98 差し入れって何を!?
あまり自重せずに勇者を支援しよう大作戦を考えているのだけれど、いくら自重しないとはいえ、まず勇者の人となりを知りたいわけで。そのためにはどうしたらいいのだろう。
とりあえず、あまりこう差し障りないものを差し入れして少しずつ友好を図ってみるのが良いのだろうか。そのうちにお手紙なんかを添えたりなんかして。
そんな風に計画を立ててみる。使えるコネは使ってなんとかこう。
「というわけで勇者は何が好きかを考察する会議を開催します」
小屋でミミとキララに宣言する。
「勇者の?」
「好きなものじゃと?」
ミミとキララがコテンと首をかしげる。可愛いな。
「何か差し入れしてアピールしようと思うのだけど、何が良いかな」
難題である。
異世界に召喚された高校生にアピールできて、かつ多分あるだろう王宮の人のチェックをすり抜けられるもの。
「ルオクドが良いのでは?」
良いこと思いついたという顔をしたキララが言う。なるほど。考えてみる価値はありそうだ。だがしかし。
「ルオクドはとても美味しいお菓子なんだけど、今どきの子が知っているかどうかは微妙なところがあるんだよねぇ」
歴史と実績がありすぎるせいで全世界の人が知っているように思ってしまうけれど、ルオクド、若い子受けはどうなのだろう。
そして、あまりに繊細である。馬車とかの輸送に耐えられるのだろうか。
気温の問題もある。コーティングしてあるチョコレートって暑いと溶けるよなぁ。
それを考えるとチョコレート系は今の季節とても難しい気がする。
「あと、美味しすぎて王宮のチェックが怖い」
そうなのだ。王宮の人にチェック、毒見された場合ルオクドは美味しすぎるしその製法が謎すぎる。ほんとあの薄いクレープ状のくしゅくしゅクッキー生地どうやって作っているのか意味がわからない。この世界で再現できるはずがない。問題がとてもあると思う。
「美味しすぎるとは罪なのじゃな」
キララも納得だ。
「カレーパンは?」
ミミの提案に考える。
確かにカレーは間違いなく刺さるだろう。カレーが嫌いな子はあまりいない気がする。今まで、あ、一人いたか。どうも油脂が多すぎる日本のカレーが苦手らしい。まあ苦手な人もいるだろうけれど少数派ではないか。
「いいね。けど、王都まで運んでもらうとなると時間がかかるよね」
「そっかぁ」
日持ちのしないものは難しい。渡してすぐ食べてもらえるはずもない気がする。
そう考えていくと、差し入れの選定はとても難しいのだ。
便利魔道具として百均家電商品系を差し入れた方がいいのだろうか。LEDのランタンにもなる懐中電灯とか。
だがしかし、多分魔道具師さんのチェックが入るよねぇ。その時に分解されると電池等が出てきちゃうわけで。
「うーん。もうだめだ。考えてたら頭がポーンとなりそう」
悩ましすぎて頭が大爆発だ。考え事に向いてなさすぎる。
んん? ポーンとはじけるもの。
「あ、ポップコーン」
どや。トウモロコシならこの世界にもある。爆裂種があるかどうかは知らないが、トウモロコシ、油、塩でできたものであればこの世界的に問題なかろう。
見た目でわかりやすいし。見た目で何か高校生達にわかってもらえるのも重要だ。
百均でポップコーンの素を買ったことがあるから量産できる。108円で220gはけっこうな量だ。ポップコーンの素、一回買うとけっこう持て余すよね……
「できたてのポップコーン」
ちょっとテンションを上げて言ってみる。できたてのポップコーンは美味しいんだよねぇ。
「なんじゃ?」
「なにかつくるの?」
「うん!」
よし、ポップコーンを作ろう。
フライパンに油を入れて熱する。3円分くらいでいいかな。もうちょっとかな。まあ適当でもいいよね。
油が温まったらポップコーンの素をジャラジャラと50gくらい入れて、塩も入れて慎重に炒める。
あ、キララ。覗き込んでいると危ないよ。
ポン! っと最初の一個がキララめがけて飛んだ。
「ぎゃ!」
今だ。フライパンに蓋をして揺する。
ポポポポンと弾ける連続音にミミもびっくりしている。弾ける音と蓋にぶつかっている音が響く。
「爆発してる……」
「弾けるから危ないよ」
「先に言ってほしかったのじゃ……」
ごめんごめん。
久しぶりでタイミングが難しくて。揺するのに忙しいし。だんだん音が少なくなってきたのでそろそろかな。
火からおろしてもうちょっとゆらす。時間差で弾けるやつがいるので注意だ。
弾けなかったやつと弾けかかったやつは固いんだよなぁ。ガリってなると歯が痛い。あの痛さを思い出して顔をしかめる。昔は歯も強かったから固いポップコーンも美味しく食べていたけれど、年々歯が弱ってきて固いものがつらくなっていたのだった。
でも今はもう食べられるのかな。でも無理はしない方が良いよね。この世界に歯医者さん、あったとしてもなんか怖いから。
蓋をあけるともこもこと白くて香ばしい匂いのするポップコーンがフライパン一杯にできていた。
もわっといい匂いが広がる。うん。良い出来だ。
皿にがさっと盛り付けて、食べるとしよう。
まだ温かいポップコーンは、サクッと軽く香ばしい。白いところがくしゅっと口の中で溶ける。美味しい。香ばしさと塩味。なんともたまらないポップコーンのあの味だ。
外皮のカリカリしたところも香ばしくて食感が楽しいんだね。あ、皮がちょっと歯にはさまった。けど美味しい。油の量もちょうどよかったらしい。油っけはあまり感じずいい感じにできている。
適当だった割には完璧な出来だ。弾けなかった粒が少しあったけれど、そこは仕方ない。
見慣れないのだろう。攻撃されたこともありちょっと警戒していたキララも私が食べているのを見て手を出した。お、お目が高い。タコさんみたいに綺麗に弾けているやつだ。
「おいしいのじゃ!」
サクッと食べたキララが目を輝かす。ルオクドの繊細な美味しさも良いけれどポップコーンの素朴な美味しさもそれはそれで良いものだ。
特に塩味は飽きが来ず、いくらでも食べられる気がするね。
「あんなちょこっとがこんなになるの?」
ミミはポップコーンの増え方が面白かったようだ。だよね。この膨張率とても面白い。少しいれただけなのに、フライパン一杯、あふれそうなくらいできてしまった。
これだけポップコーンがあると、どうせなら映画鑑賞をしたいものだ。
映画館といえば、キャラメルポップコーンも美味しいよね。
塩味をつけてしまったけれど、ちょいと味変するかな。
あれ、砂糖と水とバターで出来てしまうんだよね。
半分くらいをキャラメルにからめて広げて冷ます。
カラメルをちょっと焦がしてしまったけれど、それはそれでちょっとほろ苦いところもあって大人の味だ。
甘くてしょっぱくて美味しい。なんてお手軽で美味しいのだろう。
基本塩と油だけでできるなんて本当にポップコーンは良いお菓子だ。
んん? 油と塩だけでできているお菓子、そういえばあったね。とてもシンプルにスライスした芋を揚げてあるだけなのにめちゃくちゃ美味くて、多分高校生受けもばっちりなやつ!