97 ちょっとしたパーティ 下 まっかと魔王と守りたいもの 第二部完
とりあえず、へび花火がどんな花火なのかはよくわかってもらえたことだろう。
キララも自分のものに点火して、
「にょろにょろの勢いがすごいのじゃ。わらわのやつすごい!」
と驚いている。
ミミのは、すごく上手に点けたのだろうか。垂直にもりもりとそそり立っている。
「もっこもこだ!」
とミミがすごく楽しそうなので良かった。
ジュドさんが慎重に点火したものは何故かすぐにバキバキに折れてあまりうまく蛇状にはならなかった。
記憶にあるより煙がすごいな。辺り一面けむけむになっている。独特の火薬の匂いが立ち込めている。
最後に私が点火したものは、横に伸びだして本当の蛇のようにくねった。
ほんと、ただこれだけなんだけど、なぜか異様に楽しい。
誰のへび花火が一番長く伸びるのかを競い合って遊んだ。
もう一つ10円で買える花火で大好きだったのが煙玉だ。
色とりどりの小さい爆弾のような花火で、火を付けるとなんと!
もくもくと色のついた煙が出る。ただそれだけの花火だ。
そういえば、指に薬をつけると煙が出る、というカードも昔あったような気がする。
子どもって煙、好きだよね。
私は子どもの頃、煙が雲になるのだと思っていた。だから近所の工場の煙突から煙がもくもくと出ていると「ああ、明日は雨になっちゃう」と思ったものだ。
へび花火の煙だけでもすごいことになっていたが、まあここまで来たらやるだけやってしまうべきだろう。
準備してあった煙玉も一人一個ずつ点火した。
五色の煙がもくもくと出る。なんだろうね。ただそれだけなのに楽しいのは。
いやちょっと待って。思ったよりも火が出るなこれ。
「撹乱に使えそうだな」
とジュドさんが考え込んでいる。
煙玉、そういえばゲームとかだと逃走確率を上げたりしたっけ。そんな感じに使えるのかもしれない。
後は色でのろしみたいに連絡するとか? ただ煙玉の煙は上に登っていくというよりは風に漂いあたりに満ちるって感じなのでその使い方は無理かな。でも。
「何かに使えるなら、持っておく? あとこれは完全に私の好みなんだけど」
と渡して、ごにょごにょっとお願いした。
「こうか?」
と煙玉を指に挟んで構えてくれたジュドさん、ノリが良すぎではないだろうか。
やはり指が長いと映えるなぁ。マジックで玉を使うやつがあるけれど、あれ、手が小さいとまず挟むことが難しい。
「おにいちゃん、なんだかよくわからないけど格好いい!」
ルーナにも好評だ。ミミは自分の手をじっと見ている。うん、私と同じくらいの大きさだったらできないと思う。ってミミの手、そこまで小さくないな。
え、てことはもしかして足も大きいの? 背が急に伸びるタイプなのかもしれない。中二くらいでぐんぐんデカくなる人いるから。
さてと、お次は落下傘だ。
昼花火といえばこれでしょう。
小さい頃に海の近くでやった時にはそのほとんどが海に落下してしまった悲しい思い出の花火だ。
なぜあんなところでやったのか。多分水場なので花火に向いていると思ったのだろう。
筒を設置する。
夜ならもっとわかりやすい花火をするんだけどね。
「これはパンっとなってふわってなるのでそれを拾うやつ」
「パン?」
「ふわ??」
「何を拾うのじゃ?」
私の説明はとても伝わりにくいようだ。
「まあ、見ればわかる、と思う」
案ずるより産むが易し? なんか違うな。
着火はジュドさんにお願いし、私と三人が拾いに行く役だ。
「では」
とおもむろに着火にかかるジュドさんを期待の目で見つめる。
シュパーンと勢いよく発射された花火は高く打ち上がって空でパパンと3つに別れた。
うまいこと開いた赤い落下傘がそれぞれふわふわと降りてくるのが見える。
もうこれは本能だろう。落下地点をめがけて三人が走る。
ルーナ、けっこう足が速いな。
「熱いから下の筒には触らないでー」
言いながら追いかける。
一人一個、ちゃんと拾えたようだ。
紙で作られた落下傘。薬莢の部分から焦げ臭い匂いがする。地面に落ちた落下傘はしんなりとくたびれていた。
回収しようとしたら三人から首を振られた。持って帰るの?
いい笑顔で、
「わらわの木に吊り下げるのじゃ」
とキララが言う。なんかそれはおみくじを結ぶみたいな感じに?
吊り下げられた落下傘が風に揺れる様を想像して笑う。
「良い考えだね」
とても良い飾りだ。
花火で遊んで、ちょっとお腹に隙間ができた。
今なら入るかな。
デザートにと思って切って冷やしておいたマクワウリを出した。
マクワウリ、昔50円種で固定種を買ったことがあった。昔から作られていた黄色いウリだ。伝統野菜だ。奈良で栽培が盛んだったとか。
強い野菜なので、かなり放任でもけっこう実る。ただ、実を取っているとどうしてもツルを踏んでしまうのと、勢いが強い分弱るのも早いイメージ。うちではお盆のお供え物まではもたない夏の味だ。
昔、直売所でマクワウリを売っていたら、大阪ナンバーの車の人に、
「まっかやなぁ!」
と言われたことがある。黄色い瓜なので、真っ赤じゃなくて黄色なのにな? と思っていた。
多分大阪では「マクワウリ」のことを「まっか」と言うのだろうと思い当たったのは家に帰ってからだった。なんだかコントみたいだ、と思い返して布団の中で笑った。
そんなマクワウリは、さっぱりとした甘さだ。メロンほど甘くなく、キュウリよりは甘い。たまに甘みがとろいキュウリっぽいマクワウリもある。
ねっとりと甘いメロンも美味しいけれど、このあっさりとした甘みのマクワウリにはマクワウリにしかない良さがあると思う。
畑仕事をしていると、水代わりに休憩の時に切ったマクワウリを食べていた。
この異世界で作ったマクワウリはマクワウリとしてはけっこう甘めだ。
サクッとした歯ざわりの良い果肉と、みずみずしいその果汁。
「うまいな」
気に入ったのか、ジュドさんが勢い良く食べてくれている。
「おいしい」
とルーナも言ってくれているので、こっちでも受け入れてもらえそうだ。
食べ慣れているミミとキララもぱくぱくと食べている。
瓜は身体の中から冷やしてくれるから、夏には嬉しい食材だ。
ねっとりと身体にまとわりつくようだった風が、少し軽くなった気がした。
「お土産に持ってって。マーサさんにも。キララ持ってきてくれる?」
「任せるのじゃ」
置いてあるところにミミと取りに行ってくれた。
楽しい時間はあっという間だった。
煙の匂いが少し服に移ってしまっていて、しまったなと思う。
目をつぶってもらって、布用の除菌消臭スプレーをふわっとかけさせてもらった。
うん、綺麗に匂いが消えたね。
ジュドさんにマクワウリを渡す。
「これ、たまに爆発するから」
そうそう、言っておかないと、と思い忠告する。
「爆発?」
とルーナに驚かれてしまった。
「パーンって」
「破裂するのじゃ」
すでにマクワウリの爆発には慣れているミミとキララが説明してくれる。
中で発酵するのか、マクワウリはけっこう爆発率が高い。もともと熟れてくると亀裂が入るので、そこから一気に吹き出すのだろう。
「気をつける」
ジュドさんが慎重にマクワウリの入った袋を持ち直した。うん、気を付けて。
「またね、サキさん」
「うん。また」
ルーナとジュドさんを見送った。
ミミとキララとざっと後片付けをする。一段落ついて伸びをする。
うーん。
私は、こういう日常が好きだ。できれば争い事にはかかわらずのんびり楽しく生きていきたいと思う。
ある程度の蓄えもできた今、自分だけなら、魔王の危機が迫ろうと、その都度影響の少ないところに移動できればなんとかやり過ごせるのかもしれない。
けれど、この街で少しずつ知り合いが増え、頼る人が増えて、ここは私にとって大事な場所になってしまった。
他のなんのためでもなく、ここにいる私の大切な人たちのためになら少しだけ勇気が出せる。幸いハーカセさんには王城でのコネはあるらしい。
勇者たちを支援しよう。そのために自重はやめよう。適化スキルの影響を受けた千円リピート産出品を活かせば、それを勇者たちに届けられれば魔王を封印する助けになるはずだ。多分、きっと。
さしあたり、同郷だということをまず信じてもらうためには、何を贈ればいいのかな⋯⋯
高校生が好きそうで、王城までの移送に耐えられる賞味期限のもので、不審物チェックがあった時にすりぬけられそうなもの。
難易度高すぎでは?
まあ、いいか。ミミとキララにも相談しながら考えよう。
「ミミ、キララ。頼りにしてるよ」
「なんじゃ急に。わらわが頼りになるのは当然じゃ」
「がんばるね」
ふふ。本当に頼りになる二人だ。もう私は一人ではないし、守りたいものはこの二人だけではなくなってしまった。この二人と、身近にいる人だけでは足らない。とても欲張りになった。この腕ではかかえきれないくらい大きなものを私は守りたいと思っている。だって自分だけ良くてもなんというかこう後ろめたいから。
覚悟するがいい、魔王。
よくわからないけれど、とっとと勇者たちに封印されていただきたい。
そう、私が罪悪感なく生活を楽しむために!
とりあえず、ここで第二部完です。
サキがいきなり放り込まれた異世界でなんとか居場所を見つけるまでが第一部
関わる人達との間に絆が増え、異世界を守りたい、魔王をなんとかしたいと思えるようになるまでが第二部
第三部でやっと勇者たちと協力して魔王問題へ、なのですが、
第三部を始める前に少し休憩をいただきたいと思っています。
ぼちぼち書いていくつもりなので、今後もお付き合いしていただけると嬉しいです。
ブックマークや評価での応援、とてもうれしいです。ありがとうございます。
感想も誤字脱字報告もいつもいつもありがとうございます。
本当に本当に誤字脱字報告、助かっております!
面倒な作業だろうに報告してくださって本当にありがとうございます。
今後もよろしくお願いいたします。