86 めちゃくちゃ渋い格好良いおじいさま
ハーカセさんにこっそり渡した昔からある滋養強壮剤的な薬用なお酒はとても効果を発したらしい。
ハーカセさんが、
「なんですかこれ。万能ポーションですか……」
って驚くくらいの効果だったようだ。
いやまあ、それ、ありとあらゆる薬草をアルコールに漬け込んで薬効を抽出してあるから、ハーカセさんの言うことも間違いじゃない気はする。
歴史は長いし、愛用している人も多い。生薬の相乗効果すごい。
更年期障害+謎の病のダブル襲撃でひどい目にあっている人を中心に人体実験というか「もしかしたらその症状が軽くなるかもしれないものがあるのですが……」という言葉に飛びついた人に秘密厳守を言い渡して協力してもらったそうだ。
うん、あの意味がわからない肩の重だるさとか気分の重さとかひどいからね。
私は、あまりに肩こりが酷くてひどくて。
今、霊感商法の人に「あなたに悪霊が憑いています」って言われたら信じそうだなって思った。地球の重力が私にだけ増しているような気がしたし、肩に石像が乗っているみたいな気がした。病院に行って症状を語る時に「子泣きじじいにのしかかれているような気がします」って言った。笑われた。笑い事じゃないのに。
年上の従姉は、突然のほてりで暑くて暑くて汗びっしょりになってパジャマどころかおふとんまでぐっしょりになって困っていた。寝汗のタチが悪いところは、めちゃくちゃ暑かったのに汗冷えで今度は寒くてガタガタ震えがくるところだそうだ。
熱くして冷たくしてって鉄を打つわけじゃないんだから、人間相手にやめていただきたい。
あと、むやみやたらとイライラするのが、本当に自分でもコントロールできなくて困る。あまりにもイライラするのでほんと困っていたのだ。あと突然のくよくよ。考えても仕方ないことを考えてどんより落ち込むやつ。
そういえばこっちに来てからそういうあれこれに悩まされることがなくなっていた。適化スキル万歳。
ただ、薬用なお酒、めちゃくちゃ良く効いたのは良いのだけれど、私が出せる量には限りがある。あと、問題としてアルコールなので子どもには飲ませられない。
あ、そういえば、梅肉エキスも私にはよく合っていたのだった。
えっと、梅肉エキスなら、ある気がする。ある気がするのだけど。
「最近は、小さなお子さんにも、広がっていまして……」
困った顔をするハーカセさん。ああ、うん。ためらっていて子どもが苦しむのは嫌だね。
少なくとも梅にはいろんな効能があるだろうし、やらない後悔よりやって後悔した方が良いだろう。
「ハーカセさん。重ねてお願いがあります」
キララもミミも多分賛成してくれることだろう。
帰ってから相談もせずに決めてごめんと伝えたら、
「役に立つならどんどん使うが良い。わらわの分の梅ジャムも出してやると良いのじゃ」
とキララは太っ腹だったし、
ミミも、
「痛いのはいやだから、いいと思う」
と言ってくれた。
結果、梅肉エキスもめちゃくちゃ効果があった。ということは、となってうちの地下室に溜め込んだ、梅酒、梅シロップ、梅肉エキス、梅ジャムも大放出である。
これがもう、なんていうか……
キララの、聖樹の実の威力は凄まじかった……
え、私達とても日常的に食べてたんですけど?
ってなるくらい梅ジャムの効果もすごかった。
子どもたちがすぐさま元気になったと聞けたのはすごく良かったし嬉しかったのだけど。
「もともとあった病気や怪我まで治ってましたね……」
とハーカセさんに遠い目をされた。私も遠い目をして目をそらすしかなかった。
そうして、対症療法ではあるものの、この街に広がったよくわからない病は一旦収束を迎えた。
めでたい。
めでたいのだが。
流石にどうにも、こうにも。いくらハーカセさんが優秀な錬金術師だとして、上級ポーションを作れたとしても、隠れ蓑になってごまかしてもらうにも限界がある。
あと、問題なのは、この街よりも王都の方が病の状況はひどいらしい。
つまり、
「錬金ギルド長のネグだ。話がある」
申し訳無さそうなハーカセさんを引き連れた、めちゃくちゃ渋い格好良いおじいさまにナンパされることとなった。ものすごく好みだけど、ちょっと厄介ごとの予感だ。
「つまり、たまたま凄まじい薬効のある樹の実を手に入れて加工してあった、と?」
「そうなんです。たまたまなんです」
うん、本当にたまたま成っていた実をもったいないから余さず加工しただけ、なのだ。
薬効なんて知らない。梅の実は美味しいからね。そのまま腐らしたらもったいないではないか。
後ろでハーカセさんの眉がへにょって下がっている。そうか。ハーカセさんからしても説明に無理があるか……
「そういえば、薬効の高すぎるヨギモギサシモの件だが、あれもたまたまか?」
ニヤリと笑うネグさんに問われれる。
「たまたまです」
と答えると、後ろでハーカセさんがあちゃあというように額に手を当てた。
これはもしかして、カマをかけられた、のだろうか。
なんていうか、いきなりの問答に私はとても弱い。面接とか大嫌いだった。つまりこう対面だと言っちゃいけないことをうっかり言っちゃうタイプなのだ。
困ってしまった私を助けようとしたのだろう。
「そういえば、祭りの折にとても素敵なヨギモギサシモ染めのショールをしていらっしゃいましたが、あの染めはどなたが?」
ハーカセさんのいきなりの話題変換だ。てか、ハーカセさんにもバレバレですか、そうですか。けっこう化けていたと思うのだけどなぁ。
「あれは、知り合いのジルさんという方に借りたもので」
染めたのは、そういえば、錬金術師だと言っていたような。
『嫌味な奴じゃが腕は良い』
ジルじいの声が脳裏に浮かんだ。