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君のいない日々はきっとつまらない  作者: 久遠知
夏合宿編
35/42

Episode34 取り引き

「前衛になったら、レギュラーになれますか?」


「必ずしもなれるというワケではない。あくまでも可能性が上がるということだ。」


 可能性が上がる、か…。俺は後衛として生きていくって決めていた。でも、前衛になったら俺の夢であるレギュラーになれる。世の中ってこんな感じだよな。何か一つの目標を叶えるためには自分のプライドを捨てたり、目標を変更したりしないとなんだよな…。

 正直、この間の青井スポーツ杯で俺自身成長を感じたところなんだ。練習の成果がやっと結果として現れたんだ。後衛でもやっていける、そう思った。なのに、そんな時に限ってケガをするなんて…。このケガさえなければ、こんなに悔しい思いをしなくて済むのに。


「今の時点では、後衛として生きていきたいです。どうしても諦めがつきません。」


「諦めがつかない?」


「この間の試合で僕は初めて自信を持てました。『自分も後衛としてやっていける』って。なのに、そんな時にケガをした。このケガさえなければ、もしかしたら決勝トーナメントでもいい所に行けたんじゃないかなって、思うんです。」


 内田さんは声を出して笑った。その笑いにはどんな意味があったのか、俺には分からなかった。ただ、この笑いが俺にとって不快ではなかった。


「諦めがつかない、か…。そりゃそうだ。だってお前この間の試合、良かったもんな。」


「あれは調子が良かったというか…。」


「調子が良かったんじゃない。お前が確実に上手になっているだけだ。」


 確実に上手になっているか…。こんな感じで内田さんに褒められるのは初めてかもな。この人は滅多に褒めない。いいプレーをしても「ナイスボール。次のポイント、ミスするなよ。」とだけ言う。もう少し褒めてくれてもいいのに、と思うこともある。だけど、褒められすぎると俺は調子に乗るからありがたいのかもな…。


「よし、わかった…。」


 良かった、俺の気持ちを理解してくれたか…。そう思っていたのもつかの間、


「なら、お前にチャンスをやる。今から、小川おがわと4球、乱打ラリーをしてもらう。それでもしお前が2点以上取ったなら、お前を今後後衛のレギュラーとして使う。」


「えっ…。本当に2点取ったらレギュラーになれるんですか?」


「もちろんだ。ただし、負けたら前衛になってもらう。どうだ?実力的にも悪くない提案だと思うが?」


 たしかに、長瀬ながせさんや幸汰こうたと乱打をやったら間違いなく負けるだろう。でも雄星なら…雄星なら、勝ち目は十分ある。いや、勝てる。ただ、ケガをしているし1週間ボールを打っていないからな…。


「ケガを考慮してストレートだけで打ちあってもらう。だから負けても言い訳はなし。どうだ白城、やってみるか?」


 俺は少し迷った。でも、レギュラーになれるなら悪くはない。こんなチャンス滅多にない。俺の心はもう決まっていた。


「はい、もちろんです。」


 今思えば、この内田さんの提案に乗っかったのは正解だったのか、それとも間違いだったのか分からない。ただ、この選択が俺のソフトテニス人生を大きくかえたのだった。

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