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62 梅仕事 中 備忘録として置いておきます

 錬金ギルドの副ギルド長のハーカセさんにご丁寧な挨拶をいただいてしまった。


「いえ、こちらこそ割の良い依頼でありがたかったです」

 うん、美味しい依頼であった。

 仕事ぶりを認めてくれたのも素直に嬉しい。


「とても品質の良いヨギモギサシモをたくさん採ってきていただけて、本当に助かったんです」


 言われてみれば納品依頼が出ていた量よりもかなり多めに採ったような気がする。最低これだけは欲しいという依頼だったので、多い分には問題なく買い取ってもらえる依頼だったのだ。


 だってヨモギってゆでるとシュンっとなってかさが減っちゃうから。

 あればあるだけいいんじゃないかと思いながらいっぱい採った。


 なにやら緊急依頼に近いポーションの納品依頼が王都の方からあったらしく、そのポーションに必要な薬草だったのだと。

 それはお役に立って良かった。

 王都という事は王城があるところだよね。王城、か……


「今日は砂糖やアルコールをお買い求めとか。もしよければ私の枠を使いませんか?」

 言われて意識をハーカセさんに戻す。

「枠を?」

 枠って何?


「ええ、お得に買えますよ」 

 ハーカセさんがにっこり笑って勧めてくれる。


 錬金ギルド会員の割引は階級によって使える枠が決まっているそうで、副ギルド長ともなるとその枠が余りに余っているらしい。


 従業員割引が使える友達に代理購入してもらう感じ?


 会員割引の不正使用にならないのか心配になるけど、副ギルド長が良いって言うなら良いのだろう。


 一応聞いてみたら良いらしい。錬金ギルドによる福利厚生の一種みたいで、駆け出しの錬金術師は、この割引制度を使って錬金ギルドの商品を人に売って利ザヤを稼ぐのもありなのだそうだ。


 ただ、やりすぎると腕を上げるための自分の修行用素材が安く買えなくなってしまうのでそのバランスが悩ましいらしい。

 錬金術の練習、お金かかりそうだもんね……


 高レベルになると割引率も枠も増えるけれど、ちまちま利ザヤで稼ぐよりも上級ポーションを作った方が当然ながら儲かる。だよね。

 なので枠が余るのだそうだ。


 あまり人には言わないでくださいね、と教えてもらった高レベル錬金術師向けの割引率、すごい……

 そりゃあ、錬金ギルドだっていっぱい材料買って高く売れるポーションを作って納品してほしいもんね。わかるよ、わかるけど……

 日本でも多分大口顧客や高額取引顧客に示される割引ってすごいんだろうなぁと遠い目をしてしまった。


 割引率に目がくらんだ私は、ありがたく枠をお借りして、砂糖もホワイトリカーっぽいアルコールも漬けこみ容器も買わせていただいた。この際なので少し高めだったけどガラスの容器も少し買う。陶器のころっとした小さめの容器も、スライム蓋も、蝋引き布の蓋も買った。買ってしまった。油も扱っていたので買った。


 だって、ほとんどは腐るものでもないし、お安いんだもの!


 お得に弱い。つくづく弱い。ヨモギっぽい薬草の納品依頼料、還元した気がする。


 お金ってこうやってめぐっていくものだよね。


 てか、このハーカセさん、やり方が上手いなぁ。


 ハーカセさんは枠を貸しただけで、自分のお金を出しているわけではない。なので申し出を私も受けやすい。それでいて恩を感じるので、もしまた依頼があるなら優先して受けるだろう。

 錬金ギルドとしては割引して売ることになるが、その分いっぱい買ったし、どの道、割引分は福利厚生費として織り込み済みのはずだ。


 自分の懐を痛めず、良い薬草を採ってくる冒険者との縁はしっかり太くするそのやり方、嫌いじゃない。


「ありがとうございました」

 笑顔でお礼を言う。

「ええ、またよろしくお願いしますね」

 ほやっとした笑顔で言われたけど、かなりおできになる人、だよね。






 ちょっと買いすぎた。ので重量も大きさもけっこうなことになってしまった荷物の大半をミミはひょいっと軽く持ってくれた。

 見た目は細いのでびっくりする。どこにそんな筋力が?

「ミミ、ありがとう。重くない?」

「重くないよ?」

 ありがたい。これだけの荷物、私だけだと運べないし、ストレージを使うにも街中だと不自然に消えるのを見られるリスクが高い。


 キララが持ってくれているのはスライム蓋とかの軽い荷物だ。

「キララも重くない?」

「大丈夫なのじゃ!」

 ミミもキララも余裕だというので、もうちょっとだけ食料や日用品を買い物して小屋に戻った。

 ほんと今日はついてきてくれて助かったな。一人だったらこんなに戦利品を持ち帰れなかった。







 ということで、梅仕事の続きである。

 できればざっとでいいから重さをはかりたい。

 なので簡易的なさおばかりを作ろう。

 木の棒と紐と、ものを乗せるかごとおもりがあれば、まあなんとかなる!

 小屋の梁にひもを通して棒をつるす。一方の端っこにひもでかごをつけ、反対の方に動かせるおもりをつるす。

 とりあえず1㎏を計れればいいので、ペットボトル500ml2本をかごに入れ、棒が平行になる位置におもりを動かして印をつける。また使うことあるかなぁ。一応500gのところにも印をしておこう。

 これで1㎏と500gは計れるはず。


 梅1㎏に対してお砂糖は1㎏くらいが好み! 甘いのが好きなので!

 基本は、梅、砂糖、アルコールは、1対1対1.8だ。


 買ってきたお砂糖と梅を交互に入れてアルコールを注ぐ。

 蓋をして、あとは様子を見てゆすれば良い。スライム蓋めっちゃ便利。ちょっと伸びてぴたってなる。

 小さいころ、瓶をゆするのは私にまかされたとても重要なお仕事だった。段々氷砂糖が溶けてまったりしていくのを楽しく見守ったものだ。


 梅シロップはお砂糖と梅だけでできる。ちょっとお酢を入れた方がいいっちゃいいけど。

 こっちは氷砂糖で作ろう!

 やっぱり梅仕事には氷砂糖という認識が強い。

 千円リピートで出した氷砂糖と梅を交互に入れていく。


 私は甘めが好きなので梅シロップには梅と1対1よりやや多いくらいお砂糖を入れる。

 ダイエットを意識している時は少し減らすけど。

 保存のためにも砂糖と塩はケチらない方がいい派だ。


 梅干しも口が曲がるほどしょっぱいやつ、好き。

 塩鮭も小さい一かけらでご飯がいっぱい食べられるやつが好みだ。


 氷砂糖を一粒ずつ、ミミとキララにも渡してしゃぶる。

「あま~いのじゃ!」

「固いね」

 飴系、すぐに噛もうとする人、いるよね……


 うん、氷砂糖は甘くておいしい。

 賞味期限もないし、暑くてもべとつかないので私は氷砂糖を車に積んでいた。非常持ち出し袋にも入れていた。どうも賞味期限がある非常食は入れ替えを忘れてしまうので……


 梅酒や梅シロップは氷砂糖で作る方がゆっくりと溶けるから浸透圧の関係でしわになりにくいとか聞く。

 しかし、実験した人のブログを見たことがあるのだけど、上白糖でも氷砂糖でも仕上がりに差は感じなかったらしい。

 しわになるかどうかはお砂糖の量の方が関係深いそうだ。


 こういう実験をしている人、大好き。スコーンの材料比を変えたり焼き時間を変えて実験している人のブログも食い入るように読んだことがある。


 パンを薄力粉で焼く人のブログとか、世界のパンを家庭で挑戦した記録のブログも大好きだった。


 砂糖シティーズが消えたことによって、いろいろな情報が消えてしまった。


 無料ブログサービスもどんどん消えつつあるから、もっともっと貴重な情報が消えていくのだろう。

 ただの日記みたいなのも好きだけど、あれがなくなると困ると思っていた。


 あれですよ、あれ。


『ノートパソコンのHDDを交換したので覚書しておきます』

『〇〇やっていたらブルースクリーンが出た時にやったこと。記録です』


 みたいなあれ。


 あれがあるから詳しくない私でもいろいろできていたのに……

「備忘録として置いておきます」「覚書です」「自分のための記録です」「TIPSです」にどれだけ救われてきたことか。




 とりあえず、梅酒と梅シロップの仕込みは終わった。


 でも、いっぱい買い込んできたのでお砂糖もアルコールも容器もある。


 そして、梅の実はまだたくさんなっているのだ。


「キララ、ミミ、また、お願いしていい?」

「もちろんじゃ!」

「へた、取るよ」


 んふふふ。


 追加で梅酒と梅シロップを漬けて、梅ジャムも作って、梅肉エキスも作ろう!!


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― 新着の感想 ―
わかるぅ 個人サイトは次の瞬間に消えてることもある 画像もテキストも、感動した瞬間にローカルに保存しないと
職業としてイラストレーターしてる時も、趣味でイラストを描くときも大体飴を舐めてます
若い錬金術師のライフハック的なのは、お金の使い方、商品の流れ方、あとは人との関わり方を学べる良い制度だね。そうやって少しずつお金になるノウハウを学んでいく。まさに錬金だなと感じた。直接金に変えるのか、…
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