81 小話 活きの良いそら豆
そら豆ができた!
私はそら豆が大好きだ。
名前の通り最初は空を向いて実るさや。そのさやが充実して垂れ下がってきているものを収穫していく。触った時のさやの固さも重要だ。
「言えばすぐに採ってやるというのに」
キララが笑いながら言う。そして、魔法を使わない収穫を手伝ってくれる。
そうなのだ。キララに頼めば一瞬で収穫できるのだ。いつもお願いしているけれど、自分が食べる分くらい自分で収穫したいのだ。だって、これ大変だけど一番うれしくて楽しい作業だから。
どうやって食べようかなぁ。まずは塩ゆでかな。
昔、小さい頃にそら豆を乾煎りしたひたすら固いやつをボリボリ食べていた記憶が蘇る。あれ、父が大好きだった記憶だ。そしてその話を母にした時に何やら衝撃の思い出話をされたことがあった。
母が小さい頃、そら豆を袋に入れて水着にくくりつけて海水浴をしたのだそうだ。遊び疲れて浜に戻る頃にはほどよくふやけて柔らかく、そして塩味のついたそら豆を食べるのが楽しみだったと。
そんな食べ方ある!?
って思って地域的な独特な食べ方なのかと思って調べたら、ちょいちょい同じような思い出話が出てきて二度びっくり。
そんな風習が各地にあったなんて。すごく面白い。
そら豆、とても美味しいのだけどスーパーで売っているお値段を見るとびっくりする。お高い。
ただ、家庭菜園で育てるにしてもそら豆はお高い! と思う野菜だ。
なぜなら種のお値段が高いから。
計算してみたら一粒40円くらいしてびっくりしたことある。今回蒔いて育てたのもその種だ。なのでそこまでたくさんは植えていない。けれどよく育ってくれたので大豊作だ。
ほにゃらら一寸ってやつがうちでよく買っていたやつ。腰痛になりそうな名前だった気がする。
一寸というだけあって大きな実が取れる。
他に、毎年種取りをしていた赤いそら豆を毎年食べていた。
残念ながら種取りをしていた赤いそら豆は食べることはできない。
ほにゃらら一寸の方も種取りをしていたんだけど実が大きい分、腐りやカビがきやすくてなかなか種取りが難しいのだ。種の乾燥時期がちょうど梅雨だしね。
収穫したそら豆のさやをむいていく。
ここで役に立つのが百均に売っている柑橘類を剥くための便利道具だ。
本当は本家のやつを使いたい、本当にそうしたいのだ。だけど千円リピートの予算の都合上、百均のそっくりさんを購入。
百均で見た時に、めっちゃ似ているけど大丈夫なの!?
って思った品物だ。元のやつもうちには二個あったのだけど予備に買ってしまった。だって柑橘類よく食べるから。そして小物はよくなくすので……
これは柑橘類をむくための道具で、特に大きな柑橘類の薄皮をシュッて切るための道具だ。真ん中にカッターの刃が仕込んであってそれで切るようにできている。
基本柑橘用なのだが この道具を使うとそら豆に切れ目を入れるのがすごく楽にできる。
ネットでその裏技を見た時にすごく感動した。すぐに試してみたら本当にすごく簡単に切れ目をいれることができた。すごい。今まで包丁で頑張っていたあの苦労はなんだったのだろう。
さやから出す時にも柑橘類の厚い皮を剥く方が活躍する。でもまあこっちはさやをひねったりすれば取れるからそれほど感動はない。
とにかく、大きめの柑橘類を食べる家は、一個、この剥くのが便利になる道具。ミミがすごく気に入っている名前のこの道具を買うべきだと思う。
そして、そら豆が大好きな家も、あるといいと思う!
道具の溝にそら豆をすべらせると、一瞬で切れ込みが入る。すごく早い。楽しい。
あまりに簡単なので、ミミにもやってもらった。
「私がさやから取り出すからこうやってシュってしてくれる?」
と言うと、
「わかった」
と無言でシュッシュしてくれる。手早い。むくのが間に合わないくらいだ。
あっという間にそら豆の下処理が終わった。
ほんと、便利道具を使うと早い。感動だ。
できあがったそら豆料理を並べて食べる。
「塩ゆで、最高なのじゃ!」
キララがとてもごきげんだ。
そら豆の塩ゆで、これぞそら豆をシンプルに楽しめて良い。
なんていうか、若めのそら豆はツルツルしている所が良いし、熟しているそらまめはホクホク感があってそこがまた良い。
どっちも美味しい。塩で甘みが引き立つのも良い。どれだけでも食べれそうな美味しさだ。
さやごとじっくり焼いてさやが黒焦げになるくらい焼いたやつも、これはこれでたまらない。なんだろうね。うまいとしか言いようがない。
ミミは、
「このほっくりしているの好き」
と言ってくれる。というか、ミミ、どうやら豆が好きっぽい。
うん、タンパク質が多いからね。もうちょっとしたら枝豆ももりもり食べようね。
私は、そら豆を甘辛く炊いたやつが好物だ。
お砂糖とみりんと醤油で適当に煮付けた、ちょっと甘めの煮物。
この煮物にはホクホクになったよく熟したそら豆が良い。
切れ込みを入れているので味の染みが良くて、ホクホクしたところが煮込まれてほろっとなっているところが美味いのだ。なんていうか肉じゃがの外側のじゃがいもが少し煮崩れて煮汁と混ざったあの部分みたいな感じでとても美味しい。あ、そら豆を肉じゃがにいれるのも好きだ。彩りもよくなるしね。
「美味しいねー」
にこにこ笑いながら食べる。
豆の旬は一瞬なので、豆がとれはじめるとずっと豆づくしになる。
でもそれが楽しい。飽きるまでそら豆を食べられるのってすごく幸せなことだ。
そういえば、そら豆のお歯黒のところがなぜ黒いのかという昔話、大好きだったな。
よくよく考えるとちょっとシュールなお話だったけれど、そら豆がパチンと割れ目ができちゃうくらい笑って、その割れ目を黒い糸で縫ってもらったというそのお話が小さい頃、妙に好きで好きで、そら豆の黒いところを見るたびに、すごく太くて黒い糸で縫ったんだなぁと思っていた。
そんなことを思っていると、ミミがそら豆を食べそこねて落としてしまった。ころころと豆が転がる。
「ああ、活きが良かったんだね」
そう言って拾う。
「ごめんなさい。活きが良い?」
とミミに言われる。
ああ、うちでは食べ物をこぼすといつも「活きが良いから仕方ない」と言っていた。
「またこぼした!」って言うよりなんていうか面白いから。
食べ物がこぼれたんじゃなくて、活きが良くてはねちゃったから仕方ないのである。
「そら豆が活きが良くてぴちぴちだから跳ねちゃったんだ、ってことだよ」
そう笑っていう。
「おもしろいのう。もうゆだっておるのに」
そう言ってキララも笑う。
「なるほど。採りたてだもんね」
ミミも納得のそら豆の活きの良さ。そら豆を落として少し落ち込んでいたミミが笑ってくれて嬉しい。
そうそう。豆が転がったのだから、ここは笑うべきなのだ。あれ? 転がると笑うのは箸だっけ? まあいい。
パチンと割れるくらい、みんなで笑おう。
私は縫い物がとても下手だけど、ね。