82 菜の花 上 揺すらないでほしい
大きな畑を手に入れたら、やってみたかったことがある。
菜の花畑だ。
菜の花の黄色い花はとても元気をくれる。青空と菜の花。たくさんの菜の花。
それは幸せの風景だと思う。
あと、個人的に二宮尊徳、いわゆる金次郎像のモデルの人の逸話が好きで、特に好きなのが田んぼの端っこかどこかに菜の花を植えて油を絞って夜勉強する時の油を作る話。
あれ、とてもやってみたかった。
そして、今私には広い畑があったりする。そしてミミやルーナやキララに協力してもらえば……
なのである。
問題として、花芽を食べる菜の花の種は買ったことがあるのだけれど、これを実らせて絞ったとして油はとれるのだろうか。絞れる気はするんだけど。
「ミミ、お願いがあります」
真剣にお願いする。
『なあに?』
「菜の花畑を作りたいのでそれ用に耕してほしい」
きゅるりんと目を動かしたミミが、
『任せて!』
とやる気を出してくれる。
あっという間に菜の花畑の畝が完成だ。ミミの耕運機力がすごい。何万馬力なのだろう。
とりあえず、100円分の種を千円リピートで購入して、ミミが耕してくれた一画に種を蒔く。
「ルーナお願い」
ちょうど遊びに来ていたルーナに頼む。もちろんジュドさんも来ている。ルーナは一人で来たいみたいだけどそれを許すジュドさんではないようだ。
「大きくなぁれ!」
ルーナが笑顔でそう言えば、種は芽吹きにょきにょきと育つ。何回見ても信じられない光景だ。
ついでに言えば、カエンさんが見ても呆れていた。「ちょいと規格外すぎないかい……」って。
エルフから見てもちょっと異常っぽい。聖樹のブーストなしでのその力。基本、隠しておいたほうが良いそうだ。だよね。ルーナが有能すぎて誘拐の危険性が爆上がりしている。
「わらわの出番じゃ」
とキララもルーナの緑魔法に加勢する。
ということで、あっという間に花が咲いて実がなるところまで来てしまった。
ほんとチートすぎるのだけど。私の肥料をやる隙がない。元肥として少し混ぜてあったくらいだ。
キララが実った種を収穫してくれる。
さてと、これで種が増えたので、これからが本番だ。
ミミが耕してくれた畑一面に種を蒔く。蒔いている間にミミが種を取った菜花の残渣を片付けて、またそこもいい感じにしてくれた。
これで全面菜の花畑の準備が完了。
種をとるのが目的だけど、あのスピードでは花が楽しめないので、二回目はルーナとキララによくよくお願いして加減してもらった。
おかげで一面の菜の花が楽しめる。
「綺麗だな」
心地よく吹く風に前髪を揺らされながら、目を細めたジュドさんが言う。
うん、本当に綺麗だ。
黄色い花も風に揺れる。一面黄色くて夢みたいな風景だ。少ししゃがみ込んで菜花越しに見る青空がとても綺麗。
国語の授業で習った俳句や詩が脳裏に浮かぶ。ついでに歌も歌いたくなる。
そうだ、ピクニックをしよう。野外で楽しむ食事はすべてピクニックだと思う。
「ルーナ、今日はお外で食べようか」
そう言うと、
「うん!」
と元気な笑顔が返ってきた。
小屋からブルーシートや木箱をジュドさんに運んでもらいセッティングをする。
今日はルーナが来てくれると聞いていたので、準備していた軽食を並べる。
ラリーさんのところで食べたやつが美味しすぎたので、アンさんに作り方を聞いて作った。全粒粉のパンのスライスにチーズとハムと薄切り玉ねぎを挟んだやつがメインである。
あの時よりも全粒粉のパンのもちっと度が上がっていて、とても美味しくなっている。京都で食べたことのあるとても美味しいパンを参考に、千円リピートで出したマーガリンを塗ってみた。
スコーンも焼いたのだ。もそもそするけど、私はスコーンが大好きなので。そこに梅ジャムをたっぷりつけて食べるが良い!
ダッチオーブン的な鉄の分厚い蓋の鍋を見つけたので焼いてみたのだけど、結構いい感じに焼けた。重い蓋っていいよね。
残念ながら、クロテッドクリームはお高いので……
生クリームを固めに泡立てたもので我慢していただきたい。
もちろん咲く前の菜花の蕾もとってある。さっと茹でて鰹節とごまをかけて醤油で食べるのが私は好きだ。菜花は、春の味という感じがしてとても良いものだ。
「サキさん、これ美味しい!」
木箱に座ったルーナが足をばたつかせる。
うむ、いいバタつきだ。これが出たということは本当に美味しいと思ってくれているのだろう。
自分で食べてみたところ、とても美味しくできているように思う。やはりこのスライスした玉ねぎが良い仕事をしている。ハムとチーズもいいのだけど、玉ねぎのこのクセがあるところがなんかいいんだよなぁ。
そして、マーガリンは大正解! なんだろうこのしょっぱさと油分がすべてをなだめてくれている感、すごい。
「すき!」
ってミミからの告白もいただけたので嬉しい。
ぽろぽろこぼれるスコーンと格闘しながら真剣な顔をしているキララ。何も言わなくても美味しいことが伝わってきて笑えてくる。
たっぷりと塗った梅ジャムと生クリームを大きな口を開けて迎え入れるのだけれど、口の端っこについちゃっている。あ、こぼした。
こぼれやすいものを食べるのは戦いだね。多分そのスコーンもかなり活きが良いんだと思うよ。仕方ない。
ジュドさんもいつもながらの高速で口に消えていく技を見せてくれている。ほんと、噛んでる? って思うくらい早い。
合間に口の端がにって釣り上がるので満足していただけているのだと思う。
飲み物は横着して、ティーバッグで淹れた紅茶だ。
業務的なプロユースなスーパーで買ったセイロン紅茶、これが安いのに美味しくて好きなのだ。履歴を見ると123円で買っていた。25パックも入っているのに安すぎではないか。1パック5円しない。
スリランカティーボード認定の印、剣を持ったライオンマーク、信頼できる。
昔、同僚に美味しいティーバッグでの紅茶の入れ方を聞いて、それから私はティーバッグを揺すらないことを心がけている。
それまでは揺すって味と色を抽出するものだと思っていたのだ。その方が早くできる気がしたし。
しかし、揺すって出るのは苦みとか雑味らしい。
触らずに置いておいてそうっとそおっとティーバッグを取り出した紅茶はとても美味しい。
そういえば、フランスマダムのアイスティーの淹れ方、ネットで見たのにやってないなぁ。
一回見ただけなので、詳細を忘れてしまっていることがくやしい。
ジルじいに振る舞ってあげたいのに。
スコーンでもさつく口内には、ちょっと濃い目の紅茶が救世主だ。うん、スコーンも美味しく焼けている。オオカミの口だったっけ、ちゃんとパカッと開いて焼けていると嬉しいものだ。
これ、裏技があって、薄めに型抜きをして二枚生地を重ねるといやおうなく開く。
面倒なのであまりやらないけど。
更新、不定期です……