27 ストレージさんもチートだった?
さっそく小屋を我が家とする!
と、リガルさんから預かった小屋の鍵を握りしめて小屋に向かおうとしたのだけど、そういえばジュドさん。
ジュドさんに会えたら言いたいこと、聞きたいことがあったように思うのだが、何だったっけ。
眉間にシワを寄せて考え込む。指を当ててうーんと唸る。ルーナ関係のはずだ。思い出せ自分。
あ、嗅いでみてほしかったんだ。人参を。
ストレージに入れてある農園産人参と私が出した日本産人参の嗅ぎ比べをしてほしい。
どこでやるのがいいのかな。
どっかのお店に入るか、ジュドさんの家に行くか、小屋についてきてもらうか、の三択かな。
ついでだし、小屋にご一緒してもらえると嬉しいな。
「時間があれば小屋の確認に付き合ってくれないか」
そうストレートに誘ってみると、
「ああ」
と笑顔での同意を得た。よし。
畑まで行く途中に、ルーナが野菜を食べられたこと、ミニトマト苗を植えたこと等について話すが、その事についてはマーサさんからも聞いていたらしく、話が早かった。
食べられた野菜について考察したいので小屋についたらちょっと協力して欲しいと頼んでおく。
さてと、畑というか物置小屋についた。
外から見た感じ、大きめの引き戸が一つ、窓が2つ。屋根が前と後ろに張り出していて、軒下に藁や薪、多分支柱に使っていたのだろう太い杭なんかが積まれている。
鍵を開けて中に入ると、中は半分くらい、農機具やがらくたっぽいもので埋まっていた。
うん、リガルさんから中にあるものは好きにして良いとは言われたけど、使えるもの使えないものをより分けるの大変そうだ。
「物は多いが、けっこう広いな」
そうジュドさんが言った。うん、小屋も思ったより広いし、手に入れてしまった使える土地もかなり広い。
「そうだな」
外から見た感じよりも中の方が広く感じるね。
広さは8畳くらいある、かな。空いているところが4畳半の部屋くらいの広さだ。
ちょっと埃っぽいけど、汚れているけれど、そこは掃除すれば問題ない。
これは住める。
小屋の張り出した軒の下に洗い場というか流し台があって側に井戸がある。
とても懐かしい手押し式ポンプだ。
こどもの頃に畑にあったやつ。私がこどもの頃ですらかなりなレアものだった。
シャコシャコとレバーを押してみたが、水が落ちているのか上がってこない。
仕方ないな、と千円リピートで水を買って呼び水として注ぎ入れる。
「代わろう」
そう言ってジュドさんが押すのを変わってくれたので、ポンプの下に転がっていた桶を置いて様子を見る。
しばらく押しているとジャブっと水が上がってくる音がして、それから数回の押し込みで水が溢れ出した。
最初なのでちょっと茶色い水だが、さらに何度も押している内に透明になってきた。
小屋の中にあったものをとりあえず隅に重ねて空間を広げ、ポンプで汲んだ水を使って拭けるところを拭いていく。
収穫した野菜を入れていたのだろう木箱があったのでざっと拭いて裏返して、椅子とテーブルとして設置。
よし、じゃあ人参取ってこよう。
ストレージを念じて、出てきた扉を開け中に入っていた人参を取りに行く。
人参を持ってストレージから出た私を、びっくりしてちょっと瞳孔が開いちゃったジュドさんが迎えてくれる。
あっ、そういえばこれ(ストレージ)の事は言っていなかった気がする。
えっと、その。
ストレージの説明からですかね。これ。
ざっくりとストレージの説明をしたところ、
「すごい能力だな」
と言われた。
首を傾げると、
「視界からいきなり消えて、気配もなにも全く認識できなかった。ということはどんな状況でも安全に隠れられるということだろう」
と説明される。
ストレージさん、衣食住の住として設定したけれど、安全地帯という意味で確かにかなり有用である。
何かあったら入ればいいかとは漠然と思っていたけど、改めて言われると便利だね。
ついでなので一人ではわからない検証をお願いする。
ストレージの扉は、ジュドさんには見えていない。
私が扉を開けても、手を動かしたことしかわからないらしい。
扉を開けて中が私には見えているけれど、ジュドさんには何も見えていない。
さてと、手を中に入れてみる。
「どう見える?」
「肘から先が消えた」
そのまま足を踏み出し、ストレージの中に入る。
「少しずつ消えて見えなくなった」
扉はまだ開いたままなので振り返ればこちらからはジュドさんが見えている。
「声は聞こえるか?」
問いかけると、
「ーー」
パクパクと口を開けるジュドさん。
ん?
「聞こえているなら手を上げて『聞こえる』と言ってくれ」
再度頼むと、ジュドさんは手を上げてまた口を開いた。
けれど声は聞こえない。
こっちからの声は通るのに、向こうからは聞こえないってことかな。
一旦外に出て見る。
「何も無いところからにゅっと出てきたな」
そうか、それはさぞかし不気味なことでしょう。
再度中に入る前に、
「今から数を数えるから、いくつまで聞こえたか教えてくれ」
と頼んでおく。
「いーち、にー」
とゆっくりと発音しながらストレージに入り、
「さーん」
を言い終わってすぐに扉を閉める。
「よーん、ごー、ろーく」
を待機で
扉を開けて、
「なーな」
扉を出て、
「はーち」
さて、どうだったのか?
「456は聞こえなかった」
つまり、扉を閉めると全部シャットアウト、扉を開けていると、こっちの音は通るけれど、外の音は聞こえない。
ついでなので適当な小石を拾って投げる実験もしてみた。
扉が開いた状態で、こっちから投げた小石はジュドさんからは中空からいきなり現れて落ちてきたように見えたそうだ。
ジュドさんにも小石を、私がいると思われる辺りに投げてもらった。
私からは小石が扉のあたりで消えたように見えた。
ジュドさんいわく、小石はごくごく普通に放物線を描いて地面に落ちたらしい。
おういえい、これもしかして中からの攻撃は通るけど、外からの攻撃は通らなかったりします!?