7 日銭を稼ごう 初仕事は台所掃除
「討伐、調査、採集等外に出てのものと、農場等での作業、街の中での作業等がありますが、どの系統がよろしいでしょうか?」
マチルダさんに聞かれて考える。危険度は低い方が良い。
「農場か街の中で。できれば日払いのものを」
こちらで使えるお金が欲しい。
「それでしたら今日出ているのは、収穫作業、草取り作業、伐採作業、倉庫の片付け、家の掃除、溝掃除、荷運び、工場作業、資料整理ですね」
けっこうある。
どれがいいのか。伐採と荷運びはきつい気がする。
どれも基本的に出来高制で、依頼主が作業をチェックして完了となった分の支払いとなるそうだ。
「ここから近いのは?」
選べないので立地で絞ろう。
「倉庫の片付けと家の掃除ですね。どちらも近所です」
その2つだったら家の掃除、かな。
「家の掃除について詳しく教えてほしい」
「はい、これはジルさんからの依頼です。ご高齢で家事の負担が重くなっているそうで、手が回らないところの掃除をお願いしたいというものです。報酬は3000ゴルドです」
安いのか高いのかがさっぱりわからない。
「ちなみに、ギルドで新人支援のためにやっている雑魚寝部屋の宿泊料金が500ゴルド、簡易個室だと1000ゴルドです」
マチルダさんの説明ありがたい。これは多分ものすごく格安宿泊料金なんだろうな。ってことは多分1ゴルド1円くらいで考えて良さそう。
報酬、3000円かー。
掃除なら多分できると思う。
「この依頼を受けたいと思う」
「了解いたしました。手続きします」
少し待つと札を渡された。
「この依頼票を持って、こちらの家に行ってください。赤い屋根のお家なのですぐにわかると思います。作業後にジルさんからサインをもらって窓口まで提出をお願いします」
地図を広げて場所を案内された。なるほど、これならギルドから近い。
迷わず行けそうで良かった。
「ありがとう」
マチルダさんにお礼を言うと、にこやかな笑顔を返された。
迷子になることなく、たどり着けた赤い屋根の2階建てのお家。玄関から呼びかけると、中から応える声がした。
そのまま中に入って行って良いらしい。
ドアを開けた。
あっ、おばあちゃんの家の匂いだ。
小学校のころ、通信簿を見せに行ったおばあちゃんの家の匂い。なんとも言えない、枯れ草のような匂いとお線香と生活臭が入り混じったあの匂い。
玄関すぐの部屋から声が聞こえるのでそちらに向かう。
うん、ちょい汚部屋だね。ものすごく驚くほどではないけれど、程よく物が堆積している。
声が聞こえる方を見ると、ベッドを中心に半径2メートル以内で過ごしているのだろうなというご老人がいた。
わかる。手の届く範囲にいろいろ置くよね。巣みたいになるよね。
「冒険者ギルドから依頼を受けた、サキ、です」
依頼票の札を示す。
「ああ、やっと来てくれたのか。台所の掃除をお願いしたいんじゃ」
おっと、この部屋の掃除じゃないのか。
ゆっくりとした動作でベッドから降りたおじいさん? が足を少し引きずりながら隣の部屋に案内してくれる。この人がジルさんだろう。
台所は、うん、けっこうな状況だ。ゴミや食器や鍋が積み重なっている。
懐かしいな。私も1回この状況になったことがある。放置した大根にいつの間にか花が咲いていたなぁ。
自分が汚部屋だったから知っている。これを片付けられるかどうかは、
「一つ聞きたいことが。モノを処分することは?」
どれくらい捨てられるかにかかっている。
「あー。使える物は置いておきたいんじゃが……」
やっぱりか。そうなんだよね。お年寄りほどこの傾向が強いんだけど、使えるものを捨てることに抵抗がある。
でも、ここまで物が多いと捨てないと多分片付かない。けど、本人の納得が必要なんだよな。
「明らかにゴミだと思うものは捨てても?」
「それはまぁ」
よし、言質は取った。
じゃあ、はじめますかね。
マスクと手袋をして準備完了。
まず明らかなゴミを捨てる。ゴミだと思うものは捨てる。
みるみるうちにカゴがいっぱいになる。
これだけでもすっきり感が出てくるし床面積が多くなった。
カゴの中身は一応後で捨ててもよいか最終確認してもらおう。
ゴミを捨てるだけでけっこう変わるんだよね。
見えてきた床をざっと拭う。どうせ後からまた掃除だからここはざざっとで良い。
その後は、洗い場の皿や鍋を洗う。
水はなんかしらないけど出るので助かる。これは本当の水道なのか、なんか魔法的なものなのかは不明。
あ、これ水だけじゃ無理だ。食器用洗剤欲しい。買おう。
千円リピートを発動。
食器用洗剤なら特売で買ったことあるでしょ。
詰替え用670ml248円。多分もっと安く買ったことあるはずだけどもうこれでいいや。
これグラム単位じゃなくて、10円分とか買える?
おっしゃ、いけるのね。
じゃあ、とりあえず5円分この器に。
さすが泡立ちが違う。よく落ちる。
なんだかハイになってきた。
テーブルの上の食器と鍋も洗って、食器鍋類をテーブルの上にかためる。
鍋も皿もいっぱいあるなぁ。
収納から物を出す。全部出す。
ゴミ、食器類、食料品調味料、台所用品、その他にざっと分ける。
お金や貴重品と思われるものも出てきたのでそれはそれ用の箱を用意して入れていく。
ここで、悲しいお知らせが。
塩と砂糖っぽいものの在庫があちこちから出てきた。
全部合わせると塩とかもう多分今後買わなくて良いくらいある。
ストックが過剰になるのもご老人あるあるだけど、それでもここまで備蓄できるってことは、
お塩のお値段、そこまで高価じゃないってことだね。
お塩とお砂糖でがっぽり計画は無理かー