67 新作パンを考えよう 4 無双をしたのは
カレーパンはどれもめっちゃうまであった。
なんかもう生地がどっちかとか、焼いたか揚げたかとか問題じゃないくらい具が美味い。
どの生地、どの調理法でもうまい。
え、何これ。
マーサさんすごすぎない?
私のあの適当な指示でなんでこんな美味しい、パンにめちゃくちゃ合うドライカレーができるのか?
使っていたスパイスも三種類? 四種類? くらいだったのにこれはもう完全に、めちゃうまカレーなのでは?
かなり濃い目の味付けで辛さもそれなりにあるのに、玉ねぎの甘さの懐が深い。カレーフィリングとパン生地と一体化して口内で最終調理が行われていい感じになるやつ!
うっまーーーい!
あえて頑張って違いを探すなら、揚げてある方が具とパンの空洞が少なくて食べやすい。生地がふっくらもっちりしていて湯種生地うまい。
あと焼いてあるのは、これはこれでカリッと香ばしく焼けた皮の食感がたまらないし、かぶりついた時にうにっとはみ出す中のカレーが焼かれることによってさらに旨味が凝縮している気がする。うまい。
「からーいけど美味しいの……」
ってルーナが涙目になりながら食べている。
辛いのに食べるのがとまらないらしい。
「これはいいな」
うっとりと目を閉じたジュドさんが、摘んだ手についていた油とルーを名残惜しげにペロッと舐めた。行儀悪いけど気持ちはわかる。
「焼き込みパンの革命じゃ!! いやこれ揚げてるんか???」
混乱中のジルじいさん。
「ちょっと辛くしすぎちゃったわねぇ。あとは固さもまだ要改良ね。水を入れないで全部トマトにすべきかしら?」
食べながらうーんと考え込むマーサさん。これ以上美味しくなるのだろうか……
「美味しい! 美味しいけれどこの具、私だけで作れるかな……」
アンさんは食べながらがブツブツつぶやき出した。
調理工程を間近に見ていても謎な旨さらしい。だよね……
「パンを、揚げる…… 焼かずに揚げるとこんな食感に?」
あ、パン生地を揚げるという発想が多分なかった、やつですね。ラリーさんも考え込んでしまった。具材の旨さに惑わされずにあくまでパン生地を味わっているの、とても職人っぽい。すごいね。
パンと言えばパン窯で焼くというイメージがある。石窯は薪が沢山必要だ。
良い油が贅沢に必要とはいえ、大量の薪を使わずに作れるのは、利点と言えるのだろうか?
あ、聞いたら魔道具のオーブンもあるのだ。しかしラリーさんは石窯にこだわっているらしい。
えっと、イーストドーナツについて話すのは今度でいいかな……
あと、私が好きなのはパン生地をゆでてから焼くベーグルなんですけど、これもまた今度でいいよね……
なんだか、私が知識チートをして、ドライイースト無双をすることになるのかも? と思っていたのに。
蓋を開けたらマーサさんのお料理無双である。
マーサさんがすごすぎる。そしてそのマーサさんを連れてきた私もきっとすごいのである。うん。
連休最終日なので、現実逃避用に短いですけど書けたところまで置いておきます。
あと、少し前にまったく別の短編も書いてますので、もしお時間がありましたらそちらもよろしくです。