Episode34 取り引き
「前衛になったら、レギュラーになれますか?」
「必ずしもなれるというワケではない。あくまでも可能性が上がるということだ。」
可能性が上がる、か…。俺は後衛として生きていくって決めていた。でも、前衛になったら俺の夢であるレギュラーになれる。世の中ってこんな感じだよな。何か一つの目標を叶えるためには自分のプライドを捨てたり、目標を変更したりしないとなんだよな…。
正直、この間の青井スポーツ杯で俺自身成長を感じたところなんだ。練習の成果がやっと結果として現れたんだ。後衛でもやっていける、そう思った。なのに、そんな時に限ってケガをするなんて…。このケガさえなければ、こんなに悔しい思いをしなくて済むのに。
「今の時点では、後衛として生きていきたいです。どうしても諦めがつきません。」
「諦めがつかない?」
「この間の試合で僕は初めて自信を持てました。『自分も後衛としてやっていける』って。なのに、そんな時にケガをした。このケガさえなければ、もしかしたら決勝トーナメントでもいい所に行けたんじゃないかなって、思うんです。」
内田さんは声を出して笑った。その笑いにはどんな意味があったのか、俺には分からなかった。ただ、この笑いが俺にとって不快ではなかった。
「諦めがつかない、か…。そりゃそうだ。だってお前この間の試合、良かったもんな。」
「あれは調子が良かったというか…。」
「調子が良かったんじゃない。お前が確実に上手になっているだけだ。」
確実に上手になっているか…。こんな感じで内田さんに褒められるのは初めてかもな。この人は滅多に褒めない。いいプレーをしても「ナイスボール。次のポイント、ミスするなよ。」とだけ言う。もう少し褒めてくれてもいいのに、と思うこともある。だけど、褒められすぎると俺は調子に乗るからありがたいのかもな…。
「よし、わかった…。」
良かった、俺の気持ちを理解してくれたか…。そう思っていたのもつかの間、
「なら、お前にチャンスをやる。今から、小川と4球、乱打をしてもらう。それでもしお前が2点以上取ったなら、お前を今後後衛のレギュラーとして使う。」
「えっ…。本当に2点取ったらレギュラーになれるんですか?」
「もちろんだ。ただし、負けたら前衛になってもらう。どうだ?実力的にも悪くない提案だと思うが?」
たしかに、長瀬さんや幸汰と乱打をやったら間違いなく負けるだろう。でも雄星なら…雄星なら、勝ち目は十分ある。いや、勝てる。ただ、ケガをしているし1週間ボールを打っていないからな…。
「ケガを考慮してストレートだけで打ちあってもらう。だから負けても言い訳はなし。どうだ白城、やってみるか?」
俺は少し迷った。でも、レギュラーになれるなら悪くはない。こんなチャンス滅多にない。俺の心はもう決まっていた。
「はい、もちろんです。」
今思えば、この内田さんの提案に乗っかったのは正解だったのか、それとも間違いだったのか分からない。ただ、この選択が俺のソフトテニス人生を大きくかえたのだった。




