26 借りられます? そんな裏技っぽい方法で!?
農業ギルドに来てはみたものの、昨日の今日ではあまり話は進んでないのではないかとは思う。
リガルさんを見つけたので軽く手を上げてここに話を聞きたい人がいますアピールをする。
そういえば、飲食店で店員さん呼ぶのって難しいよね。気づいてもらえないことよくある。私にはステルス機能が搭載されているのか? と思うくらい気づいてもらえないこと、ある。
リガルさんは勘が良いのかすぐに気づいてくれた。それだけで好感度が上がる。
「おぅ。来たな。ちょっとこっちで話そうや」
クイッと片眉を上げたリガルさんに別室に案内された。今日も凛々しい眉毛をしている。
少しガタつく椅子を乱暴に引いたリガルさんがどっかりと座り込む。
すすめられた椅子にこちらも腰掛けた。
「まず、大前提として、本来街近くの農地ってのは農業ギルドに入ってないと貸せねぇ」
おう、まずそこからだった!
言われてみれば街に供給される新鮮な食料って重要だ。街から遠ければゆるいのだろうけれど。貸し出す相手に条件があるのはわかる気がする。
「貸せねぇんだが、放置されるよりはマシだろうってことで以前計画したのが分割しての貸出だ。分割するのと、農業ギルド員でないとってところを緩めて借り手を増やそうとしたわけだ」
「なるほど」
ってことは農業ギルドに入ってなくても借りられる?
「まあ、緑魔法がかかりにくいってのがわかった時点で話が途中になったが、その時に検討してたのが、保証人をつけるか、金で解決するかの二択だ」
ふむふむと頷きつつ聞く、
保証人、は難しい。ちらっとジルじいさんの顔が頭をよぎったが、迷惑をかけることはできないと思う。
金で解決というのは多分敷金を多めに入れるみたいなことだろうか。
そこまでお金があるわけではないから、これは借りるのは難しいということになりそうだ。
顔色を見て何を考えているのかわかったのだろう。リガルさんは一つ頷くと、
「ま、外国人だとどっちも難しいだろうな」
と言った。
そう、それがあるか。外国人に貸すってリスクがあるよね。
「まあ、これは貸す場合の話でな」
リガルさんがそう話を続ける。
「で、だ。現状あそこは畑としては借り手がいねぇ。うちで牧草地として管理しているわけだが、管理するのにも金がかかる。上と相談してみたところ、貸すんじゃなくて管理を委託するって形式ならどうだって案が出た」
つまり?
あの3枚の畑を荒らさないように管理できるなら、使っても良いということ?
いやでも一人であの広さは無理だ。
もう少し詳しく聞いてみると、今、農業ギルドが牧草地として管理している費用分を払えば、今まで通り牧草地として管理してくれるというか、畑を荒らさないためにその契約は必須らしい。
私が農業ギルドから管理をまかされて、その私が農業ギルドに管理を依頼するってそんなことしていいのか? かなり抜け道っぽい方法だね。
私は畑をちょっと借りたい、農業ギルドは管理費を浮かせたい、そこをこう上手くやりましょうってことかな。
えっと、まとめると、農業ギルドから管理人としてあの土地を預かって、農業ギルドに牧草地としての管理費を払えば、自分が管理できる分は畑にして使える。手が届かないところは牧草地として農業ギルドが管理してくれるってことかな?
わかりにくいけど、なんとか飲み込めた。
私としてはありがたい条件だ。あとの問題は費用。おいくらかな?
リガルさんから示された管理費は、とても微妙な額だった。
がんばれば払えなくはなさそう。だけどけっこう綱渡りかな。
畑作業をするとなると冒険者ギルドの依頼をめいっぱい受けるのは難しいだろう。
だが、家賃だと思えば妥当な額な気がする。
ううん。悩む。
だんだんと首が傾いていく。
どうしよう。
トントンとノックの音が響き、リガルさんが「おう」と応えると、ドアが開いた。
入ってきたのはジュドさんだった。
「話は聞かせてもらった」
えっ? どうやって!?
ピンと立ったジュドさんの猫耳がこちらを向いている。高性能そうなお耳ですね。
なぜここに? と思うが、そういえばジュドさんの家を出る時にマーサさんに行き先を告げたような気がしなくもない。
「俺が出資する!」
「いやいやいや」
なんでそうなる。あ、しまった、この流れだと、「な、なんだってー!?」って言うべきだったか。
「ルーナを助けてくれた礼を受け取ってもらえていない」
「ちゃんと対価は受け取った」
被せるように言う。
ジュドさんがうるさいからちゃんとサプリ代はいただきましたよ。きっちり。
恨めしげに見られるけれど、私はジュドさんに協力してもらったお礼に何かしたかっただけだ。
お礼にしたことに大金をもらうのはそりゃなんか違うでしょう。
「畑を借りて野菜を作るのだろう? それなら俺にはその事業に出資する理由がある」
じっとジュドさんのその深い緑の眼で見つめられる。
さっきから、ちょっとやめてくれるかな。私はその眼に弱いのだ。
「ルーナでも食べられる野菜を、作ってくれ」
うーん。
まあ多分、日本の野菜の種で育てた野菜なら食べられるんじゃないかとは思うけど。その可能性は高いけど。
多少抵抗はしたけれど、結局ジュドさんに丸め込まれることとなった。
お野菜が採れたら納品する他に、年1回分配金をジュドさんに渡すことは了承してもらった。
月1回だと頷かなかったあたり、先延ばししてうやむやにされそうな気配を感じるが。
リガルさんが素早く書類を整え、あっという間に私が管理人となる契約が終わった。牧草地管理の契約もばっちり。ついでとばかりに畑に戻したい部分の荒起しについて相談するとそれも農業ギルドで請け負ってくれるらしい。
便利だな農業ギルド、なんでドーンさんは手伝いを農業ギルドに頼まなかったのだろう?
聞いてみると、基本農業ギルドは作業計画に基づいて人を派遣するそうだ。すぐに来てくれ的な依頼に対応できる人数は少ないらしい。なので突発的な短期依頼は冒険者ギルドに行く、と。
なるほど。
なんにせよ、昨日の今日でここまで話をまとめ書類を準備していたとはリガルさんものすごく仕事ができる男である。素敵。これからも頼らせてもらおう。草刈りとか草刈りとか。草刈り嫌いだ。
これで、住むところと畑を手に入れることができてしまった。
朝夕こそこそと人目を避けてストレージを開く日々が終わるのか。感慨深いな。