Episode19 圧倒的な強さ
怜人・大木ペアは勢いそのままに続く第4、第5ゲームを連取し、あっという間にゲームカウント3-2と逆転した。高校生の部活動というのは勢いが重要になってくる。勢いに乗るとポンポンとそのまま勝つ。逆に勢いを失うとあれよあれよという間に負けてしまう。怜人たちはまさにその通りであった。そのまま第6ゲームも勝ち取り、ゲームカウント4-2で勝利した。
勝利後ベンチに戻ってくる怜人と大木の顔は充実感であふれていた。二人とも嬉しそうな表情であった。
青海学園の3人も勝利を祝ってくれている。みんなで怜人たちを祝福した。そしてお祝いムードも落ち着いたころ、川迫・橋本ペアが試合の準備に入った。さっきまで笑顔だったが試合前になると表情が一変した。真剣な顔になり、目も勝負をする目に変わっていた。
しばらくして2試合目が始まった。試合前の乱打が始まったが、俺は川迫・橋本ペアに驚かされることになる。二人ともメチャクチャ上手い…。とにかくフォームがキレイで、ボールもしっかりと回転がかかっていて非常に見ていて気持ちがいい。俺は「こんな風に打てたら楽しいだろうな…」と思いながら二人の乱打を眺めていた。そして審判の「レディー(Ready)」という掛け声で乱打が終わった。
川迫・橋本ペアの試合が始まった。最初のサーブは相手から。川迫君たちはレシーブスタート。相手の1stサーブがサービスエリア内に収まった。川迫君が素早くボールの位置まで近づいた。そして川迫君が選んだ選択は、まさかのツイスト…。相手も初球からツイストが来るとは思っていなかったのか反応が少し遅れる。なんとか相手後衛が拾った。しかしそのボールは高く浮いてしまった。すかさず橋本君がボールを追う。ジャンピングスマッシュが完璧にボールをとらえた。「パァーン‼」ソフトテニス特有のボールをとらえた音が鳴った。相手はスマッシュボールに反応できなかった。
強い…。彼らの実力を知るにはこのワンプレーで十分だった。そこからはホントに一瞬だった。相手に1点も与えず、まさかのパーフェクトゲームを達成してゲームカウント4-0で勝ってしまった。
川迫君と橋本君は「まさかパーフェクトできるとは…」とか言って笑っていたが、そんな簡単なことではない。パーフェクトゲームを達成するのはどんなに相手が格下でもなかなか難しいことだ。なぜなら、ミスが1本も許されないからだ。ミスを16点連続でしないと言うコトはハッキリ言って俺の実力では一回もない。そこそこの選手でもやっぱり1,2回はミスをしてしまう。
それを難なくやりとげた二人には尊敬してしまう。俺は二人を祝福したが、次の試合はいよいよ俺の出番であった。高校生になってから初めての公式戦。石井とならきっと勝てる、そう思えた。
俺は試合前の準備運動を軽く行った。そして観客席を見てみた。でも久井さんはいなかった。
「応援しに来るって言ってたじゃん…」そう俺は思いながらも、石井とともにコートに入った。ラケットを持つ石井はとても風格があった。俺は少し緊張していた。すると石井が話しかけてきた。
「どうした?緊張しているのか(笑)。」
「それはそうだよ…。だって勝ちたいもん。」
石井は緊張している俺の顔を見て、笑いながら言った。
「心配すんな、白城。俺がお前を勝たせてやる。」
勝たせてやる、か…。だけど石井なら勝たせてくれるって思えた。いよいよ、俺の高校初試合が始まる…