147 小話 眠れない夜とヒヨコ
眠れない夜、虚空に目を凝らす。
小屋の隙間から差し込む月の光がすじになって床に落ちている。
そのすじがたまに揺らめくのは外にある枇杷の木が風に揺れているからだろうか。
夜は空気が澄むせいか、遠くの音もよく聞こえる。
夜に鳴く鳥の声。
そういえば、人の耳はとても都合が良いもので、いつも聞いている音を意識しないようにすることができる。田舎は静かだと思っている人もいるだろうけれど、実はそうでもない。
田んぼのカエルの鳴き声、虫の声、キジバトの鳴き声、そして鶏の声。
田舎だとそんな感じの音が日常になりすぎて耳が勝手にスルーするようになる。
耳慣れない人にはかなりの音量なのに。あ、さすがに草刈り機の音はうるさい。でも仕方ない。早朝から草刈り、田舎だとあるあるだ。
飼ったことがない人にとっては鶏は、朝、それも早朝に鳴くイメージだろうけれど、やつらはいつでも鳴く。虫やカエルより身体が大きい分、声もかなり大きい。
真夜中にも鳴く。多分寝ぼけているんじゃないかと思う。あと、長年飼っていると鶏にも認知症ってあるんだろうなって思った。鶏でも高齢化問題深刻。
卵を産んだ時はちょっと鳴き方が違うのでわかることが多い。
ああ、今、産んだんだな、と。
イタチなどの外敵が来た時もすごく騒ぐのでそれとわかる。
思い出すと懐かしくなった。場所はあるのだから、鶏を飼ってみたい気がする。
新鮮な卵、良いよね。ただ、ちゃんと見ておかないと抱卵するからいつの卵かわからなくなる時もある。
しかし、鶏を買ったことは……。
ああ、祭りの屋台でヒヨコを買ったことがあった。
旅行中の祭りの屋台で買ったヒヨコは、すぐに弱って死んでしまった。
購入履歴があるということは、あの子をもう一度育てることができるのだろうか。私の記憶から再構築された複製のようなものだとしても、あの時、手の中で冷たくなったあのヒヨコにもう一度会えるのなら……。
ただ、屋台で売られていたので、多分間違いなくオスだと思う。
それでは卵を産んでくれることは、ない。
かといって、あの子を育てて肉として食べるのも、なぁ。
家で育てていた鶏は、チャボ、軍鶏、名古屋コーチン、烏骨鶏くらいか。
問題としては私が買ってきたわけではなく、親が買ったりもらってきた鶏なので購入履歴がない。
家で孵化させたりもしていたが、とにかく購入履歴がない。
卵目当てなら有精卵を温めた方が良いのだろうか。ほぼほぼ無精卵なうずらの卵からうずらを孵した話を聞いたことがあるし。数打てばなんとかなりそう。
ヒヨコ、可愛いんだよなぁ。
鶏の雛はかなり大きくなってもピヨピヨと鳴く。声に釣られてヒヨコがいると思って覗きに来た子どもが騙されたと言っていたことを思い出す。
こちらの鶏でも飼おうかな。
こっちの鶏も、大きくなってもピヨピヨと鳴くだろうか。
ピヨピヨと鳴くからぴよちゃん。そんな風にヒヨコを呼んでいた。
ヒヨコの鳴き声を思い出していたら、やっと眠気がやってきた。
ヒヨコが一匹ヒヨコが二匹。
頭の中でほやほやのヒヨコがぴょこんと跳ねる。
幸せの色は、なんとなく黄色な気がする。多分映画のタイトルのせいだけど。
今日は、黄色い、良い夢が見れそうだ。




