20 日本のお薬良く効きすぎ問題
ご意見を受けて改稿してみました。
鎮痛剤もいろいろあるけれど、どれが良いのか。アセトアミノフェンもイブプロフェンもロキソプロフェンも飲んだことがある。
私が一番腰痛に苦しんだ時に出されたのはリカなんとかいう可愛い名前のお薬だった気がするが、多分あれはこじらせた腰痛向けだったんだろうなぁ。
一番副作用が少なくて安全なのはアセトアミノフェンかな。1錠3円で買えてしまう。
だが、サプリでもないガチの医薬品を他人に渡すのはどうなんだろう。副作用とか出たら怖い。異世界人と日本人、身体の違いがどうなっているのか、という疑問もある。
まあでもそれを考え出すと、異世界の何が日本人にとっては毒となるのかわからなくて何も食べられなくなるけれど。あ、そのための適化スキルか。納得。
ここはやっぱり塗るタイプの市販薬が無難かな。
容器は問題だが、g買いすれば中身だけ出せる、な。
「腰がつらそうだが、休んでなくて大丈夫なのか?」
ドーンさんに聞いてみる。
「3日前にやって、これでもだいぶ良くなってきたところでな。頑丈なだけが取り柄なのについてねぇや」
腰をさすりながらドーンさんが答えてくれる。
ふむ、急性期は過ぎているっぽい。
「痛みを少し楽にする塗り薬を持っているから、良ければ試すか? 自分には良く効いた」
塗り薬の方が、口に入れるものより試すのに抵抗ないよね。
「いいのか?」
痛みがつらいのだろう。ドーンさんがすがるような目をしている。
なんでもいいからこの腰の痛みを軽くして欲しい気持ち、よくわかる。腰が痛いのとてもつらい。膝もつらい。歩くのが痛いとほんとすべての行動がおっくうだよね。
「ああ、ちょっと待って」
鞄に入れておいた小さい容器を鞄の中で蓋を開けて中に塗り薬を20円分出す。
こっちがお願いする前に、準備万端に腰部分を露出させたドーンさんにちょっと吹き出しそうになる。
ドーンさんの腰に手のひらで薬を塗り拡げて最後にぴしゃんと叩く。
「気休めくらいにはなると思う」
「おう。すーっとして気持ちいいな」
「ミリアさんもよければ」
女性の膝露出、問題あったりしないですかね?
大丈夫そうだね。
ミリアさんが裾をめくり、出してくれた膝にも塗っていく。
「ありがと。お代はいくらだい?」
いやいや、そんな高くないし。
「バーンに世話になったので、そんなのはいいけど、ちょっと教えて欲しいことが」
「なんだい?」
「少し野菜を作りたいと思っているが、畑を借りたりはできるのか?」
「街近くの農地については農業ギルドの仕切りだね。うちの農場も貸与って形になってるよ。ん、その感じじゃ本格的に農業を始めたいってわけじゃなさそうだね?」
「ああ、自分が食べる分ぐらいを作りたくて」
「1枚単位が基本だから、少しだけ作りたい場合はどうなるんだろ。アンタ、知っているかい?」
ミリアさんがドーンさんに聞いてくれる。
「どうだったかなぁ。そういえばなんかだいぶ前に借り手のつかない畑を細かく区画を分けて貸し出すみたいな事をリガルのヤツが言っていたような」
リガルというのは農業ギルドの職員らしい。その人に話を聞くのが早そうだ。
「なんにせよ農業ギルドか」
「ああ、俺の名を出してくれていいぞ。ドーンに聞いたって言っとけ」
ありがたい。こうちょっとでもコネがあると話が通りやすくなるよね。
休憩を終えて、作業に戻る。
次は出荷作業だ。野菜を収穫して汚れをざっと落とし、悪い葉を取って大きさ別に分ける。
見た感じ、長ネギ、キャベツ、ブロッコリー、人参、大根に思える野菜たち。ちょっとずつ形状が違うけれど、品種の違いだろうと納得できる範囲だ。キャベツが尖っているけど、そんなキャベツもあるよね。
沢山の野菜を入れた箱は重いし、これはほんと腰に来る。
重いものを持つ時はできるだけ身体に引き付けて持つのがコツである。腕で持たない。膝は曲げる。中腰ダメ絶対。
「サキ、無理はするなよ。重ければ俺が持つ」
バーンさんがとても軽々と私の2倍は持って行く。やっぱ筋肉あるっていいなぁ。
言葉に甘えて収穫と選別の方に専念させてもらおうか。黙々と作業を続けていると、むちゃくちゃ笑顔のドーンさんが凄い勢いでやってきた。
「おい! あれから痛みがきれいさっぱり消えたぞ! すげーな。治った!」
ドンドンと私の腰のあたりを叩くのをやめてほしい。こっちの腰が痛くなりそうだ。って、こんなすぐそんな痛みが全消しなことある?
「あたしの膝も全然痛くないよ」
後ろからスタスタとついてきたミリアさんにもめちゃくちゃ良く効いたっぽい。ルーナのマルチビタミンといい、効きすぎじゃなかろうか。
まあ、今まで全く試したことのないものだから効きが良いのかなぁ。大丈夫かな。
これならバリバリ仕事ができると喜ぶドーンさんに、
「いや、痛みを誤魔化しているだけだから、無理は禁物だ!」
と強く主張したい。
痛くないからって無茶をすると効果が切れた時に地獄をみるよ。見たよ。
それでも痛みがなくなると働いてしまうものだ。
流石に力仕事はバーンさんに任せているが、ドーンさんとミリアさんのさすがの熟練な手さばきで収穫も選別もどんどん作業が進んでいく。
滞っていた仕事が上手いこと流れると調子にのってやってしまうよね。
「いやぁ、今日はほんとに助かった。また来てくれや。明日もどうだ? 明後日は?」
にこにこ笑顔のドーンさんから依頼票にサインをもらう。
そろそろ効果が切れるんじゃないかと思うけど、まだまだ元気っぽい。今夜苦しまないといいんだけど。腰痛って朝起きた時が一番つらかったりするし、心配だ。
心配すべきは自分もか。久しぶりにいつも使わない筋肉を酷使した気がする。筋肉痛、明日来るといいな。明後日くらいな気がする。
明日や明後日も来れるかどうかは筋肉痛次第な気がする。とてもする。
「来れたら来るが、ちょっとまだわからん」
と誤魔化しておこう。いやほんと、こっちにも腰痛の予兆が来ている気がするのだ。