Episode22 何かの兆し
現在ゲームカウント1-0で勝っている。コートチェンジをし、試合は2ゲーム目へと入っていく。
2ゲーム目、このゲームはレシーブゲーム。相手後衛の1stサーブはネットに引っかかる。2ndサーブはしっかりと入ってくる。俺は相手後衛に打ち返そうとした。打点に入った時、相手前衛の像が大きく横に動いた。ボールに目線を向けているためハッキリとは見えないが、確実に相手前衛が動いたのは分かった。
気付いた時にはもう遅かった。正クロスに返したレシーブは相手前衛にきれいに取られてしまった。しかし、石井は何気なくボレーされたボールを拾った。
相手前衛はすでに「よっしゃー!」と声を出してガッツポーズをしていた。まさかボレーを拾われるなど誰も思ってなかった。石井は慌てることなく、前衛のいないスペースにボールを落とした。相手後衛も必死に走るがラケットが届く前にボールが2回跳ねた。
「うおー!」と観客席から歓声が上がる。俺は石井に「ありがとう。助かった。」と言ったが石井の表情は何一つ変わらなかった。
「今のレシーブ、コースが甘いな…。俺でなければポイント取られてた。」
「俺でければ」、本当にその通りである。今のは石井が凄いだけ。石井でなければ確実に相手のポイントだった。
「ごめん、次からは気を付ける。」
「今ので分かっただろ?相手前衛は気にしなくていい。俺が全部フォローするから。」
この言葉がどれほど自分を楽にしてくれることか。フォローしてくれる、そう思うだけで一気に相手前衛を気にしないで自分のボールを打つことができる。
「分かった、フォローよろしく。」
「了解。」
そう言って石井はレシーブのポジションに入った。俺は改めて石井の凄さに驚かされた。でもそれと同時に、「もしかしたら『石井のおかげ』で勝てるだけであって、自分の実力は大して変わっていないのではないか」と考える自分がいた。
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「ゲームセット。」
審判の声が響く。高校初試合はあっという間であった。ゲームカウント4-0(フォー・ゼロ)でストレート勝ちであった。相手と挨拶を交わし、自分たちのベンチへと戻る。戻りながら、石井が俺に話しかけてきた。
「ナイスゲームだったな。」
「勝ったのは石井のおかげで俺は何もしてないし…」
ネガティブになってる。でも実際、勝てたのはほとんど石井のおかげで、俺は何もしていない。石井にビビッて相手がミスしてくれたから勝てた。夏休みの練習で上手くなったと思ってたのは俺だけだったんだな。
「そうだな。」
「えっ。」
予想外の言葉に俺は驚く。励ましてくれるのかと思っていた俺は頭が真っ白になる。
「正直言ってミスがかなり多いかな…」
石井の言葉は正しかった。石井は俺に構わず続けた。
「後衛はラリーを続けるのが仕事だ。ただボールを返せば良いってわけじゃない。」
「うん。」
「だからと言って相手前衛を気にしなくていいんだ。」
「え、相手前衛を気にしなくても良いの?」
「そりゃあ、気にする必要はないよ。遊んでやる、そんな感じで相手してやればいいんだよ。」
「遊んでやる?」
「例えば、ボールを打つ時『取れるもんなら取ってみろ』みたいな感じで打つとか。」
この言葉に聞いた瞬間俺は何かをつかんだ気がした。石井はさらに続ける。
「前衛がボールに触れることができる範囲も、たかが知れてる。相手前衛が動くなら、その先を通すもしくはセンターに打ち込むとか、選択肢はいくらでもある。」
「なるほど…。」
「まあ、次の試合はもっと相手前衛との駆け引きを楽しんでやれよ。」
「おう!」
俺はすっかりやる気に満ちていた。この何気ない試合後の会話が、石井の言葉が、俺を大きく成長させた。この大会の佳境はここからだった。




