かよ…。)俺は、ひどく調子に乗っていたようだった。青井スポーツ杯でたまたま上手くいっただけの男であった。こんな完敗なら、諦めがつく。「俺には後衛の才能がない」って痛いほど分かった。
「白城、どうだ諦めはついたか?」内田さんが話しかけてきた。
(デリカシーないなこの人。俺、諦めついたけど結構悲しいからな?本当は泣きたいぐらいなんだぞ?)
「いや…こんなに完敗だと後衛やりたくないですよ。」
「そうか…なら約束通り前衛になってくれるか?」
「はい。これから前衛として生きていきます。」そう俺は言い切った。後悔はない。
「白城、じゃあ早速だが前衛練習に入ってくれ。」
「はい?」
(何言ってるんだこの人。俺一応ケガ人だぞ?)
「前衛は、2年生が久井も含めて5人で…?1年はお前だけか…」
(ん…どうした何を考えているんだ?)
「よし、どうせならあと二人1年で前衛にするか。」
「えっ?」
「よし、秦と高木も前衛練習に入ってくれ。」
(さすがに1人だけ前衛になるワケないか…。)俺は少し落ち込んだ。
「白城、お前は久井と一緒に練習しろ。アイツのスキルを盗めればお前もレギュラーになれるぞ。」
「久井さんとですか…?」この瞬間俺の心臓が大きく鼓動した。(えっ、久井さんと俺一緒に練習できるの?マジで?マジで言ってる?)内心俺はお祭り騒ぎだ。
前にも言ったように、ウチは前衛と後衛は別々に練習をする。後衛練習の時は前衛が球出しをして、前衛練習の時はその逆である。
「なんだ、久井と一緒じゃ嫌か?」
「そんなこと一ミリも思ってないですよ!」つい声が大きくなった。俺は慌てて付け加えた。
「久井さんのプレーを間近で見れるのが嬉しいんですよ。」
この言葉を聞いて内田さんは眉をひそめた。そして気付く、言葉足らずだと。俺は急いで頭をフル回転させる。そしてまた言葉を付け加える。
「久井さんのスキルを自分のものにしやすいので、嬉しいんですよ。」
「ああ、そういうことね。一瞬、変態なのかと思ったわ。」内田さんがなんとか納得してくれた。
(何が変態だよ。アンタ、たまに下ネタをみんなの前で言うくせに!)
まあこうして、俺は前衛となったのだった。そして何より、久井さんとペアを組んで練習ができることになった。後衛として生きてはいけないと分かったのは辛かった。だけど、久井さんと一緒に練習できるなら、これからの練習も頑張れる。こうして俺のソフトテニス人生、セカンドステージが始まったのだった。




