91 ピザが食べたい 中 トマチンの危険性
買ってきたオリーブオイルを鍋に注ぐ。
キララがんん? という顔をした。
刻んだにんにくを入れて炒める。じっくり油ににんにくの風味が移るように炒める。
キララが再度んんん? という顔をした。
キララの顔がコテンと傾いている。
「キララ、どうしたの?」
聞いてみると、
「そのオリーブオイル、ちょっとあれじゃの」
と言う。
「ちゃんとしたオリーブオイルらしいよ」
オリーブオイルが入った容器をキララに手渡す。
オリーブオイルを確認したキララが、
「これにも瘴気がまじっておる」
という爆弾発言をなさった。
えっと、またもや瘴気。ってことは今度こそこれが原因なのか?
というか、このまま調理を進めるのはまずいのか。
どうしよう、といい感じにカリカリニンニクになりつつある様子を眺める。きつね色でうまそう。良い匂いがする。
「不思議なことに、そっちからは瘴気が消えたのじゃ」
と、くんくんと香ばしい良い匂いを吸い込んで、カリカリニンニクを私と同じように眺めたキララが言った。
ニンニクを入れて炒めたら瘴気が消えた?
まあ、そんなこともある、のか?
「とりあえず、これは安全そう?」
と聞いてみると、
「問題なかろう」
という答えが返ってきたので、この問題は一旦置いておこう。
トマトソースを作ってしまおう。
みじん切りの玉ねぎを加えてじっくり炒める。
そこに半分に切ったミニトマトを入れて煮詰めていく。
バジルも入れてっと。
大体、木杓子で線が引けるくらいまで煮詰めたらいい感じだ。この煮詰め具合の確認、する時に『モーゼの海割りってこんな感じ?』っていつも思う。
最後に塩コショウをしてバジルを取り出す。
うん、適当なわりにいい感じにできた。
皮は本当は取ったほうが口当たりが良いのだろうけど、ミニトマトだと数多くて面倒だからね。冷凍したらむくのちょっと楽なんだけど。
気になる人は食べた時にぺぺって自分で吐き出してほしい。
「よし、味見をしようか」
『するー』
と言ったミミが味見のために人化した。トカゲのままでも食べれなくはないそうなのだけど、味覚がトカゲなのであまり美味しく感じないらしい。
どうせならやってみたいことがある。
そう、クラッカーパーティである。クラッカーといってもパンと鳴らすあれではない。もちろん悪いハッカーでも武器でも差別用語でもない。食べる方のクラッカーだ。レッツパーティーだ。
パーティに必須と言える円形のサクサクのクラッカーと、それよりシンプルな塩味の四角いクラッカーを千円リピートで出す。どっちも78円の購入履歴があった。
クラッカーにトマトソースを載っけて、ついでなのでチーズを載っけたやつや、ハムやフルーツも載っけてみる。
見た目がカラフルで可愛い。
ずっとやってみたかった。キャビアとか載っけると良いのだろうけれど、キャビアなんて買ったことがないから仕方ない。厳密に言えばキャビアって魚卵の総称らしいのでいくらもたらこもキャビアなのだろうけど。そういえば、業務用なプロユースなスーパーで300円くらいでキャビアが売っていてびっくりしたことがある。よく見ればあれはチョウザメの卵じゃなくてししゃもの卵であった。
「サックサクのクラッカーに載せて食べるとうっまーなのじゃ」
さっそくトマトソースを載っけたクラッカーをキララが食べてくれている。
うむ。ほんと美味しくできている。クラッカー単独でも十分おいしいのだから、そこにトマトソースが加わればより美味しくなるのが自然の摂理である。
チーズと一緒に載っけたのも美味しいな。
ミミが気に入ったのはシンプルクラッカーの方らしい。そっちをメインで食べている。
こうやって少しずついろんなものを食べるの楽しい。
さて、少しお腹も膨らんで落ち着いたので、考えないといけないことを考えようか。
「キララ、このトマトソースは問題ないんだよね?」
「もちろんじゃ。美味しい! 問題ない!」
と返ってくる。えっと、味に問題がないかどうかじゃなくて、
「瘴気はないんだよね?」
と確認する。
「んむ。問題ない程度になっておる」
「問題ない程度ってあるにはあるの?」
え、食べていいのか?
斜め上を見るような仕草をしたキララが、一つうなずく。なんか知識がダウンロードされたっぽい。
「瘴気は、厳密に言えば基本なんにでもある!」
という衝撃の事実を教えてくれた。
「そうなの?」
とミミも驚いている。
いやいや、私も驚きだよ。
「これといっしょじゃ」
とトマトソースの原材料だったミニトマトを指差す。
「トマチンというのを知っておるか?」
「聞いたことはあるような。青いトマトを食べると危険みたいな」
と答える。
「赤いトマトでも4トン食べると致死量じゃ!」
「そうなの? トマトで死んじゃうの? じゃあこれ食べない方がいいの?」
とミミが驚いている。いや、トマト4トン食べる時点でかなり死んじゃうと思う。
でもまあそう言われてみれば、塩だって大量に食べれば危険である。
瘴気なるものも、微量であれば問題にはならない、ということだろうか。
出ている症状からすると、毒物というよりはホルモン的なものなのかもしれない。
あと、もしかして、量が問題なのかもしれない。
少量ずつ摂取していた瘴気がある一定を超えると症状が出る。
ほら、花粉症みたいな。
「そのオリーブオイルや、こないだの栄養剤に混ざっている量が、つまり青いトマトくらいということじゃ」
と説明された。
なるほど、そうそう死ぬことはないだろうけど取らないほうがいいよねってことか。
でも消えたと言っていたよね。
「ニンニクを入れて炒めたら瘴気が消えた?」
と言うと、
「んむ。面白いほどに薄まってほぼ感じなくなったのじゃ」
とのこと。
なるほど、そういえば、ジルじいの膝に効いたのは多分ヨモギ、ドーンさんの腰とミリアさんの膝には鎮痛消炎剤とまあまあ薬っぽいものだった。
謎の病に効いたのも、命を養う系の薬草酒とキララの実の成果物だったので薬系統が効くのかと思っていた。
けれど、マチルダさんが回復したのは、多分黒ゴマクラッカー、なんだよね。
黒ごまという食品で瘴気が打ち消せた、ということだろうか。
あの黒ごまは確か千円リピートで出した気がする。
今日のニンニクも千円リピートで出したものを増やしたものだ。
「実験しよう」
ここにオリーブオイルがあります。
これを小分けにして、ニンニクをいれる。
黒ごまをいれる。
「どうかな?」
「どっちも瘴気が薄まったのじゃ」
ふむふむ。
ということは。
オリーブオイルは油なので、こないだみんなで作った菜種油。あれも混ぜてみよう。
オリーブオイルに菜種油を加える。
キララに確認したところ、これも問題ない瘴気量になったらしい。
混ぜる量を少なくしていくが、かなり少ない量を混ぜただけで瘴気はほとんど消えるっぽい。
よくわからないけれど、千円リピート産のもので私が何かしらの薬効があると思っているもので瘴気を打ち消せる、ということだろうか。菜種油、脂肪酸バランスが良いって認識がある。
あと、スペシャルなお野菜たちが人気だったのって、体調が良くなった人が確実にいるから、だね。
菜種油を混ぜたことで、このオリーブオイルは使っても問題ない状態になった。
ということで心置きなくピザ生地が作れる。
焼くのは明日の朝だから、早起きをして作るか、イースト量を減らしてオーバーナイトか。
どっちも頑張る?
いろいろ仕込んで今日は早めに寝よう。
明日は朝から忙しそうだ。