47 梅仕事って面倒だけど楽しい
『責任をとるのじゃ! お腹が減ったのじゃ……』
あ、これ話があんまり通じないやつだ。
お腹が空いてるとイライラしたり物事に手がつかなくなる気持ちはわからなくもない。
私もお腹が減っていると無自覚に機嫌が悪くなるタイプだ。
ちなみに、なんかやらかしてしまって謝りに行く時は、時間が選べるならお昼すぎに行くのが良いらしい。お昼を食べてゆったりした気持ちの時って人はおおらかになるから。美味しいものを食べて満腹な人は優しい。間違いない。貧素なお昼だとしても食事前の空腹時よりは優しいはずだ。
ゆえに、とりあえずなんか食べさせて落ち着かせてから話を聞くべきなのか。
さっきルーナの緑魔法を食べたばっかりなのになんでもうお腹が減っているんだ?
無理して花を咲かせたのか?
そりゃとても綺麗なお花だけど。そんなに注目してほしかったのか……
忘れていていたのは悪かったと思う。
この木が食べたのは、多分鶏糞とルーナの緑魔法。
緑魔法というのが植物の成長を助けるもので肥料的なものだとすると、この木が鶏糞を食べて目覚めたというのもわからなくもない、のか。
ということで、適当に肥料を与えればお腹いっぱいになるのではないか。
即効性があるのは化成肥料だよなぁ。本当はそれこそ鶏糞がいいんだろうけど手っ取り早さを選びたい。
私がよく使っていたのは白い粒の化成肥料と水で薄める液体肥料だ。
より即効性があるのは液肥だろう。
なんだかいろいろ安いのに浮気しても戻ってきてしまうイエスポネックス。
イエスポネックスはこだわると液肥ではなく微粉ってやつを買ってしまったりするけど、白い粉を計量するのはちょっといけない事をしているみたいで楽しくて好き。
イエスポネックス原液そのまま注いじゃだめかな。多分だめだよね。
面倒だけど仕方ない。
「手伝ってほしい」
ジュドさんとルーナに協力要請だ。
よくわかってないだろうに、
「わかった」
と言ってくれるジュドさんと、がんばると握りこぶしを作るルーナに感謝だ。
ジュドさんに小屋から木箱を取ってきてもらってそこにごみ袋を入れて、ポンプで水を汲んでもらう。
ある程度水がたまったらそこに千円リピートで液体肥料を投入。割合はもう適当に目分量だ。多少薄めでも文句は言わせない。濃すぎると問題があるだろうけれど、液肥が薄い分には多分大丈夫なはずだ。
棒を持ったルーナがぐ〜るぐるとかき混ぜてくれたら完成だ。うっすら青くて綺麗だねぇ。この青い液肥がはねたらルーナの白いエプロンが染まってしまいそうでちょっと心配だ。でも丁寧に慎重に混ぜてくれているから大丈夫かな。
できた液肥をジュドさんに頼んで運んでもらい、木の根元にばしゃーっと掛けてもらう。
『美味しいのじゃ!!』
お気に召したようでなにより。
次からは根本からやや離れた場所に、円を描くようにかけてほしいとにジュドさんにお願いする。肥料って株元にやりがちだけど栄養を吸収できる新しい元気な根っこって根本にはないのだ。
それを何回繰り返しただろうか。
『も、もう満腹じゃ…… もう食べられない…… 許して! 許してなのじゃ……』
って言うまでやった。やってしまった。
というわけで、立派な梅の木が育ちました。
大きくなったなぁ。
梅の実もいっぱい成っている。
梅酒、梅シロップ、梅干し、梅ジャム、梅仕事って面倒だけど楽しいよね。
氷砂糖とお砂糖とお塩を買わないとなぁ。
って現実逃避をしたいけれど、なんかやらかした気がしなくもない。
十分に梅の木が育ったからだろうか。
キラキラの木の精が実体化してしまった。
中華風のひらひらした服を身にまとった長い薄ピンクの髪のメリハリのある魅力的な体型の女性が木にしなだれかかってお腹をさすっている。
お顔立ちもさすが花の精という感じの華やかさと艶やかさだ。
なんかあれだね、乙姫様みたいだ。
ジュドさんが警戒してルーナを後ろにかばった。
ミミも私を守るつもりなのか肩でシャーって感じに威嚇している。
けど、キラキラの木には攻撃する元気はなさそうだ。
「こんな、こんな体にするなんてひどいのじゃ……。わらわはもっといとけない可愛い姿が良かった……」
ジュドさんの後ろのルーナをうらやましげに見ながら言う。
なんか栄養とりすぎで育ち過ぎたらしい。確かに各所良く実ってしまっている。うらやまけしからん。
でもお腹はいっぱいになっておおらかな気持ちになっているはずだ。多分きっと……
さて、話を聞かせてもらおうと思ったその時。
「おやまあ、驚くねぇ。聖樹の子どもじゃないかい」
と不思議な響きのあるかすれた声が聞こえた。酒で焼けたような特徴のあるハスキーな声だ。
声の方を振り返るとそこにいたのはサラサラの金髪で深い青の瞳で耳がとがった、なんていうかもう、見た目でわかる。すっごい美形のこれぞエルフ! が立っていた。あまりに端正な美貌すぎて、性別がよくわからない。圧倒的な美。
待ってほしい。情報量が多い。
ミミとキラキラの木だけでも、もう私の許容量はいっぱいなのだ。
これ以上はやめてほしい。
「おばぁちゃん、だぁれ?」
とルーナがその人に尋ねる。
ん? おばぁちゃん?
「あたしゃ、カエンだよ」
との、暫定というかもう確定エルフの答えに混乱する。
なんですと!?
カエン???
ここでまさかのカエンばぁ!?
いやまてまて、どこが婆なの!?
想像上のカエンばぁとのあまりの違いに頭がくらくらする。
なんていうかこう、一人? 一人順番に時間をあけて来てほしい、なんで、こんな一遍にくせつよな人? が増えるのだ???
レジでもなんで私が並ぼうとすると混むんだよっていつも思う。さっきまで空いてたじゃないか。分散したらレジの人も焦らず急かさず対応してくれるのに!
カエンばぁとは呼びにくいのでカエンさんは新しく畑をやる人がいると聞きつけて偵察に来たらしい。
というかなんか特殊な緑魔法を感じたって言っているけど、それってルーナのことか……
って、ルーナのことを聞くチャンスなのでは?
「えっと、カエンさんはエルフさん、ですよね?」
明らかにエルフだと思うけれどまずそこを確認してみる。
「サキ、何を言っている?」
不思議そうにジュドさんに言われる。
カエンさんは目を軽く見開き、じっとこちらを見た。
はぁ、お顔が良い。
ちょいちょいと指で呼ばれたので近寄る、
アップに耐える顔、いいなぁ。毛穴レスだ。
「あんた、あたしがどう見えてる?」
内緒話で言われたので小声で返す。
「とても美形なこれぞエルフ」
に見えます。
はぁ、とため息をついたカエンさんは、
「あんた、異世界人だね」
と言った。
なんで、即バレ!?