5 悩み疲れたので街に行くことにした
なんかいろいろ考えているうちに寝てしまっていた。
変な体勢だったのか身体が痛い。
ぐるぐる考えすぎるの良くない。
一晩寝ると、なんかもう当たって砕けた方がいい気がしてきた。
ハンカチを水で濡らして顔と身体を拭く。気分がちょっとしゃっきりした。
水とカ□リー×イトとコ×ダの豆菓子で簡単な朝食にする。
カ□リー×イトはフルーツ味が好き。長い事カバンの中にあったので端っこがもろもろしていたけれど、いつもと同じ美味しさだ。
ゴミ、どうすればいいのかな。
とりあえず、ポリ袋に入れて棚に置いてみた。でもストレージにも容量がある。まあどうしようもならなくなってから考えればいっか。
街に行ってやってみないと何が高く売れるかなんてここでいくら考えてもわからない。
高く売れないものに貴重な千円を使うのもったいない。
怪しまれたらその時は他の街に行けばいいよ、きっと。
買い物したいと念じると画面が開いた。
なんか呪文めいたものが欲しいね。このスキル名なんてなっているんだろう。
一日千円分前に買ったことがあるものを買える能力って長い、長すぎる。
再購入?リピート?
とりあえず「千円リピート」って自分の中で呼ぼう。
ニット帽とタオルを買おうとして気づく。
タオル、買ったこと、ない?
貰い物が多くて、こだわりなくそれを使っていたから買ったことない、のか。びっくり。
履歴にハンドタオルはあるけど、長さが足りない。
じゃあ、手ぬぐいで。
手ぬぐいは旅行の時に乾きが早くて便利なので百均で買ったことがある。
ニット帽も百均で買ったことがあるので両方ぽちる。合計220円使用。
髪をニット帽の中に入れて、首に手ぬぐいを巻く。喉仏がないことを隠せればそれで良い。
コートのフードを目深に被って準備完了。
物置から出て、街道に立った。
方向音痴だけど、どっちに行けばいいのかはわかる。だってうっすら城壁っぽいのが見えているから。
あっちが街だ。
見えているのに思ったより遠いな。
てくてくと歩くと少しずつ城壁が近づいてくる。そびえ立つほどではないが、そこそこの高さの壁だ。
こんな壁が必要ということは、魔物、出るんだろうな。
門が見えてきた。門番だろう、武装した人が見える。ヘルムを被っているのでわかりにくいが髪色は金茶系、体格からして西欧人っぽい感じだ。近づくと瞳の色が薄いのがわかる。アジア系統でないことは確定。
年齢は、どれくらいだろう。外国人の年齢って良くわからないよね……。
「止まれ!」
と言われて足を止める。問題なく言っていることがわかることに一安心する。声の感じだと若いのかな?
「どこから来た。身分証は?」
「山から来た。身分証は……」
練習していた男声を出す。ちょっとアクセントに訛りを入れることも忘れない。
あー身分証、やっぱり必要なんだ。どうしよう。ここで免許証、保険証出しても仕方ないよね……
「どこのでもいいぞ」
いいの!?
写真の載っている免許証をさけ、保険証を差し出してみる。まあ免許証の写真、私史上最凶に目つきが悪く写っているので男に見えなくもないんだけど。なんで免許証の写真ってああも写りが悪いんだろう。
「ん、異国のものか。見たことない文字だな」
門番が顔をしかめた。
なんか水晶のついた道具に通したけど反応がないっぽい。
ですよね。
「読めないのでこの身分証は使用不可だ。他のはないのか」
免許証、出してみる?
おそるおそる運転免許証も出してみる。
すると、なんということでしょう。免許証を水晶のついた道具にかざすと、ピピっという音が鳴って画面が開いた。
なんかよくわからないけど読み込めるの!?
目を丸くして驚いてしまう。保険証はだめで運転免許証だといけるって一体なんでどうして? もしかしてICチップを読み取ってるの。
画面には免許証の情報がそのまま写し出されている。
画面に触れるように言われて指を当てるとふわっと一瞬明るく光った。
「本人確認良し。情報登録はあるが、異国語表記しかないな。名前は? 山からと言ったがどこから来たんだ」
やっぱり聞かれるよね。
「名は今井 咲。サキです。ワカヤマケンから来た、らしい」
考えてきた設定、山で助けられたけど記憶が曖昧、かろうじて持っていた身分証がこれってのを話してみるとあっさり受け入れられた。
「そりゃあ大変だったな。ワカヤマケン、聞いたことないな。とりあえず情報登録があるので街に入れることは可能だが、読めないのでこのままだと保証金が3万ゴルドいる。が、その顔を見るとなさそうだな」
はい、現地のお金は一切持っておりません。顔に出ていたようだ。
「職を求めてってことなら冒険者ギルドで登録できる。ちょっと待ってくれ」
そう言った門番が詰め所に向かって
「おーい、冒険者ギルドに行ってくる。替わってくれ」
と頼み、出てきた男と話す。
「登録行ってくる」
「おー久しぶりだな。もうすぐ交代だからそのまま上がって良いぞ」
どうやら冒険者ギルドまで門番さんが連れて行ってくれるようだ。優しい。