95 ちょっとしたパーティ 上 ドレスコードと夏野菜
「ミミ、キララお疲れ様。ルーナも本当にありがとう」
もともとヨギモギサシモを増産していたところに追加で菜種増産が加わり、本当に大変だった。
乗り越えられたのは、みんながいてくれたおかげだ。特にルーナの頑張りがものすごく、ものすごかった。
「私、役に立った?」
「立ったなんてものじゃない。本当に本当にありがとう」
立つの最上級はなんだろう。しゅびびんと飛び立つ? ルーナに感謝を伝えたいがぴったりな言葉が出てこない。もっと語彙がほしい。
ありがとうという言葉に精一杯の思いを込めて伝える。
ぱっと、ルーナは明るい笑顔になった。
「みんないろいろとありがとう。今日はなんとかなったことを祝う、ちょっとしたパーティを開催します」
そうみんなにも礼を言う。
ミミとキララが拍手してくれた。遅れてルーナも。ジュドさんはうなずいている。うん。
ルーナだけでなく、ミミもキララもジュドさんにもとても協力してもらった。なのでうちわでちょっとしたパーティがやりたかった。
ほら、この服いつ着ていくの? という服を着ていくというあのちょっとしたパーティである。
まあ、菜の花畑のピクニックとどう違うかと問われたら答えられないのだけれど。
なので今日の私の姿はサリー姿だ。もちろんもどきだけれど。
とてもきれいな青くて長い一枚布を見つけてしまって衝動的に買った。
それを適当に巻き付けている。ほどけても大丈夫。中にペチコート代わりの短パンとタンクトップを着ているから。
昔、愛知の野外民族博物館で着付けてもらった時に思った。日本人とてもサリーが似合う。友人全員似合っていた。
トーガとかサリー系の一枚布をひだをつくってまとうやつ。誰しも一度は適当にやってみたことがあるはずではないかと思う。
家のカーテンにくるまってドレスみたいってやった子ども心を刺激される衣装だから。
寒い時に毛布をトーガみたいに着たりもしていた。着る毛布が出る前は紐で腰のあたりに縛って着ていたものだ。タオルケットでもやった。シーツでも遊んだ気がする。
なので、適当に巻き付けた割にとてもサリーっぽくなっている。着付け動画はみたことあったしね。
キララは初登場の乙姫風の衣装になっているし、ミミもゴスロリ系のドレスっぽい格好になっていてとても可愛い。
ルーナにも可愛い格好をしてきてほしくて、ちょっとしたパーティにおけるドレスコードについて事前にジュドさんに相談した。
そしたら。
「猫族の正式な完全な盛装というと、全身獣化。略装で半獣化で上半身を晒すことになるが人族相手にはやめとけと言われている。祭りの時くらいの装いで良いのだろうか?」
と、少し考える素振りをみせたジュドさんに言われてしまったのだ。
完全獣化見たすぎるのだけれど、話の流れから言って完全獣化は全裸という認識っぽい。まあ確かにそうなのだろう。全裸でおいでいただくのはちょっと。半裸も目のやりどころに困る。
あと多分きっと、獣化したら味覚がそっちに引っ張られる、んだよね。
主たる狙いはルーナだったのだけれど、ジュドさんの装いも大切だ。うーん。
「お祭りの時の格好で人のままで。あとルーナのあの可愛い姿ももっかい見たいのでよろしくです!」
とお願いしてみた。
なので、今日のジュドさんはとても紳士っぽいかちっとした格好をしている。スリーピース? なんかベストを着ている。ベスト良いよね。あれは良いものだ。
胸板が厚いとよく似合うなぁ。
もちろんルーナの可愛さも天元突破である。
お祭りの時は白い羽のように広がる薄い布がふわふわヒラヒラするとてもかわいいドレスだった。今日はそれとはまた違う可愛いドレスを着ている。ノースリーブでリボンが付いている。お姫様みたいに可愛いのでティアラをのっけたくなる。
ドレスの色はルーナの瞳の色に合わせた子猫の瞳のようなけぶる青だ。
私のサリーとおそろいのようで嬉しい。そうか、私がこの布を一目で気に入ったのはルーナの瞳に似ていたからだったのか。
ちょっとしたパーティとは言っても、食べるものはなんていうか野菜中心でパーティっぽくはない。そこはまあ仕方ないと思っていただきたい。
夏野菜がね、採れだしているので消費したかったのだ。
トマトソースやチーズやハムを載せたクラッカーは一応準備してある。これが一番パーティっぽいものかもしれない。あ、ピザもある! ダッチオーブンっぽいやつで焼いてみたやつだ。
あと準備したのが、とうもろこし、枝豆、カボチャ、茄子、トマト、ズッキーニを調理したものだ。
とうもろこし。それは魅惑の作物だ。
黄金色のその実はとても甘くそして歯の隙間にはさまる。食べた直後に笑顔になりたくない食べ物第二位だと思う。一位はたこ焼きだ。
私は夏といえばとうもろこし!
というくらい大好きだ。
とうもろこしを収穫するなら早朝が良い。そして採れたてを茹でるのだ。
茹で方はいろいろあるが、個人的にはシンプルに水に2%の塩を入れて沸騰させる。とうもろこしを投入して10分くらい茹でる。というのが好きだ。
私が好きなとうもろこしの種はミラクルなまでにスイートなコーンだ。
うまく育てると糖度20度以上になるというが、そこまでいかなくても十分甘く育つ。
発芽率が良くないのが問題で、年々種が高くなるのが悩みなのだけれど。
幸い、畑が近い人と種を分け合う前提で2デシリットル購入の履歴があった。
デシリットルってもうあまり使わない単位な気がする。
学校で習ってから、種を買うようになるまであまり見たことがない、気がする。
とりあえず、その履歴があったのでけっこう安く種は買えた。
本当に茹でるだけで美味しいのでたっぷり茹でてある。
枝豆もね、うちが作っていたおつなやつの種を蒔いて育てたら大豊作なので私は嬉しい。枝豆はとても美味しいのだ。たまにカメムシに吸われるとびっくりするほど美味しくなくなってがっかりするけれど。
枝豆は面倒だけど鞘の端っこを切って塩もみしてから茹でる。
塩はとうもろこしよりしっかり効かせた方がおいしい。大体4%くらいかなぁ。
そういえば、野菜の品種の名前にはどうして姫だの太郎だの、兵衛とかちょっと時代がかった名前が多いのだろう。娘とか丸ってのも見る。ちょっとダジャレっぽくなっているものも多くて面白い。
とにかく、夏はとうもろこしと枝豆、この二つがあればもうパーティと言ってよいのではなかろうか。
まあそれだけだとさみしいので坊っちゃんカボチャの肉詰めも作った。本当はかぼちゃプリンを中に入れたやつが作りたかったのだけれど、かぼちゃプリンのレシピは思い出せなかったのだ。
私が一度作った時はカボチャペーストが沈殿して二層になっちゃたしなぁ。
茄子がたくさん採れたので麻婆茄子も作った。これはもう欧米での鶏の鳴き声みたいな麻婆茄子の素を使った。
定価はけっこう高いのだけど、売出しの時の102円の購入履歴があったのだ。
これがあればばっちり味が決まるので愛用していた。
だって、豆板醤や甜麺醤やコチュジャン? あのジャン三兄弟、買っても使い切れないから⋯⋯
あとは適当に夏野菜をぶちこんだラタトゥイユを作ってある。とりあえず夏野菜を入れて煮込めばラタトゥイユを名乗っていいと私は思っている。
飲み物は、お子様用に炭酸のジュース。大人用に麦の炭酸飲料である。
私は「夕立にちょっと濡れちゃったね」というビールが大好きなのだ。ビールってたまに面白い名前のものがある。
猫が名前につくビールもあったよね。
更新不定期となっております