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異世界で一日千円分だけ自分が買ったことがあるものを出せる能力でなんとか生き抜きます  作者: 相内 友
第三章 千円あれば身近な人をちょこっと助けることができたりするのかも?
22/125

22 職人技が見たい!

「ジルじいさん、なんの職人なんだ?」

 興味があるのでつっこんで聞いてみよう。


「ん。あれじゃあれ」

 指さされたのは食卓を照らすランプだ。植物の蕾のような形をした装飾が施されたランプはちょっとアンティークな感じでとても可愛い。


「ランプ職人?」


「正確には、その動力部分じゃな」

 このランプ、明かりは火ではない。ってことは。


「魔道具職人!?」

 めっちゃ憧れの職業だ。魔石を組み込んで回路を引いたりするあれ? あれですか!?


 キラキラした目で見つめてしまう。そんなのすごい。


「んむ」


「じゃあもしかして、ここは良いって言ってた部屋は」

 片付けの時に一つだけ立入禁止の部屋があった。


「作業場だったところじゃな」

 やっぱりそうか。すごいな。手に職があるだけでも憧れるけれど、まさかの魔道具職人。

 機会があれば作業を見てみたい。っと過去形?


「もう近くの細かいものが見えんのじゃ。歳じゃな」

 ジルさんが指を顔の前にかざす。指の指紋が距離を離さないと見えなくなると老眼なんだっけか。


 老眼は早いと30代から来る。来ます。来た。

 久しぶりに動かしたミシンの針に糸が通せなくなっていてびっくりした。笑えるほど見えなくて通せなくて10分以上格闘したのが私の老眼を自覚した時の思い出だ。


「老眼鏡とか拡大鏡を使っても無理なのか?」

 役所とか銀行の窓口に置いてあるカラフルな三本セットのあれを試しにかけてみたらすごくよく見えるようになって更に追い打ちをかけられた。

 まだ大丈夫だと思っていたけど完全に老眼だった。認めたくない。


「老眼鏡? なんじゃそりゃ。大きく見えるやつは使っとったが、あれは気分が悪うなってのう」

 あれ? 老眼鏡をご存じない? 


「近くがよく見えるようになる眼鏡だが、使ったことはない?」


「そんなもんがあるんか? 知らんな」


 ちょ、ちょっと待って。老眼鏡、とりあえず間に合わせで100均で買ったことある。

 度数1のやつだけどないよりマシなのでは。1.5のやつはホームセンターで買った。こっちは798円だ。それ以上の度のやつは買った記憶がない。


 どっちが良い? 今の残高だと798円は無理だ。

 とりあえず100均老眼鏡を買う、か。ジルじいさんに合わなくても自分で使えばいいし。


 鞄を引き寄せて、蓋を開けて中で老眼鏡を買う。そのまま取り出し、手に持った老眼鏡をジルじいさんに見せる。


「これだ。着けてみて欲しい」

 とりあえず、眼鏡の弦を広げて自分の顔に一回装着してみせてから手渡す。


 私の真似をして老眼鏡をつけたジルさんは顔の前にかざした手を、指をゆっくりと目に近づけていった。


「見える」

 唖然とした声だ。


「見えるぞ!」

 声が大きくなる。

 良かった。けどまだ指の位置がやや遠い気がする。やっぱり1.5の方が良さそうな感じかな。


 そう、今までピントが合わなかった近いところにピントが合うようになってよく見えるんだよね。だんだん進んでいたやつだから見えにくいのが普通になってしまっているのだ。視界がくっきりするとこんなに見えるんだってびっくりする。


「ジルじいさんには世話になっているから、それを使ってみて欲しい。台所の借り賃だ」

 片付けの時に出てきたものもけっこうもらったしね。


「ええのか?」

 ちょっとためらっているけれど、いいよいいよ、てかもうちょっと余裕がある時に1.5も試そう。


「その代わり、もし良ければ、いつでも良いので作業を少し見せてもらえないか?」

 見たい。ジルさんの作業風景とても見たい。魔道具の材料とか工具とかめっちゃ興味がある。


「ええぞ」

 ニヤリと笑うジルじいさん格好良い。眼鏡が良く似合っている。

 今までちょっとしょぼくれた印象が強かったのだが、自信を取り戻したようなその顔にちょっとときめく。イケオジ好きなのだが、イケジジイも好みだ。




 初めて入ったジルじいさんの作業場は、雑然としていて整然としてた。

 矛盾するようだが、物は多いのだがちゃんとあるべき所にあるべきものがあるのがわかる。


 家は荒らしてもここだけはジルさんなりの秩序が保たれていたのだろう。


 壁一面に棚。

 部屋の真ん中に大きな作業台。少しカーブを描いた台の上には細かい道具やなんらかの機械がびっしり乗っている。

 部屋の隅にも布がかけられた何かの機械が置かれていた。


 すっごく職人の工房だ。興奮した。


 机の前に座ったジルじいさんが手に取った工具の握りを確認している。


「もう暗いから大したことはできんの」

 明かりはつけたが、日はもうとうに落ちてしまっている。そういえば夕方になると見えにくくなるというのも老眼の特徴だった。日を改めるべきだろうか。


 そう思っているうちにも、ジルじいさんが手慣れた様子で銀の小さいプレートとワイヤー、赤い小さな石を取り出して並べた。いくつもの道具を持ち替えながら細かい文様をプレートに入れ、ワイヤーを良くわからない手さばきで石にラッピングして固定していく。


 ちょっと待ってジルじいさん。速すぎて良くわからないし、細かすぎる。なんでそこそんなことになるの? それは魔法陣なの!?

 もう一回見せて!


 って思っている間に完成したっぽい。なんか良くわからないけど最後にピカって光った。


 呆然としていると、ん!っとその繊細で優美な細工ものが差し出された。


「簡易護符だ。だいぶ鈍っていて売り物にはならん。やる」

 そう言いながらもジルじいさんは笑顔だ。


 ジルじいさんとの付き合いはそんなに長くないがわかる。これはちゃんとしたものだ。だってジルじいさんがそんな自分が納得のいかないものを人に渡すとは思えない。


 多分それなりに高価なものなんじゃないかと思う。それでも嬉しくて遠慮せずに手を出した。


「ありがとう。大事にする」


 手に乗った護符はほのかに暖かかった。

誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。

ほんとすぐに字が抜けるのなんとかしたいです……

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― 新着の感想 ―
やるなじいさん 魔道具製作職人 これが異世界!!
咲さん、思ったよりお年を召してらっしゃった
そうか、度数1しか買ったことないのか…残念 ダイソーには1.0〜3.5まで0.5刻みで揃ってるのに…(^^ゞ
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