56 カップ焼きそばを作ろう 中 究極の五択
細く割った木と、中くらいのやつと、そこそこの太さの薪。
これと藁でかまどの火をなんとかしたい。
薪を運ぶのをキララにも手伝ってもらった。
あ、キララが乙姫様みたいだったのは最初だけだった。どうも私の桃の木の精なイメージを読み取ってのあの姿での登場だったらしい。
今はごくごく一般的な村娘みたいなシャツにワンピースな恰好をしてくれている。すごくスタイルが良くて顔も良いので村娘には見えないのだけど。
とりあえず、かまどの下の空間に藁を下に置いて細く割った木を立てかけて火を、
火を何でつけよう。
ライターだと100円かかるから、マッチかな。
昔はマッチももらい放題だった。喫茶店でも居酒屋でも、どんなお店にもマッチがあった。箱マッチもあれば紙のちぎって使うやつもあった。
うちではお風呂焚きの火つけはライターじゃなくてマッチだった。
でっかい箱の徳用マッチ、多分今の子は見たこともないと思う。
それだけ、タバコを吸う人が多かったということでもある。
今は信じられないけど、病院の待合室にも灰皿があった。バスでも電車でも座席ごとに一個づつ付いている勢いで灰皿だらけだった。よく火曜サスペンスで凶器になっていたあのガラス製の灰皿が実家にあるって人も多いのではないか。
職員室も煙で曇っていたな。タバコをよく吸う人の家に行けば畳にタバコの火の痕があるのは当たり前だった。今思うと危なすぎる……
車のシガーソケットは昔はたばこに火をつける、ただそれだけの装置のシガーライターを取り付けるところだった。スマホを充電するためにあるんじゃなかったんだよ……
ずっとマッチ棒の頭がすごく有毒らしいという意識があったけど、今のマッチはリンが使われているのはマッチ棒の頭じゃなくてこする方だったりする。しかも今のは黄りんじゃなくて赤りんだし、思っていたより安全らしい。まあ、有毒は有毒なんだろうけど。
うちでは仏壇のお線香を付けるのも、なぜかマッチの方が良いというこだわりがあって、そのせいで私にも小箱のマッチを買った履歴がある。
桃のマークのやつが6個で110円。一箱19円だ。多分昔はもっと安かったんだろうなぁ。マッチ買うこと、昔はほんとあんまりなかったから……
千円リピートで出して、マッチをすって藁に火を移す。
マッチをこするの、下手だと折るよね。パキっと。する方向が悪いらしいけど、一度身についてしまった癖は直しにくい。
今回は一回でうまくいってよかった。側面のザラザラのイキが良いとつけやすくて助かる。
あのこするところ、段々はげて火がつきにくくなるんだよね。
藁が燃えて、細く割った木に火が移る。そのはずだったのだけど、ちょっと木が太すぎたのだろうか。木がちゃんと燃える前に藁の火が弱まっていく。
あー、藁足さなきゃ。もうちょっと持ってきておけばよかった。
見ていたミミが、かまどに近づいてパカっと口を大きく開けた。
ゴーっとミミの口から火が出ている。
「えっと、ミミさんや。それなに?」
『火。ついたよ!』
うん、木がちゃんと燃えているね。ありがとう。
土の竜だもんね。地の龍だもんね。竜だからね。火くらい吐くよね……
うちの子が優秀すぎてつらい。
てか、マッチ必要なかったですやん!
慌てて、木を少しずつ足す。ここで焦ってはいけない。細い木からゆっくり大きな木を足していく。
空気の通り道をふさがないように慎重に木を組む。火を育てるのだ。
ある程度燃えて炭化した部分が赤くなれば、ほぼ成功だ。
慣れた風呂焚きだと、新聞紙の上に木を順番に組んで一発着火ができるんだけどねぇ。たまに途中で立ち消えていたりもするけど。
風呂を木でわかしているといろいろ燃やせて便利だった。
個人情報の紙とかね。点数が低かったテストとかね。
ただ気をつけないと灰になっても字が読めることがある。とても読める。
紙は燃えると一旦炭化してその状態でも読めるし、その炭が灰になっても崩すまでは読める時がある。
燃やせば良いってものじゃないから何か重要な機密を燃やす時は気をつけてほしい。
上に水を入れたお鍋を置いて、後は適度に燃え続けるように薪を足していく。
薪、火力調整難しいな。お風呂を焚く時は全力で燃やせばよかったからある意味楽だった。くべすぎて途中で取り出して水をかけて消したりしたけれど。炭壺という炭を入れる陶器の容器もあった。ついこの間捨ててしまったけれど。
やりたそうにしているので、細い木をキララに渡す。
「そっとくべて」
くべてが通じないか。燃えてるところに燃えるものを継ぎ足すって意味なんだけど。
「そっと燃えてるところの上に置いて」
「わかったのじゃ」
慎重に木を差し込むキララ。もうかなり高温になっているのですぐに燃えて火力が強くなる。
無事、お湯が沸いてきたね。
さて、この記念すべきお湯はどうすべきか。
なんだか麺類ばっかり食べている気はするけれど、ここはやっぱりカップラーメンか。
いや待って、胃腸が昔に戻っているのなら、あっちが食べたい。カップ焼きそば。あの匂いを思い出しただけで腹減りである。最近は塩分を気にして食べなくなっていた。
さて、ここで五択だ。
・思い出の丸い未確認飛行物体。あの味は唯一無二だと思う。大好き。何回食べたのかもうよくわからないくらい食べた。
・四角くて大盛ないつものやつ。いつも美味い。たまに攻めすぎた味を出すのでびっくりする。チャレンジャーすぎる。薬用シャンプーとコラボするって何事? それこそ若いころを思い出すあの名前。
・からしマヨネーズがついてくるのが嬉しい、祭りの夜に屋台で食べるようなあの焼きそば。これまたうまい。マヨネーズの袋を開けるときにちょっぴりだけにしてどれだけ細く綺麗に出せるかで見栄えが変わる。ここも変わり種が多いので、たまにちょっとびびる。ショートケーキ味ってなんなの?
・これは北の方のやつ。お弁当と何かを殴った時の音みたいなよく似たやつがある。スープがつくのがお得で好き。スープの粉を全部入れるとちょっとしょっぱいので少し残す。湯切りの湯でスープを作れるのすごく頭良い。一回食べてはまってお取り寄せしていた。買いにくいので全国で売ってほしい。
・多分あんまり他のほど知名度はないかもしれないけど、大好きだった塩味焼きそば。細くて熱湯1分でできるのが良い、ほたてっぽい何かとキャベツときくらげが旨いマイソルト。これも買える場所が少なすぎて通販していた。もっといっぱい売ってほしい。
まじめに悩む。決めきれない。
ここはお値段で決めるか。最安値はどれだ。
番外編で魔法の粉末ソースがついている袋めんな焼きそばもあるけど、あれはあれで別格なので!
お湯を沸かしてカップ焼きそばを食べるだけのこぼれ話がなぜ終わらないのか。続きます。
最初四択だったのですが、入れるのを忘れてたカップ焼きそばがあったので五択にしました。