48 おばあちゃんちのお菓子盆
とりあえず、なんで即バレしたのか聞いてみた。
「異世界人っていうのはこの世界にとって異質で異物。いくら必要でも、そのままでは世界にとって危険さね」
「異質で危険……」
カエンさんに言われた事を繰り返す。確かに異物ではあるだろう。
「ああ、だから異世界人という異物を組み込むために世界自体が柔軟に判断して対応する。覚えがあるんじゃないかい?」
言われて、適化スキルのことが頭に浮かぶ。
えっと、私がこの世界に馴染むためのスキルだと思っていた適化スキルさん。実は逆だった?
本当は、この世界に私を馴染ませるスキルだったということなのか?
異世界が異物を受け入れるのを補助するスキル?
いや、両方の側面があるってことかもしれない。
あと、なんで免許証が読み込めたのか謎だったんだけど、ICチップもこの世界に適化していたということなのか?
私の顔を見て、思い当たるところがあると判断したのだろう。
カエンさんは説明を続ける。
「どうもその、異世界人をこの世界に組み込む時に異世界人の認識というのが、強く反映されるらしくてね。エルフが使う認識阻害魔法は異世界人には通じない」
???
ごめん。意味がわからない!
疑問が顔に出ていたのだろう。言い換えてくれた。
「なんだか、異世界人はエルフは顔が良いって強く強く思い込んでるらしくてね。あたしらエルフが目立たないようにかける認識阻害魔法で容姿を悪くする方向性のやつはもれなく無効化するんだよ……」
あ――
よくわからないけど、ちょっとだけわかった。
確かにエルフは美形だというのは地球人、とりあえず日本人にとっては強固な共通認識だというのはわかる。
エルフ=美しい
って無意識で思ってる。
そこを、世界が汲み取ってくれるということだろうか。
我々日本人の無意識が、エルフが一般的なじじばばに化けるのを許さないのか。
多分なのだが、美老人に化けるのであれば問題なくだまされる気がする……
なんだか、こう、己の業を感じてしまった。
「エルフの間では、エルフの認識阻害魔法がまったく通じない相手は異世界人だと思え、って言われててねぇ」
「なるほど」
それで一発でバレたわけですね。
なんかちょっと悲しくなる異世界人判定方法だ。
えっ、もしかして、
異世界からの召喚者が魔王を封印できるのって、
異世界の勇者は魔王をなんとかできるという日本人の共通認識があるから?
私の封印能力が低めってそういうこと?
高校生が召喚されるのって妄想力が強くて思い込みが強固だからとかとかそういう?
そうすると、なぜ中二じゃないのかという疑問はあるけどおおむね納得できた。できてしまった。中二だと多分まだ身体ができてないとかあるんだろう。
召喚にあたり、希望にそって一つ授けられるというスキル、それって僕が考えた最強のスキルなわけで、そりゃあ強いだろうね……
と、ここまで一応小声で話してはいた。
けど、
「話は聞かせてもらった」
「もらった!」
高性能なお耳がピンっと立ってる兄妹には聞こえてたみたいだ。
あと、私の肩のミミも、その言葉を受けて僕も聞いてるよってうんうんってうなずいている。
「かまってほしいのじゃ……」
ってすねかけている方もいらっしゃる。こっちはあまり話は聞いてないっぽいな。
なんだかカオスになってきたので仕切り直したい。
ルーナが立ちっぱなしなのも気になる。
ちょっと手狭だけど小屋で話そう。そうしよう。
場所を小屋に移し、木箱やブルーシートやクッションやら毛皮やらを使ってなんとか座って話せる状態に。
お飲み物は何がいいかな。
ルーナがいるしジュースでいいか。
カエンさんには即バレだし、ルーナにも話は聞かれてしまったようだし。
あ、キラキラの木は液肥の方が良いかと思って一応聞いてあげたら涙目でぷるぷる震えた。そんな遠慮しなくても良いのに。
じゃあ、みんな一緒でいいね。
自分のはいつも使っているコップ。他は千円リピートで出した紙コップに四ツ矢サイダーを注いで渡していく。やっぱり小さい子には炭酸でしょう!
1.5リットルを89円で買った履歴があって良かった。
ラムネ瓶も捨てがたいけどちょっとお高いからね。あの瓶は昔は買った店に戻すとお金がもらえていた。5円とか10円とか。中のエー玉を取り出そうとしたよね。懐かしい。
前に出して捨てられずに取っておいたペットボトルの蓋にもサイダーを少し入れて肩から降りたミミの前に置く。仲間はずれは可愛そうだから。
なんかつまむものも欲しいね。
ここは某フランス王朝な名前のメーカーのルオクドはいかがかしら?
とっても美味しくてよ。
何層にも重なったサクサクのクレープ生地はどうやって作っているのかさっぱりわからないけどすごく美味しい。好き。
贅沢ルチョウドと名がついている少しお高いやつも買ってみたことがある。しかし私の口が庶民なせいか、いつもの方が好きだなーってなった。ひとくちルセンドも美味しいんだけど、ちょっと物足りない。
なので出すのは一般的なルオクドだ。お菓子が激安で買えるところで76円で買ったことがある。安さに興奮して5袋買ったね。
問題はこの包装がとてもとても開けにくいことだろうか……
いつも失敗して粉になったやつを拾って食べたり、袋に残ったやつをあーって上を向いて流し込んで食べている。
多分皆が苦戦することが予想されるので全部ハサミで開けて出して皿に盛ってしまおう。
フィンガービスケットもそえよう。レーズンもいるかね?
あれが欲しいなぁ。お菓子盆?
おばあちゃん家に行くとオブラートに包まれたゼリーやこのルオクド、あとは栗まんじゅうなんかが入っていたあの器がほしい。
今まで心の片隅で心配していた、日本のものをこっちの人に食べさせて良いのか問題も、カエンさんの話を聞いて解消したので自重はしない。うまいこと問題ないように適化してくれているということだよね。
驚いているカエンさんに異世界人の特殊スキルで出した異世界の食べ物だと言っておく。
色々聞きたいことがある。なのにこっちの事情を伏せたままというのはフェアではないからね。
「甘くてしゅわしゅわする」
びっくりしているルーナが可愛い。
気に入っていただけたようでなにより。いちご大福もね、たまにこんな感じにしゅわしゅわするんだよ。
お腹いっぱいなはずのキラキラの木の精が、
「サックサクでおいしいのじゃ!」
ってご機嫌になっている。
お菓子は別腹なのか。ルオクドがおいしすぎるのがいけないのか。
「うまい」
「こりゃうまいね」
ジュドさんにもカエンさんにもおおむね好評そうである。
ミミもちろちろ舌を出してサイダーを舐めているようだ。飲んで大丈夫? 砂糖水みたいなものだからいけるのか?
とりあえずこっちの事情をざっと話し、キラキラの木やルーナについての情報をカエンさんに求める。
うなずき、カエンさんが話し始めた。
「まず、あたしらエルフは基本エルフの里から出ない。それは……」
ルオクド伝説とても面白くて好きです。
あまりに売れて売れて納品を待てない問屋のトラックがルオクド工場に列を作った話、何度読んでも笑ってしまいます。
興味のある方は「伝説の商品 ル〇〇ド」で検索してください。
また、活動報告を書いていますので、お時間のある時に作者名をクリックして読んでいただけると嬉しいです。