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君のいない日々はきっとつまらない  作者: 久遠知
夏の日々
13/19

Episode13 それぞれの思い

(白城side)

 なんでなんでこんなに上手くいかないのか、俺はそればかり考えていた。考えても考えても何も状況は変わらず、ただ自分が下手クソという事実をはっきりと理解するだけであった。言い訳をしたい。言い訳をして、自分を納得させたい。でも、何一つ言い訳が思い浮かばなく、全て「実力不足」以上何でもなかった。

 そんな風に考え込んでいると、ふと今の自分の姿がさっきの久井さんと重なった。さっきと言ってももう1時間も前のコトだが、ついさっきのコトのように情景を思い出す。今の自分とさっきの久井さん、どちらも自分のコトで精一杯で、ただただ自分が不甲斐なくて落ち込んでしまい、また過度に自分を責めてしまう。さっきは久井さんに対して俺は「自分だけは自分の味方でいてあげて。」なんてことを言ったが、自分にそんなことを言う資格はなかったのではないか。実際、今自分に対して呆れている。あんな言葉をかけておいて自分は言葉とは逆の行動をしている。そんな自分にまた呆れてしまう。ため息だけがこぼれる。

 

 しかし、ずっとベンチで考え込む訳にもいかずしばらくして俺はテニスコートに戻っていった。コートに戻ってからは時間が流れるのがとても遅く感じ、他の人の試合を見てもどうしても自分と比較してしまっていた。とにかくモチベーションがなくなっていて、ソフトテニスに対する情熱もほぼなくなっていた。

 こうして情熱とモチベーションがなくなったまま、日曜の練習は終わった。練習が終わってからは、チームメイトとも会話をする気力もなく俺は人との会話を避けるように速やかに帰路に就いた。




 (久井side)

 今日は自分の実力不足を痛感させられた一日だった。校内戦では、倉田君と上原君に何回先を通されたのか分からないぐらい全く歯が立たなかった。自分の方に打ってくると分かっているのに、もしかしたら来ないかも、という希望に一瞬だけ迷い、その結果反応するのが遅れてしまった。そんな自分が情けなくて本当に嫌になってしまう。倉田君たちとの試合が終わってから内田さんに試合結果を報告した。だけどそこでも私が全くボールを止めることができなかったことを深堀された。内田さんから「どうして、止めれなかったか考えなさい。」とだけ言われた。内田さんのお話が終わった後、私は「きっとみんなは『あれぐらいは止めないと…』とか『柿田が可哀そう。』とか考えているんだろうな」って思うとあの時はみんなの近くにはいたくなかった。だから私はトイレに行くという口実でベンチで一人でボーっとしていた。

 ボーっとしていたというより、考えなくても自分が悪いことは分かっていて何も考えたくなかった。悔しくて悔しくて、でもどうにもならない現実に泣きたくなった。気が付いたら、もう抑えきれないくらい涙が溢れてきていた。慰めてくれる人なんて誰もいなかったから、ひたすら泣いた。しばらくすると、足音が近くでしたような気がして「誰か来た」と思うと同時に自分の泣いているところを見られたくないと思った。自分の弱い所を誰かに見せるのが嫌だった。でも足音はしばらくすると聞こえなくなった。足音が聞こえなくても誰かいるのでは、と思うと泣きたくても泣けなかった。

 そんな時、甲高い音が聞こえた。いきなり大きな音がしたから何事かと思って音がした方を見てみると白城君がいた。なんだか私と目が合ったらすぐに俯いて何も話さなくなってしまったから、どうしたのかなと思い私から質問してみた。するとすぐに答えてくれたものの、白城君は再び黙り込んでしまった。

 あそこまで黙り込まれると私もかけてあげる言葉がなかった。でも、彼の「探しに来たのは半分嘘。」っていう言葉にはすごく驚かされた。探しに来るとは別の理由があることに私は疑問を抱かずにはいられなかった。私がなかなか帰ってこないことに心配して誰かがただ白城君に私を探しに来させたのかと思ってたから。

 でも違った。白城君は私を励ましに来てくれた。しかも独断で。ここまで他人を思いやれる人は見たことがなかった。「泣いてもいい。」そんな一言が私をどれほど救ってくれたか。普通の人間ならこんな言葉出てこない。きっと苦しい日々を送ったことがあるから私みたいに悩んでいる他人に寄り添ってくれるのだろう。あんなにいい子が後輩にいてくれるなんて私はホント幸せ者だな…。

 

 こうして、ある夏の日曜日の練習が終わった。そして白城の人生を大きく変えるキッカケとなる、白城にとっての高校初試合の「青井スポーツ杯」が始まろうとしていた。

 

 


 

 

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