58 こぼれ話 中二病の後遺症
こぼれ話です。
前の話とは繋がっておりません。
ロックタートルを倒した後、第三章の前くらいに入る話です。
すごく報酬の良いお掃除依頼がある。
ただ、なんというかマチルダさんの様子がちょっとおかしい気がする。
「あぁ……。こちらの清掃依頼ですね。本当にお受けになりますか?」
いつもの完璧な素敵な笑顔なんだけど、なんかちょっと。
でも報酬が良い。
お金に目がくらんだので受けることにした。
空き家のお掃除だ。
現場についた。
これはかなり、なんていうかその、雰囲気のあるお家である。
見た目はあれだ。蔦が絡まった小洒落た洋館。
屋根にはカラスみたいな黒い鳥が数羽、とまっていたり、旋回しながらギャーギャーいっている。
今日はお天気が良いのに、なんでこんな薄暗く感じるのだろうか。
鍵を預かっているので鍵を開けて中に入る。
ほこりっぽいよどんだ空気を感じる。カビっぽい? なんか変な匂いがする。
人が住まない家は傷むのが早い。床板がギ~っときしむ。
とりあえず、窓を開けて風を通そうと開けられる窓を開けていく。
新しい空気が入るだけで気分が少し良くなる。
さて、お掃除。
どこからすべきか。
一人で一軒まるごとお掃除はとても大変に思える。
だが、お掃除が大変なのって主に、気を使わないといけないもの、よけないといけない物が多いから、だったりする。
このお家はこまごまとした物がほとんどない。
大型家具はあるが、物が少ないのでお掃除自体は楽そうだ。
依頼自体、そこまでピカピカにしてほしいという感じではなく、空き家が傷まないように風を通して気になるところがあればざっと掃除してほしいという、なんていうか、この内容でこの金額なの?
というやつだ。
楽勝なのでは?
と思いつつ、まずは上からホコリを落として、ざっとはいて、それから、拭き掃除かなぁと計画を立てていると、バタンと音がした。
風で窓が閉まったのかと見に行くと窓は開いたままだった。この部屋じゃなかったのかな?
そう思った時に、また、別の部屋からバタンと音がした。
見に行くが、これまた窓は開いたままだ。
なんだろう?
まあ、そんなこともあるよね。
よし、掃除しよう。
聞いていた通り、ある程度の掃除道具は物置にあったのでありがたく借りる。
マスクをして手袋もしてやる気モードではたきをかけて、ケホケホと咳き込む。
結構ホコリが溜まっている。
掃き掃除する前に茶殻とか濡らした新聞紙をまきたいところだけど、どっちもない。
このためだけに新聞紙を買うのかはちょっと悩む。
とりあえずホコリが舞立たないように気をつけながら掃いていると、天井から、パキッとかミシッと言う音が聞こえてきた。
その音がだんだん激しくなる。
家鳴りだねぇ。木を使っているとよくあるよくある。
と、流すこともできるけれど。
ここまで来ると、鈍い私にも察せられるものがある。
このお家、何かいらっしゃいますね?
私は基本、オカルト的な物は信じていない。信じてはいないのだけど金縛りはけっこう体験する。
このまま寝てるとやばいなぁと思うことがある。
多分、体が寝てるのに脳が起きてるとかそんな感じなのだろう。うん。
小さい頃、女性の幽霊を見た事がある気がする。風邪で体調が悪くて寝ていた時だったので夢だろうと思っているけど。
家の天井の板の木目が少し女の人っぽく見えるのだ。
昼間から寝ているとその天井がよく見えるのであそこは女の人、あそこは二玉の目玉焼きみたいだ、と思いながら寝ていた。そのせいだろう。
ありえないくらい大きな鳥を見た事もある。小さい時のことなのでこれまた夢だろうけど。
アオサギとかでっかいもんね。子どもから見たら巨大鳥だろう。
ということで、基本信じてはいない。いないのだけど、まぁ、なんというか、世の中に不思議な事はあったりなかったりするよなぁとは思っている。
どっちなんだい!?
と言われそうだが、多分信じてないし信じているのだと思う。
まあ、そういうことで、どうするか。
ここで問いたい。あなたの中二病の後遺症はなんですか?
と。
ちなみに私は某元素記号の名前で青い色の名前の文庫で出されていた戦国時代の武将が現代に転生して蘇ってサイキックな感じに戦うやつ、とても読んでいた。
高校の図書室にあったのだ。あの高校の図書室、今考えてもいろいろおかしかった。ファンタジーやライトノベルが充実しすぎていた。ミステリーもいっぱいあった。
そして、皆様身に覚えがあると思うのだけど物語に出てくる呪文って、覚えるよね……
無駄に記憶力が良い若い時に読むと長文の呪文でも決め台詞でも暗記が容易だったりする。そしていつまでも覚えている。その記憶容量、他のことに使いたい……
何が言いたいのかというと、つまり、私は光明真言を暗唱できる。バイ! とか言っちゃう。
動物園で綺麗な羽を広げて求愛する鳥な王様な漫画も読んでいた。従兄が読んでいたから。
つまり、九字、印が結べます……
まあ、結び方がうろ覚えになっているけど、剣印で九字を切れば良いという知識がある。
ついでに奥歯を噛み鳴らすっていうのはどうだろう。これは多分、一ダースな国の物語からの知識だ。
ここにいるのは私一人、だ。
何が起こっても起こらなくても、一人なら恥ずかしくはない。
あ、流石にいくら一人とはいえ、びっく○するほどユー○ピアを試すのはちょっと……
ジュドさんに付いてきてもらえばよかったかなぁ。お願いしたら真顔でやってくれそうな気がする。
そういえば、あれだ。
思い出したけど、とても恐ろしい化け物が出て、来る、ホラーでものすごく格好いい女除霊師さんが消臭スプレーが効くと言っていた記憶がある。
どのみちこの家、ちょっと臭うから消臭殺菌スプレーはやってみても良いのではないか。
各部屋で、奥歯を鳴らし九字を切り、光明真言を唱えて消臭殺菌剤を千円リピートで5円分ずつまいていく。
やるごとに、なぜか部屋の明るさが増していく。
最後の部屋でやり終わると、明らかに空気が変わった。
なんだ、こんな素敵な家だったのか。
なにかよどんでいた感じがなくなり、すっきりして明るい感じだ。
仕上げに、祝詞も唱えておく。
小さい頃に通っていた習字屋さんは神社の神主さんがやっていた。時間が来ると教室にある神棚に祝詞を奏上していたので、これまた覚えているのだ。
気分が良くなってその後の掃除もすごくはかどった。
冒険者ギルドで鍵を返却する。
「依頼主に作業確認をお願いしてほしい」
今回の依頼は依頼主が傍にいないので、後日確認ののち依頼料が出るタイプだ。
「承りました。あの……」
やや心配そうにマチルダさんに見られる。
多分、あの依頼、今までにいろいろあったんだろう。
でも職員としては言えないことが多いのだろう。
大丈夫でしたよという思いを込めてマチルダさんの目を見ながらうなずいておく。
後日、依頼料に心づけが乗せられて支払われた。
依頼主がすごく綺麗にしてくれたと感謝してくれたようだ。
うん、がんばってお掃除しました。
消臭殺菌スプレーって本当に便利だね。