29 とりあえず祝杯をあげたい
翌日、謎はあっさり解けた。
いやまだ完全解明というわけではないのだけど、多分こうだったんだねっていうことがわかった。
まだ朝早い時間に、
ちょっと来てくれと慌ててやってきたジュドさんに頼まれ向ったジュドさんの家、ルーナの部屋で見たもの。それは、
わっさわっさに茂って赤い実をたくさん、柄が折れそうなくらい付けたミニトマト。
ちょっと大きくなりすぎているのではないかね、という小松菜。
ベビーリーフって小さい内に収穫して食べるんだけど、密集してひょろひょろと大きくなったもうベビーとは言えないレタス水菜ほうれん草ビーツなどの混合。
どんだけ実がついてんねん!葉っぱと釣り合ってないだろ!!! と言いたい苺。
だった。
びっくりして、すぐに言葉が出てこない。
なんじゃこりゃー! と叫びたい。
今日も輝くような笑顔が可愛いルーナが、
「大きくなあれって一生懸命お願いしたの!」
と言う。
なるほど、って納得できるか!
あらまあと驚いているマーサさんと、ジュドさんとで別室に行き、とりあえず座って話し合う。
「多分、緑魔法だ」
とジュドさん。
うん、なんらかの超常現象だということは間違いない。で、何やら植物の成長を助ける魔法があるってのは聞いたことがあったね。
「でも、緑魔法ってあんなに育つものだったかしら?」
マーサさんが言う。
うん、そこ気になる。
「普通の緑魔法ではああはならないだろう」
通常だと、植物の育成を手助けする魔法らしい。使えばそりゃあ育ちは良くなるが、限界がある。
「普通ではない、と」
どう考えても普通じゃないよね。
「ああ、あんな事になるのは、それこそエルフの……」
そこまで言ったジュドさんが考え込む。
エルフ、いるんだね。まあ順当に考えると緑魔法の使い手でエルフが出てくるのはわかりやすい。
「ルーナはエルフかもしれない」
考え込んでいたジュドさんが話し始めた。
なんか、ジュドさんのひーばーちゃんのひーじーちゃんくらいにエルフの人がいたらしい。
ほーん、なるほど昨日説明してもらった隔世遺伝ですね。
と思ったが、本来ありえないこと、のようだ。
昨日説明してもらった種族間での子どものでき方、種族の現れ方の例外になる種族がいて、エルフはその例外種族らしい。
エルフと他種族が結ばれた場合、生まれてくるのは相手の種族のみ、なのだそうだ。代を経てもそれは変わらない。
なのでエルフは純血主義で、他種族と結ばれることはまずない。
だが、ありえないと言われても何事にも例外はあるというか、実際あったら認めるしかない。
「言われてみれば確かにルーナちゃんは銀髪ですね」
マーサさんが言う。
エルフのイメージ、確かに銀髪とか金髪とかの髪色薄めだ。そして美形だ。ルーナは可愛い。
そして、
「育ちが遅いのは身体が弱いからだと思っていたんだが……」
育ちが遅くて、お肉が苦手?
なるほどなるほど。
なんか昨日の深刻っぽい話もこれで一件落着っぽい。
よくわからないが、獣化できない獣人というのは大問題なのだけど、
エルフに猫耳がついているのは問題ないらしい。
よくわからない。本当によくわからないが、そういうものらしい。
そう言われたら異世界の常識がまったくない私は無理やり納得するしかない。
まあ、とにかく良かった!!
あ、お野菜が食べられない問題も、多分これで解決である。
ルーナの部屋でたわわに実ったミニトマトと小松菜とベビー?なリーフを、マーサさんがちょちょいっと手早く食べられるように調理してくれた。
それらを、
「美味しい!」
って言いながらルーナはもりもり食べたのだ。
なんか良くわからないけど、多分ルーナの野菜嫌いは緑魔法が関係していたっぽい。
基本お野菜関係を育てるのには緑魔法が使われている。
その緑魔法と、ルーナが持っている緑魔法がなんか相性が悪いのではないか、というのが3人で話し合って出た結論だ。
ガソリンで動いている車に軽油を入れちゃった!みたいな感じだろうか。
多分、良い線を行っているのではないかと思う。
つまり、ルーナは緑魔法を使わずに育てた野菜か、もしくは、自分の緑魔法で育てた野菜なら食べられる。めでたい!
そりゃ日本産のお野菜に、人参に、緑魔法は使ってませんよ!!
食べられたはずだ。
となると、問題が発生で。
私が借りた土地って
「緑魔法がかかりにくい」わけだ。
つまり「緑魔法を土地にかけている」よね。
このまま野菜を育てると、ルーナが食べられる野菜にならない可能性がある。
かかりにくい、だから、影響は少ないだろうけど、どれくらいの緑魔法でルーナに拒絶反応が出るのかが不明だ。
ただ、ジュドさんが用意した鉢、これに入ってた土にも多分緑魔法はかけられていただろう。
その土で育った野菜をルーナが食べられたということは、ルーナが緑魔法を上掛けすれば、食べられる野菜になるってことなのではないか。
「ルーナがもうちょっと元気になって畑に来れるようになったら試してみたい」
そう提案しておく。
「わかった」
ジュドさんにも了解を得た。
いやーほんと良かったね。
とりあえず祝杯をあげたいね!!




