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89 甘くて苦くて不思議な味の飲み物

 小屋に帰ってミミとキララに相談した。


「耕すのも、収穫した後の片付けもいっぱいするよ?」

 とミミは言ってくれる。

 土を耕すのはとても楽しいのだそうだ。


「ヨギモギサシモの成長促進は問題のうできる。じゃが実については、そうじゃのう。できぬことはないのじゃが……」

 キララは視線を自分の胸に落とした。


 ああ、そうか。

 あそこまで急速に実ったのは、そして効能がすさまじかったのは、多分私の出した化学肥料イエスポネックスの効果もあったのだろう。

 そして、イエスポネックスでキララの身体はとてもこう、お育ちになってしまった。


 これ以上育つのはちょっと、ということはそりゃあるだろう。

 今でも足元が見えないよね、それ。階段大変だと思う。


 基本的には年一回なるみたいなので、自然に任せると次の収穫は来年だ。

 そうだよね。


 ということで、相談の結果、ヨギモギサシモについての増産はできるだけ頑張る。そしてそれを錬金ギルドに卸す。という方針で。あとカエンさんを通じて流していたお野菜もなんかいい感じだったみたいなのでそこそこ頑張ろうかということになった。


 ルーナに協力を求めるかはちょっと慎重にいきたい。ジュドさんがいれば大丈夫だとは思うけれど、ね。


「薬草用に耕すね」

 とやる気をみなぎらせたミミによって整えられた畝に、ヨギモギサシモを株分けして植えていく。

 ここで私が千円リピートを使って出したのは、植物本来の力を発揮させます! って感じの黄色いパッケージの植物用の活力剤だ。フルボ酸とかアミノ酸とかいろいろ良さげな成分が入っているらしい。まあそれこそ植物用のエナジードリンクみたいなやつ。


 水で薄めて使うタイプなので、書いてある倍率よりも薄めにして全体にまいておく。

 液肥系、濃いより薄めで回数多くの方が良い気がするから。

 活着したら液肥のイエスポネックスも少しずつやっていこう。


 あとはキララに増幅してもらいつつ、育成状況を様子見かな。







 畑でのひと仕事を終えて、小屋に戻った。


 そういえば、マチルダさんからもらった栄養剤がちょっと気になっていたのだ。

 手のひらで包めるほど小さな容器の蓋を取って匂いをかいでみる。


 んん。何やら薬草臭い?

 なんというかこの複雑でちょっと甘い匂い、記憶が刺激される。バニラのような杏仁豆腐みたいな、でも湿布みたいな匂いがする。下宿していたところの近くにあった自販機が脳裏に浮かぶ。あの自販機で売っていたちょっと変わった飲み物。香辛料のお医者さんみたいな名前がついたコーラよりも歴史が古い炭酸飲料がこんな匂いだった。

 初めて飲んだ時に、こんなクセ強な飲み物がこんな普通に売られていていいのだろうか、と思ったものだ。


 あたりにほんわり漂った匂いにキララが興味を示した。

「なんじゃそれは」

「マチルダさんから譲ってもらった栄養剤、らしいんだけど」

 容器を傾けて、ほんの少し手のひらに出してみる。

 サラサラとはしておらず、少し粘度があるというか、まったりとした牛乳みたいな感じだ。


 ペロッと舐めてみると、

「あまっ」

 ねっとりと口内にまとわりつくような甘さを感じた。

 これ、栄養剤ということで、糖分と油分でカロリーマシマシにしているのではなかろうか。

 そして、甘さの中に薬っぽさ、薬草だろうか、苦みというかクセがある。

 甘ったるい漢方薬、みたいな……


 興味を持ったのか、ミミとキララに手を差し出される。

 少しずつ、二人の手に垂らす。


 舐めたミミが舌を出したまま涙目になった。

 ああ、合わなかったのか。

 だよね。これはちょっと人を選ぶ味だろう。


 キララは、目を閉じて口をモゴモゴさせている。

 ソムリエがワインのテイスティングをしているみたいな真剣な表情だ。

 そして、目を見開いて言った。

「のう、これ瘴気がまじっておるのじゃ」

 と。

「瘴気?」

 なんだろう。聞いたことがある単語だ。


 ああ、神様から魔王関係の説明を受けた時にあったやつ。

「薬効も確かにあるから問題にはならんじゃろう、くらいの量じゃがな。わらわには美味しい」


 そういえば聖樹は瘴気を少し吸い取るって話も聞いたような気がする。

 思い出そうとするけれど、あまりこう。ちゃんと聞いておけばよかった。

 瘴気が増えて、そこから魔王が生まれるのだったろうか。


 どうもこの世界、魔物自体は普通にいるっぽい。魔王が出現してどう世界が危機に瀕するのかとかは今までスルーしていたけれど、もうちょっとちゃんと調べるべきなのか。


 いやだって、日本でも、世界では戦争が起こっていた。その影響でじわじわと物価が上がったり、不穏な空気を感じたりしていた。していたけれど私の日常はそこまで急激な変化はなかったのだ。物価の上昇と不況はしみじみ感じていたけれど、ね。

 この異世界でも魔王がいて大変なことになりつつあるというのは聞いていたけれど、実感というのは乏しかった。


「瘴気なら、『封印』ができる?」

 思いついてつぶやく。


 確か封印は魔王と瘴気を封印できる能力だったはずだ。使い方がよくわからなくてさっぱり使っていないが、一応私にも付与されているはず。


 あれ?

『封印』を使ったことは、ある。そういえばロックタートルをなんとかしようとして使ってみたのだった。

 でもあれ、神様の説明とはなんかちょっと使用感覚が違ったような。最終目的が魔王封印なのは確かなのだろう。けれど封印スキルは多分それだけが使い道ではない気がする。


 今までの、翻訳スキルや最適化スキルといい、なんというか、最初の神様からの説明はかなりあやしいというか端折っている気がいまさらながらする。


 あの神様、もしかしてまともに説明してくれてないのではなかろうか。

 それとも、私のスキルの使い方が悪いのか?

 神様的には炊飯器を渡したから米を炊くのだと思っていたら、ケーキ作ったり黒にんにく作ったりしているぞ、あいつ、みたいな感じなのだろうか。

 そして私の理解力にも問題があった気がしなくもない。多分こんな感じだねって思い込みでさらっと聞いてしまったところがある。


 なにはともあれ『瘴気』だ。

 栄養剤にどうしてか『瘴気』という身体に悪そうなものが含まれているという。それなら、街で流行っているおかしな病の原因はこの『瘴気』という可能性があったりするのだろうか。


 でも、この栄養剤、ちょっとお高そうなんだよね。いくら王都で人気とはいえ、老若男女かまわず飲んでいるとは思えない。そしてこの街でそこまで広まっているとも。


 この栄養剤に使われている材料があやしい気がする。薬草のエキスを抽出するのに使っているアルコールあたり、だろうか。

 リガルさんが言っていた葡萄酒の旬とも重なる気がするし。


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― 新着の感想 ―
なるほどーーー!!
そんなことどうでもいいと言われそうですが、ジャストタイミングでペッパー博士を意外な所で発見しました MLB大谷選手の所属するロサンジェルス・ドジャースのロバーツ監督の監督室の机の上にペッパー博士が乗っ…
ルートビア!!ドクペと共に箱買いして絶対に切らしたくないほど大好物です しかし瘴気と来ましたか〜薬効に紛れてるのか?なんだかややこしそうな気配 スキルの使い方が炊飯器で例えられてるのはめっちゃ笑いまし…
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