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78 夏祭り 3 とろっとろのもつ煮込み

 そうして迎えた祭りの日。


 私は今はいつもの恰好だ。ダボッとしたズボンとシャツ。少し厚めのベストで体型をごまかし、髪は帽子に入れ込んでいる。


 夕方ジルじいさんの家で祭り衣装に着替えさせてもらうことにしたのだ。


 夕方に合図の鐘が鳴ると、できるかぎり何かしら顔を隠すものをつける、というしきたりなのだそうだ。なのでそれに合わせることにした。


 顔を隠すものを持っていない人は髪をぼさぼさにして顔にたらしたり、シャツをかぶったりもするらしい。

 つけられない人や子ども、あと別に興味がない人は素顔でも問題なし。


 祭り衣装に趣向を凝らす人もいれば、普段着の人もいる。日本の花火大会で浴衣を着る人、着ない人、みたいなものだろうか。





 まず楽しむべきは昼の屋台だ。

 ミミとキララと抱えてきた花束を広場の柱に飾る。もうすでにいっぱいの花が飾られていてとても綺麗だ。

「綺麗だねー」

 とミミが言う。


 うん。うちのひまわり。とても見栄えがしてよい。黄色い色は元気になる色だ。

 納品先の花屋さんも喜んでくれていたとミリアさんから聞いている。


「わらわも飾るのじゃ」

 と、キララは自分の梅の花の一枝を手の届く限りの高いところに飾った。

 目の錯覚かもしれないが、少し発光しているように美しいピンクの花だ。

 

 ミミとキララの今日の服装はおそろいだ。この地方の伝統的な衣装で、私も着替えたら三人でおそろいな感じになる予定。どうも変化する時に衣装は好きにできるらしく、お洋服代が必要ないというのはちょっとうらやましい。


 この広場は、普段から屋台が出ている。そう、ジュドさんと初めて会った時の肉の串焼きも屋台のような常設の屋台。そういういつものお店は広場の良い場所にいる。今日の広場には普段出ていないところにも屋台がぎっしりだ。


 そういえばあの串焼きの肉、マーサ牛と言ってなかっただろうか。マーサさんのお名前って牛から来ていたりするのだろうか。ただの偶然かな。ご両親がとても肉好きだったりしたらちょっと面白いけれど。


 屋台を見ていると、なんだか、京都の有名な神社の境内を思い出した。公園と繋がっていて枝垂れ桜が有名なところ。

 いつでもなんらかの屋台が出ていた記憶。そしてお正月やお祭りの時は屋台が増える。

 あそこにはずっと昔に見世物小屋があったような気がする。

 蛇おんな、大イタチ、みたいなべたなやつ。


 こちらにも見世物小屋みたいなものがあるのだろうか?

 そう思っていたら、

「テイマーギルドによるテイムできる可愛い魔物展でーす! ふれあいもありまーす!」

 という呼び込みが聞こえてきた。

 あの声はテイマーギルドのミィールさんではなかろうか。


 ものすごく気になるけれど、ミィールさんにミミとキララをじっくり見られるのはまずい気がする。


「待ってるよ?」

 と言ってくれるけれどこの人混みだ。はぐれてしまうのは嫌だ。

「今はいいかな。あっちの方を見よう」

 あっちの方からなんだかいい匂いがする。


 ニンニクとトマトだろうか、なんとも食欲をそそる匂いだ。


 匂いに案内されてたどり着いた屋台には大鍋がぐつぐつと煮込まれていた。

 鍋の中身は玉ねぎと根菜っぽい野菜と共に煮込まれた肉、だろうか。赤いのはトマトの色なのか、ワインっぽい匂いもするので赤ワインも入っているのかもしれない。


 鍋の横にある板に雑に書かれた文字を見つめる。


【もつ煮込み】


 もつ煮込み!?

 私の中のもつ煮込みは、土手煮みたいな味噌で濃い味付けのやつだ。


 でも、こっちには味噌がないか、もしあったとしても手に入りづらいのだろう。ということでこれは多分、モツのワイントマト煮込みだ。


 見るからによく煮込まれたそのお鍋にさじを入れてかき混ぜているのは、魔女みたいなかぎ鼻のおばあさんだ。


 愛想なく黙々と木の実の殻の器にもつ煮を注ぎ、客に渡している。


 お代は前のカゴに客が勝手に入れていくスタイルだ。


 私が代表で列にならんでゲットしてみた。


 熱々のモツを添えてくれてある短い串を使って口に運ぶ。

「あつっ!」


 うわっ、これは……

 熱くとろけるようにうまい。濃厚な旨味が口の中に広がる。

 トマトの酸味と赤ワインの渋みの中に、臓物の癖がほんのわずか残っている。だが、その癖は別に嫌なものではなく味わいとなっている。

 煮こまれてとろっとしたモツは歯がいらないほどの柔らかさだ。

 一緒に煮こまれた玉ねぎの甘みが強い。一緒に煮こまれていたのは、これごぼうだ。うっま。知らず満面の笑顔になる。酒が欲しい。真剣に欲しい。だがまだ昼間だ……


 一つの椀を三人で分けあった。

「うまいのじゃ」

 口の端を汁で赤くしたキララが笑う。


「赤いけど辛くないね」

 と辛くないけど美味しいと満足げにミミが目を細める。


 人を笑顔にさせるうまさ、すごい。なぜこんなに美味しいものをあんなに不愛想に作れてしまうのか。味見したら笑顔になっちゃうだろうに。


 ふう、美味しかった。

 分け合うといろいろ食べられて良いよね。


 次はあっちのガレットみたいなやつを食べよう!


 アンさんとラリーさんも出店をするって言っていたから、カレーパンの祭りバージョンもゲットしにいかなければ。


 可愛い小物も売っているし、おみくじみたいな屋台もある。あの卵売り、なんだろうね。様々な色の大きさもいろいろな卵が並んでいる。夕方にそなえてだろう、仮面がいっぱい売られた屋台もあって見ているだけで面白い。

 骨董品だろうか? よくわからない古そうなものがごちゃごちゃっと並べてあるお店もある。


 キララが欲しがった焼き菓子を買い、ミミが欲しがったダンベルみたいに重い置物を買う。

 私は、なんだか気になったすべすべの綺麗な石を買った。あっちでいうラブラドライトみたいな石で角度によってメタリックに光るのがミミみたいだな、って思ったのだ。


 お祭りっていいなぁ。

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― 新着の感想 ―
(商品)が売られている。 という書き方をされていてスムーズによめまし、好感が持てます。 最近(商品)が売っている、と書かれる方や話される方がいらっしゃるのに違和感を持ってしまうので。
京都の神社は八坂神社でしょうか?確か30年位前に見せ物小屋が有ったと聞いた事が有ります。
トマト系モツ煮込みでしたら「トリッパ」が近そうですね…ワインが飲みたくなる味ですよねぇw
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