23 もしかしてただの偏食ではない?
最近はちょっと千円リピートに余裕が出てきているので、残額はルーナ用のサプリを買ったりお菓子やレーズンを買ったりしていた。
たまにはと思って牛丼を出したこともあるけれど、やはり出てきたのは中身だった。器を用意しておいて本当に良かった。しかし失敗したのが、お茶と箸も出てきた。つまり、お茶はこぼれた。湯呑みも必要だったとは……
定食を買おうとしたら皿とお椀がいくつ要るのだろうか。地味に面倒だ。
牛丼、昔は280円で食べられたの、今思うとびっくりだぁ。
気がついたのだけど、1日分節約してなるべく使わないようにしておけば、夜に買うことにより翌日分と合わせて2000円分のものがけっこうすぐに買えるはずなのだ。
まあ、実際は朝から使える残額が0になるのがちょっと怖くて全額は使えない。
けれど夜の残高682円で798円の老眼鏡は買えなくても、念じておけば次の朝には老眼鏡1.5は手に入るのである。
残額がいつ1000円に戻るのか検証してみたところ、正確には朝じゃなくて日付をまたぐと残額が復活するようだった。なので0時近くに念じて0時を超えれば出せる。
ということで昨日念じておいて、朝、待機状態になっていた老眼鏡1.5を無事出せた。
どうやって出るのか気になっていたのだが、ここらへんに出るかなっと思っていた場所に自動で出るわけではなかった。
一旦待機状態になって、出したい時に出せるようだ。
これは何かに利用できそうな気がする。
ん? ちょっと思いついた。待機状態にできるなら時間停止つきストックとして使えるかもしれない。
わざと日をまたがないと買えない状態にしてから買えば、残額を99円にしてから100円のものを買えば、翌日の残額が1000円が999円になって品物は一旦待機状態になるわけだから、アイスをそうやって買っておけば、出すまでは溶けずに凍ったままなのではないか。
チマチマと刃物を買って待機状態にしておいて、上から出すとかどうだろう。金ピカの王様っぽい攻撃ができたりする? 重力だけじゃ無理かな。
考えながら身体を伸ばす。
無事、本日に筋肉痛さんがやってまいりました。思っていたより早い。嬉しいけれど嬉しくない。
この身体では農園仕事は無理だ。腰が無事なのは良かった!
ジルじいさんはどうせ朝早いだろうからとっとと渡してこよう。
声を掛けても出てこないので心配して踏み込んだら、ジルじいさんが作業場で作業机に突っ伏して寝ていた件!
これは徹夜しやがりましたね。
揺り起こしたジルじいさんに圧を掛ける。低い声を出す。
「ジルじいさん、それを返してもらおうか」
いやいやと老眼鏡を抱きしめて可愛くプルプル震えても許しません。
「よこせ」
取り上げると、絶望した顔で見られる。
気持ちはわかるが徹夜は良くない。
「作業時間は決める。徹夜はしない。ご飯は食べる。約束できるか?」
コクコクと頷くジルじいさんに1.5度の老眼鏡を渡す。
「多分こっちの方が見やすいと思うから試してみてほしい」
「よう見える!」
顔を輝かせるジルじいさん。やっぱりちょっと老眼の度がきつそうだ。これ以上のものは買ったことがないのでこれ以上進まないといいのだが。
ご飯を食べてちゃんと寝るように言い含めてジルじいさんの家を出た。
言うだけは言ったけど、多分あれはまたやるだろうな。
夢中になると時間を忘れてしまうのだろう。
今日は筋肉痛で力仕事をする気にはなれない。苗を渡しにルーナのところに行くか。
「あなたがサキさんね。私はマーサというの。よろしくね」
あいにくジュドさんは留守だった。突然来たから仕方ない。対応してくれのは前に聞いていた家とルーナの面倒を見てもらっているという通いの人だろう。
「サキだ。よろしく」
ふっくらした体型の、とても優しげな御婦人だ。
「あなたのおかげでルーナちゃんが良くなって本当に感謝してるの。ありがとう」
深く頭を下げてくれた。目が合ってにっこり笑う目尻にくしゃり深いシワが入る。この人はいつもこうやって優しく笑っているのだろうなと思えた。
働き者の手をしている。
もうひと目見ただけでわかった。家事のプロだよ。
お料理絶対得意だ。
「ちょうど良かった。この野菜ならもしかしたらルーナも食べられるかも知れないと思って持ってきた。なんとか食べやすいように調理法を考えてもらえないか」
袋に入れた玉ねぎ、人参、じゃがいもにかぼちゃとさつまいも。お試しなので少しずつ持ってきてみた。
「まあ、ちょっと変わったお野菜もあるのね。おいしそう。ただ、ルーナちゃんお野菜を苦いって言って食べないし、無理に食べると具合が悪くなるのよ」
申し訳なさそうにそう言う。
この御婦人が手を尽くしていないわけはない。多分今までにいろいろ試したのだろう。
余計なことを言ってしまったなと少し気まずく思っていると、トテトテと小さな足音が聞こえた。
「サキさん、いらっしゃい!」
ルーナだ。もうベッドから出て歩いても問題ないのだろうか。相変わらず可愛い。目がキラキラしている。
「それは、なぁに?」
覗き込むルーナに野菜を見せる。
「お野菜だけど嫌じゃない。これは苦くないの?」
ん、なんか反応がおかしいな。
別の袋に入れてあった、農園でもらった野菜を見せる。
「嫌!」
ルーナが顔をしかめる。
これ、もしかしてただの偏食ではない可能性あり?
誤字脱字報告どうもありがとうございます。
ほんと助かります!