96 ちょっとしたパーティ 中 昼花火
ペットボトルを開けて3人のカップに注ぐ。続いてプシュッと缶を開けてジュドさんと自分のカップに注いだ。
かんぱーい!
ペットボトルと缶をそのまま出してしまったけれど、このメンバーなので問題はない。
シュワシュワと弾ける昔からあるフルーツ炭酸飲料を3人が楽しげに口にする。
「甘い」
「おいしいのじゃ」
「しゅわしゅわいいよね」
私はこのグレープ味が昔から大好きだ。いろんな味が出たけどやっぱりこの炭酸飲料といえばグレープだと思う。
こちらも麦の炭酸を味わうとしよう。そういえばとある友人は「私は穀物を液体で摂取している」と言っていた。麦とか米とかだね。芋も摂取していた気がするので穀物というより炭水化物?
汗ばむ季節にキンと冷えた液体の穀物はとても美味い。
私はあまり注ぐのが得意ではないので、泡が多めになってしまったが許されたい。
ぐいっと煽ったジュドさんの口元に泡のヒゲが付いている。
ふむ、ヒゲも似合いそうだね。
その泡をぺろりと舐めてジュドさんが言う。
「なんだこれは。飲み応えがあってそれでいてキレもあり、喉越しが良い」
いつもより力が入った感想だ。気に入ってもらえたならよかった。
私も飲む。ああ、この味この味。昔から飲み慣れている安定の旨さだ。
伝説の瑞獣のビールも七福神なビールも好きだが、これはなんていうかいつものやつ。
「っぷはー。多分エールの一種かな? やっぱり辛口でスッキリしてて飲みやすいよね。夏はこれ!」
「これが、エール?」
納得できないようだ。
このキレとコクはなかなかこちらにはないのだろうか? まずエールとビールの違いが私にはよくわからない。
ごまかすように枝豆に手を伸ばす。がさっと掴んで小皿にいれてジュドさんにも渡す。
ほら、そこの3人も食べて食べて。
うっま。茹でたての枝豆美味い。我ながら塩が程よい。鞘を潰して口の中にびゅんと飛び込んできた豆を噛みしめる。旨味がすごい。豆の味が濃厚だ。無言で食べてしまう。もちろんジュドさんも無言になった。エールとビールの疑念は忘れたようだ。ひたすら鞘が積み重なっていく。
その合間にビールを飲む。注ぐ。美味い。2人で飲んだせいもあり500mlの缶がすぐに空になってしまった。なぜ水をごくごく大量に飲むのは難しいのにビールだと量を飲めてしまうのか?
しかし、入れててよかったコンビニのアプリ。とあるコンビニのアプリは太っ腹でたまにお酒の無料クーポンや割引クーポンをくれるのだ。
無料クーポンで引き換えたものは買ったことにはならないが、割引きのクーポンで買ったビールは割引後の価格で買ったことになる。割引クーポンをもらった時には無料じゃないのかよ、って思っていた。ほんとごめん。めっちゃ役立っている。
ジュースではしゃいでいた3人も、枝豆を食べだすと無言になってしまった。
カニだけじゃなく美味いものというのは無言を産む時がある。
でも決して居心地の悪い沈黙ではない。
みな食べるために必死なだけだ。
ふふふっと笑えてくる。
炭酸とはあまり合わないかもしれないが、とうもろこしもお食べ。
枝豆欲が一段落ついたころを見計らい、食べやすいようにぱきっと半分に割ったものを手渡す。
どっちの半分が良いかは好みだよね。さきっぽの方が実が柔らかくてかじりやすかったりする。元の方は粒がしっかりしているので粒を外して食べるならこっちが良いよね。一粒一粒ほじって食べたりもする。一列隙間を空けられれば親指で倒して粒が取れるから。
とうもろこしにかぶりつくと、まだ柔らかい皮が歯に当たってぷちりと弾ける。中のジューシーな果汁? ちょっと違う気がするがとうもろこしの甘い汁が口内に広がって、皮の中の実を噛みしめるとまた甘みがサクッとじゅわっと出る。
「あまーい」
「美味しいねぇ」
「美味しいのじゃ」
ほとんどさっきのジュースと同じ感想に笑ってしまう。甘くて美味しい。うん、感想なんてほんとそれでいい。
美味しいとそう言ってもらうためにお野菜を頑張って作るのだし、調理もするのだ。
食べた後、みんな舌をもごもごっとさせている。うん。
柔らかい皮がとても歯にはさまってしまったので、爪楊枝を配布することにした。思う存分しーしーしてほしい。
「この細かい細工はすごいな。まったく同じ精巧な形だ。工芸品だったりするのか?」
と口の端に黄色いとうもろこしの欠片をつけたジュドさんに言われた。爪楊枝の頭のこのギザギザ、言われてみれば細工が細かすぎるね。必要なのは先っぽだけなのに。竹串には飾りはないのに。
「ものすごく日用品で消耗品⋯⋯」
「そうなのか、こんなに細かいのに。サキの出すものには驚きが多いな」
そう言われてしまう。日用品、というか工業品の細やかさと大量生産品の揃いの良さはやはり少し目立つのだなぁ。
その後に出した料理も概ね好評だった。ただ、はじめに枝豆ととうもろこしはちょっと選択をミスった気がする。お腹にたまるよね⋯⋯
ご飯を食べた後はちょっとした遊びをしてもらおうと思ってあらかじめ千円リピートで出しておいたものがある。
そう、花火をしてほしいのだ。
花火といっても、暗くなるまでルーナを引き止めるのはちょっと、ということで昼にやる花火だ。
「これに火をつけるの?」
黒くて円柱状の小さい粒を渡すとルーナがそれをつまんだ。とても不思議そうな顔をしている。
うん、つけてみてほしい。
今はもうあまり見ない気がするのだけれど、昔は花火がバラ売りされていた。
一個単位で買える花火というのがあったのだ。
その中に私が大好きだった花火がある。
正式名称は確かへび花火というのだけれど、子どもの間ではうんこ花火と呼ばれていた。
なぜかこれが大好きで大好きで。
そしてこれ、安かった。一袋20円だった記憶で。検索したら出てきたのだ。
なので、各々に配布してみた。一人最低一回以上遊んでみること。これはノルマだ。
火を付けるのはマッチでいいよね。マッチのすり方をルーナに教える。
こうやってここでシュって。
「これでいいの? あっ!」
ついたね。上手だ。
「サキ、それは?」
「マッチ。火起こしの魔道具?」
魔道具で火を付ける道具はあるそうなのだけれど、魔法で火を付ける人もいるのだそうだけど。マッチの形状のものはないみたいだ。そしてマッチの箱の絵がとても興味深いそう。ある意味ライターの方が魔道具として言い訳しやすいのかもしれない。でもちょっと変わった魔道具として押し通せなくはないらしい。じゃあそうしよう。押し通そう。
ルーナがマッチの火を黒い円柱に近づけると端っこに火がついた。
よし、マッチはこの器の水に入れてね。
黒い円柱から、しゅわしゅわしゅわっと黒いうにょうにょが生き物のように立ち上がり、そしてもりもり大きくなる。
「うわわわ。なにこれなにこれ!?」
ルーナのお目々がまん丸だ。
「きゃー! きゃー! 気持ち悪いのじゃ。うごめいておる」
キララが悲鳴を上げる。でも言葉ほどは気味悪がってはいないようだ。きゃっきゃと騒いでいる。
「ミミもやりたいー!!」
ミミの目が輝く。
「あ、ミミは自分でつけるの禁止で。全体が炭化しちゃったら面白くないから」
ミミが火を吐こうとするのを止める。
マッチ、マッチあげるからこれで。
「黒魔術ではないんだな?」
ジュドさんに警戒しながら問われる。そんな大層なものではない。単に黒いウニョウニョが出るだけだ。
もしかして瘴気が目に見えたらこんな感じだったりするのだろうか。