Episode29 再び
今回から、「サービス→サーブ」、「ロビング→ロブ」に変更しています。
青井スポーツ杯もいよいよ終盤です。
足に違和感を覚えながらも、試合は4ゲーム目へと突入した。レシーブゲームなのだが、前のゲームを0-4(ゼロ・フォー)で落としたせいで相手は勢いに乗っている。正直この4ゲーム目を取らないと、試合は長引く。下手したら負けてしまう。それだけは避けたい。気持ちに少しずつ焦りが現れ始めた。
相手後衛の1stサービス。これはネットにかかり、フォルトとなる。ここで石井が俺に話しかけてきた。
「足が痛いからと言ってレシーブで決めに行くなよ。」
「あ、ああ。」俺は心配そうに答える。それを察したのか石井は言葉をつづけた。
「大丈夫、焦る必要はない。相手のロビングは俺がケアする。白城はとにかくラリーを続けてくれ。」
そう言うと俺の返事を聞く前に石井は自分のポジションに戻っていった。
(苦しい時こそ粘るか…)と心の中でつぶやき、俺は軽くほほ笑んだ。
元々、石井とペアを組まなければ、こんな経験多分できていない。初戦だって、石井に助けられてばっかりだった。石井に託そう。俺はなんとしてでもボールを返す、そう思った。
気を取り直して、相手後衛の2ndサーブ。入れに行ったサーブはボールに重さがない。俺はクロスにボールを返す。本当だったら、足が痛いからストレートにロブを上げて少しでもゆっくり後ろに下がりたい。
でも、それじゃダメなんだ。逃げてばかりでは何も得られない。今は石井を信じるんだ!
相手後衛はすぐに打点に入る。俺はまだ完璧に下がりきっていない。相手後衛はショートクロスにボールを打つ。そのボールはあまりにも浅かった。
(ああダメだ、取れない。)そう諦めた時、後ろから「白城!走れ!」という声が聞こえてきた。多分応援に来てくれているAチーム、Bチームのみんなの声だったと思う。前方の石井からも「ファイト!!」という声が聞こえてきた。
その瞬間、俺は無意識にボールを追いかけていた。足の痛みなんて忘れて。相手後衛のボールはワンバウンドしてコートの外の空中にあった。そして俺にある1つのコースが空いているのが見えた。それは、校内戦で見た倉田さんの「外入れ」のコース。そしてそれは相手前衛が唯一取ることのできないコース。
俺のラケットがボールを捉えた。ボールはコートの外からコート内へと曲がりながら飛んでいく。思い描いた通りの軌道でボールは相手のコート内にバウンドする。そのまま誰にも触られることなくツーバウンド。その瞬間自分の背後でどっと歓声があがった。
相手は二人とも唖然としていた。そして俺も「よっしゃぁ!!」と大声で喜びを爆発させた。
この出来事は俺のソフトテニス人生に大きな変化をもたらした瞬間でもあった。「苦しい時こそ逃げないで勝負する。」これが後のソフトテニス人生を大きく変える言葉となる。
もう、俺に怖いものはなかった。再び自信を取り戻した俺たちはその後も勢いそのまま4ゲーム目、5ゲーム目と連取し、試合に勝利した。最後は圧勝であった。
試合が終わり、挨拶を終えると観客席から大きな拍手が起こった。俺は初めてこの時観客席を見た。
そこにはAチーム、Bチーム、女子の3人、内田さん、坂井高校の保護者、全員合わせて30名ぐらいの観客がいた。こんなに応援されていたんだ、と実感した。拍手はまだ鳴り止んでいなかった。
拍手が終わると俺らはコートの外へと出た。次の試合の高校がすでに待っていたのだ。そうして急いでコートの外にでて俺たちは歩いた。
少しして、石井が口を開く。
「ナイスゲームだったな。」
「ああ。」
すると大木と怜人、さらには川迫と橋本も話しかけてきた。
大木 「ありがとう白城。勝ってくれて本当によかった。」
怜人 「ナイスファイト!」
川迫 「白城さん、感動しました。ナイスゲームです!」
橋本 「白城君、ナイスっす。かっこよかったっすよ。」
俺がみんなから褒められた後、石井が独り言のように「おいおい、白城だけじゃなくて俺も褒めてくれよな…。」と言ったが、俺以外のメンバーは聞こえていなかったのか石井を褒めることなく雑談に入った。石井もあきらめたように雑談に参加していった。
俺は一人、さっきの試合を思い返していた。(少しは成長できたかな…)そう初めて自分を認めることができた。
満足感に浸っていると右足に再び強い痛みを感じた。試合中よりもさらに痛みが増している。そして俺が立ち止まったのに気付いた石井が、話しかけてきた。
「白城、どうしたその右足の痣は?何かにぶつけたのか?」
痣?と思いながらも、俺は右足を見てみる。すると右ふくらはぎの内側の方に痣がはっきりとできていた。これが、またひどかった。




