41 幸運の青いイナズマ
農業ギルドにつくと、リガルさんは相変わらず目が良い人のようで、
「よっ!」
っと、すぐに気がついて窓口に出てきてくれた。
こちらも手を挙げ挨拶を返す。今日はそのままカウンターで話させてもらおう。
「畑の荒起こし、ありがとう。でも頼んだのは一枚の三分の一だったはずでは?」
「ん? そうだ。小屋近くのとこを三分の一、だよな」
それが、
「畑一枚耕してくれてあった」
んですよねぇ。
「あーそりゃ担当の勘違い、か。多分、三分の一の思い違いだなぁ……」
なるほど、畑の三分の一と、畑一枚の三分の一。
三分の一だけ伝わっていたわけか。
すまんすまんと謝られ、想定した作業より作業量は多かったが、農業ギルド側のミスということで追加料金等はなしということで一応の話はついた。
急に時間の空いた職員に突発的に頼んだせいで伝達が今一つうまくいかなかったらしい。
早ければ早いほど良いかと思ったと言われた。早くしてもらえたのは確かに助かったので、そこはもう仕方ないよね。
さて、あと聞きたいことを一つずつ聞いていこう。
「置いてくれてあった牧草は…」
どうしたらいいのかな。委託を引き受ける前に種がまかれて育っていたものだから、権利がどっちになるのか微妙なところではないか。
「あぁ、一応起こす前に刈ってよけておくように言っておいた。好きに使ってくれ。使わねぇんなら、うちでも引き取れるが、隣のテイマーギルドの厩舎に持ち込んだ方が多分金になるぞ」
「お金に……」
なるんだ。
「いるだろ?」
リガルさんが、銭が、と言うように指で丸を作る。
そりゃあ要る。反射的にうなずく。
うちの畑のお隣、テイマーギルドの厩舎なんだ……
なんかちょいと離れたところにでっかい建物があるなぁとは思っていた。柵があって牧場みたいになっていて馬がいた記憶がある。
お隣りへの挨拶への手土産が牧草ってのはありなんだろうか?
なんかこう蕎麦的なものを持っていくべきなのか、いまいちこちらの風習がわからない。
最近のご挨拶はラップとか指定ごみ袋が人気と聞いたことがあるけれど。指定ごみ袋は地味にお高いから、それをもらったら嬉しいだろうと聞いた時には納得した。私も欲しい。都会だとご挨拶しない方が良いとかもあるらしいけれど、田舎育ちとしては、ね。
なんにせよ、とりあえず、挨拶には行くべきだよね。
と思ってしまう。ご近所トラブルはいろいろとやっかいだから……
えっと、次は……
「あと、種リストというのを見せてほしい」
種リスト、すごく興味ある!
「ああ、ちょっと待ってろ」
一度奥にひっこんだリガルさんが紙の束を持ってきてくれる。そのうちの1綴りを渡された。
見せてもらった種リストは、ドーンさんから聞いた通り、カエリンという名前がいっぱい出てきていた。すごい。カエンばぁのところにいけば一通りの種は手に入る。そりゃあ便利だろう。だが言われていた通りお値段は高い。
単品なら他の人の方がずっと安い。ただその場合、多種類が欲しいとなると、人ごとに紹介状が必要だろうから、紹介料がかさむことになるのだろう。
リガルさんから話を聞くと、今見せてくれたものは、この農業ギルドのもので、頼めば遠方の農業ギルドの種リストを取り寄せて、その後種の取り寄せというのもできるのだそうだ。
でも、それには時間がかかるし、タイムラグがあるので在庫切れの場合もあるし、取り寄せ費用もかかるのでよっぽどでない限りそこまでする人はいないとのこと。
一応近隣のものはリスト交換をしているのでこっちも見るかと残りの紙の束を示されたけど、とりあえず今はいいかな。近隣でもお取り寄せには時間と費用がかかるだろうし。
ここで、カエンばぁへの紹介状をもらっておくかどうか。
かなり悩んだ。
どのみち、そのうち行くことになる気はすごくする。なんだか予感がする。
けれど、一応ルーナがこっちの野菜の種で育てた野菜でも大丈夫かというのは確認しておきたいところだ。
いやしかし、考えてみると想定していた三倍の広さの畑なので、分けて育てて実験して、ルーナが食べられなければそのまま農業ギルドに卸すなり、どこかに売るなりすればいい気もする。
これは、一回行っておくべきか。
リガルさんに確認すると、紹介状料金もそこまで高くはなかった。これはもうご縁があるということなのだろう。
紹介状を作ってもらうことにした。
「大丈夫か? カエンばぁのところは、ちょっと高ぇぞ」
「多分。興味があって」
こんなにいろいろ育てている人、それだけで興味深い。
種が高い問題は、なんとかなりそうな、気がしなくもない、よね。
まあ、カエンばぁの人となりを見ないと、うかつに出して良いかどうかは判断できないけれど。
さて、あと聞いておくべきことは……
あ、あの目をそらしてきた問題があった。全力で目をそらし続けたいけれど、そういうわけにもいかないだろう。
「実は、耕してもらった畑に、とてもでかい青いミミズが出て……」
困ってるんっすよ、と言いかけると、
「豊穣ミミズかっ!?」
とリガルさんが驚きの声を上げ、眉毛がぐいっと上がった。今日はおとなしかったのであまり目線を奪われなかったのに、ここにきて激しい動きだ。
え、なに、あのミミズ。そんな驚かれるようなものなの?
聞けば、モンスターの一種ではあるが、珍しく良いモンスターらしく、畑に出れば豊作間違いなしという縁起物なレアなモンスターらしい。
正式名称はなんちゃらかんちゃらアースワームというらしいが名前が長く一回で覚えるのは無理だった。通称の「豊穣ミミズ」でいいと思う。なんなら「青でかミミズ」とかでいいんじゃないかな。
名前はわかりやすいのが一番だと思う。
「一匹出れば豊作、つがいで出れば大豊作! って言われてる。運がいいなぁ」
と言われ、遠い目をしてしまう。
あれ、一匹二匹って数ではなかった気がする。あんまりよく見てないけど……
基本、どこからともなく現れて、土を耕し肥やして、またすぐに去っていくらしい。
植えてある野菜は運が悪ければダメにされるが、うまく野菜を避けてくれることが多く、豊穣ミミズが来た後に植えた野菜が良く育つので農家に歓迎されるモンスターとのこと。「幸運の青いイナズマ」という別名もあるという豆知識まで仕入れてしまった。
幸運のイナズマ、あれが?
もしかして雷が落ちると豊作になるっていう言い伝えと関係があるのか? 確か雷が空気中の窒素を固定するので、豊作になるんだったっけか。諸説ありますだけど、稲妻って書くようになるくらいには雷って稲の生育になんらかの影響があったんだろう。多分。
まあ、ほっておけば去ってくれるのであれば、全力で見ないふりをしたいと思う!!!
大体聞きたかったことはこんなもんかな。
リガルさんにお礼を言って農業ギルドでの用事は終了。
さてと次はテイマーギルドに行くとしようか。こういうのは勢いが大切だと思う。