Episode1 夏のひととき
※この作品に登場する人物名、学校名、会社名などはすべてフィクションです。
実在する組織や人物とは一切関係ありません。
俺は、白城知。坂井高校に入学してから四ヶ月がたった。今は絶賛夏休み中。今日は土曜日。季節は夏の真っただ中ということで当たり前だが、蝉があちらこちらで鳴いている。ものすごくうるさい。いや本当に。ずっと聞いてると頭が痛くなる。
「チッ、本当にうるさいな蝉はよ。」
「まあまあ、あいつらだって一生懸命生きてんだ。」
午後練の帰り道、ただでさえ太陽にずっと照らされ、たくさん動いて疲れ切っている中、俺の話を聞いてくれているのは同じ部活のチームメイトの雄星。こいつとは小学生の頃からずっと仲良くしている。
家が近いわけでもないし、とりわけ仲が良いワケでもない。でもなんだか一緒にいると、自然と本音が言える。こういう友達はいてくれるだけでも思春期の精神的に不安定な日々をなんとかやっていける。本当に雄星には感謝している。
「まあな。蝉ってたしか寿命が一週間だっけ?」
「そのぐらいじゃないの?。でも寿命が極端に短いのには変わりないでしょ。」
雄星は少しダルそうに答えた。
「蝉ってホント短い命だよな。」
「俺たち人間が長く生きすぎなんじゃね?」
あれ、俺かっこいいコト言ってるじゃん。
「なんか深いコト言うなよ。僕は疲れてんだ。」
「すいませんね雄星さん。」
なんか悪いコトしちゃったな。許してくれ、雄星よ。
すこしの静寂の後、急に何かを思い出したかのように雄星が俺に話しかけてきた。
「てかさ白城、今日の久井さん見た?」
久井さんは同じ部活の女子の先輩。俺はあんまり話したことがない。
「ん?何、髪がショートになってたコトか?」
「そーだよ。僕、今ロングよりショート派なんだよね。可愛かったなぁ。」
いやいや雄星よ、ついこの間までロングヘアしか勝たんとか言ってただろ。
「へぇ、久井さんのこと狙ってんの?」
「そういうワケじゃないけどね。可愛いと好きって感情は違うんだよ。」
んだよコイツ、なんか語り始めそうだな…。
「深いコト語るのやめてくださーい。」
「おおっと、これは失礼(笑)。」
雄星は少し顔を赤くした。可愛いと好きは違う、か…。そうか?まあ、どうでもいいけど。
こんな風に毎日部活の帰り道はおかげさまで楽しいし、部活の疲れが少し和らぐ。雄星と駅まで一緒に歩いて、駅で俺たちは別れた。そして俺は自転車を飛ばして本格的に帰路に就いた。
話は変わるが、夏休みはというと平日はしっかり夏の課外授業が午前中にある。「午前授業だけ?」って大人は皆、口をそろえて言うけれど貴重な休みをなんで学校に取られちゃうのかね。何が夏休みだ。全然休みないじゃん。
普通に小テストはあるし、授業はしっかり進むし、いろいろとおかしいって。去年の今頃とか塾で必死に勉強はしてたけど普通にゲームとか四、五時間は毎日やってたし去年のほうが全然今より楽だよ。まあ、嘆いたってどうしようもないことなんだが。
午後はというとクソ暑い外で部活をしている。ちなみに部活は中学の頃に始めたソフトテニス部に入っている。なんでソフトテニスかって?俺のお兄ちゃんがやっていたのを見て、その姿に憧れたから。
俺のお兄ちゃんは県内でも強豪校の私立の浅井高校に進学して、最後の県総体は個人でベスト16に入った。今は大学2年生で県外の大学でソフトテニスに打ち込んでいる。
そんな兄を持つ俺は今、勉強なんかどうでもいいと思えるくらい今は部活に一生懸命打ち込んでいる。本当にいい外部コーチに巡り会えた。名前は内田さん。今年で御年七十歳らしいけど、かなり元気な方だ。こんな俺をここまでやる気にさせてくれたのには本当に感謝している。俺のポジションは後衛で利き手は右。大した技術があるワケではないけど…。
ちなみに俺は身長百六十一センチジャストでいわゆる人権なし。たまに、身長百七十センチ以下は人権はない、とか冗談半分で言ってくるヤツがたまにいるけどかなり頭にくる。頭にくる、とは言っても自虐でたまに自分自身で言っている。思い切り矛盾しているな(笑)。
低身長なのに加えて中学の頃から俺は少し太っていたから、とにかく体力がなければ俊敏さもなかった。体重は六十五キロでかなり重い。せめて体力だけでもつけようと、部活前に毎日一人だけで学校の周りを三周走っていた。これをずっと続けた。キツかったけど体力が少しはついてきていると僅かだが実感できた。体重がこの四ヶ月で二キロ減った。だが、まだ腹まわりの肉は落ちていない。
ちなみに、俺が通っている坂井学校は県内でも偏差値がトップクラスの学校。だから先生たちは「文武両道」ばっか言っている。さらに「平日は少なくても三時間は勉強。」「土日は少なくても合わせて十五時間以上。」といかにも当たり前のような顔で言ってくる。
いやいや無理です。大体部活終って家に帰るのが七時半ぐらい。さらに俺は自転車通学だから通学途中に勉強できないから結局家でするしかない。さらにさらに土日はどっちも部活があって、午前練だろうが午後練だろうが必ず半日は潰れてしまう。
そんな状態で勉強が出来ないワケではないが、スマホという誘惑にいっつも負けてしまう。インスタでしょうもない友達のストーリーを見たり、リール動画を無心で見続けたり。とにかく無駄な時間を過ごしているコトはわかってる。
俺は宿題はちゃんとやってはいるが、それ以上の勉強はしない。だから模試の成績が少し悪い。だけど「次は頑張る」と口だけは立派だけど必死になって勉強をすることはない。そんな必死さが足りない自分に嫌気がさしている。今日は疲れたから勉強はやらなくていいや。まずは風呂に入るか…。
「母さん、先風呂はいるよ。」
「お風呂から上がったらすぐに勉強しなさいよ。」
「分かってるよ。」
俺の母、白城祐子四十八歳。この人は自分が学生時代は当時ではまだ学費が高くてあまり人気のなかった地元の私立高校に入学した。今となってはいろいろと勉強ができる人は学費無料になったりするけど、
母の年代で私立に進学した人はあまりいなかったようだ。
この人の口癖は「勉強しなさい。」だ。もう聞きなれてしまった俺はいつもと同じように返事はするが、勉強をすることはない。だって今日は本当に疲れてるんだって。あんなクソ暑い中、外周5周はだめだろ。俺はただでさえ部活前に3周走っているのに…。俺たちをダメにするつもりなのかあの内田っていう人は。今はもう昭和じゃない。令和だぞ令和。
まあ愚痴はこのくらいにしておいて、俺は来週の土曜日と日曜日に高校生になって初の試合が控えている。だから今日は校内戦をした。俺のペアは怜人ってヤツ。俺と同じ一年生。コイツは俺と違って身長が百八十センチもある。俺との身長差は約二十センチ。いや、差がありすぎて悲しくなる。
俺と佐藤はどちらも後衛なので俺らはダブル後衛っていうちょっと特殊な陣形で挑んでいる。基本的にダブル後衛は二人でとにかく粘り相手のミスを待つ。地味な試合になるが勝つ確率は少し高くなる。
そして、今日の校内戦は、、、全敗。練習を自分なりに頑張って来たつもりだったから、ショックが大きい。けれどミスはほとんどなく、試合内容も悪くはなかったから今度の試合はなんとか怜人と一緒にペアを組めると思う。高校初試合で高校初勝利を、そう自分に言い聞かせた。今日はもう寝よう。
誤字・脱字、表現の誤りなどがあるかと思います。温かい目でご覧ください。




