146 発売記念SS 採集依頼 きれいな石求む
発売記念SSです。
このお話は時系列的には第三章に入ります。
採集依頼をこなしていたころのお話です。
ロックタートルを倒して、目潰しができるようになって
依頼の幅、いける範囲が広がったあたりですね。
なんでこんな依頼が。山にある水晶の採集場で「きれいな石をとってきてほしい」というこの依頼。
綺麗な石というのも、なんとも主観に頼った依頼である。支払いはなんとどんぐり払いだ。
いや、どんぐりというとちょっと違う。どんぐりに似ているけど、どんぐりのような渋がないので、あの面倒くさい渋抜きをしなくても食べられる木の実だそうだ。
保存食の一種で煎って食べると美味しいらしい。椎の実みたいなものなのかなぁ。
小さい頃、小さいどんぐりを拾っては、これは椎の実かもしれないと食べてみたことがある。
ただの小さいどんぐりだった。めっちゃ渋かった。食べられたものではなかった。
その思い出のせいで、この報酬の木の実がとても欲しくなってしまった。ちゃんと食べられるどんぐり食べてみたい。
綺麗な水晶に惹かれるものもあるし、この依頼を受けても良いのではないか。
一応マチルダさんに聞いてみる。
「この依頼は、なんというかその……」
「そちらの依頼は、もちろん正式な依頼となっております」
そう返ってきた。冒険者ギルドでは様々な依頼を受け付けている。
この依頼の主はどうやら小さな男の子のようだ。たとえ子どもからの依頼でも形式にのっとっていれば掲載可能だ。
マチルダさんに採集場の場所を聞く。私でも行けなくはないくらいの距離だ。
採掘道具も冒険者ギルドで借りられるそうで、これはちょっとトレジャーハンターな気持ちになれそうな楽しい依頼な気がする。
ツルハシやタガネやその他道具一式と採集袋を借り受け、いざ山へ。
山登りは子どもの頃はよくやっていたが、大人になってからはあまりやった記憶がない。
ただ身体は覚えているもので、あそこは滑りやすい落ち葉が積もっているとか、あの石はぐらつきそうという勘は残っていた。あの落ち葉は絶対やばい。
おかげで思いの外すいすいと山を登り、聞いていた目印の赤い紐が巻かれた分かれ道も正解を選べたようで、足元の石に白いものが混じってきた。これは石英かな。
もう少し行くと、ズリというのだろうか。砂礫が積まれているところがあった。掘ったはいいがいらないものを捨てた跡なのだろう。
これがあるということは、ここらへんを掘れば何かが出てくるということだ。多分。来る途中で拾ったいい感じの棒で、ズリの山をかき回す。
ああ、あるね。水晶。黄鉄鉱もくっついている。
小さい透明度の高い水晶を発見してテンションが上がる。頭は取れていたがそれでも水晶だ。スモーキークォーツのような少し煙った水晶もあって面白い。
砂礫を漁っているだけでもけっこういろいろ手に入る。楽しくて熱中してしまった。
さて、自分でも掘ってみたいのだけれど、鉱脈がどうとかいうのがさっぱりわからない。先人が掘った跡があるところをたどって適当に掘ってみようと、ツルハシを当ててみる。
カツン
腰の入っていない一振りは簡単に跳ね返されてしまった。
これ薪割りと一緒で遠心力と腰の入れ方が大事なやつっぽいなぁ。コツが掴めてないと腕だけの力でやって腕を痛めたり、腰をやるやつ。
ツルハシを主に使うのはあきらめて、タガネと槌でコツコツ叩いてみる。少しずつ地道に削っていくのなら私の力でもできそうだ。
コツコツカンカン。
少しずつ削っていくとカツンと抜ける手応えがあった。
あっ、穴だ。
空洞があったようでそこに抜けたみたいだ。
そういえば、鍵に百均で買ったキーライトをつけていたはずだ。ストレージを開いて荷物をあさり、探し出したライトでポコリと開いた穴の中を照らしてみる。
そうしたら。
その穴の中にキラキラと光る水晶。すごい。何これ。
手を突っ込んで採ろうとするがなかなか採れない。
借りてきた道具の中にあったL字型の棒みたいなやつに持ち替えて中をコジコジする。
あ、採れた!
六角柱の綺麗な水晶柱が採れてテンションが上がる。これ、横からもうちょっと割ったらいい感じに採れるかな。
コツコツ割っていくと、水晶が張り付いた状態の石が採れた。なんて素敵。え、楽しすぎるんですけど。
夢中になってガリガリ採った。なかなかに大量だった。
こうなるともう一つくらい穴を見つけたくなる。あちこちカンカン削ってみたのだけど、多分ビギナーズラックだったのだろう。
さっきのように穴に当たることはなかった。小さい水晶は見つけたけれど、さっきみたいな感動はない。
本当に宝箱を開けたみたいな楽しさだったあの穴は、完全にビギナーズラックだったようだ。
もうちょっと粘りたい気持ちもあったけれど、とりあえず水晶は採集できたのでこれで依頼は果たせるのではないか。
帰り道の途中の沢で水晶の泥を落として光に透かしてみる。
おお、水に濡れると表面の凹凸が気にならなくなるせいか神秘的にきらめいている。とても綺麗だ。
水晶は月光にさらすと良いのだったっけ。
水気をざっと拭いて袋に入れ直して山を降りた。
さてと、このままでも十分綺麗な水晶なのだけれど、形の悪いところを少しだけ整えよう。
千円リピートで出した100均のダイヤモンドヤスリでざざっと形を整えて、耐水の紙やすりで磨いていく。
水晶は固いけれどぎりぎり手磨きができるのであとは根気だ。頑張ればいける。いけるけど手がつらい……。
モース硬度7は手強い。完璧は求めず、程よいところで手を打とう。最後に酸化セリウムで磨く。まあこんなものでしょう。
意気揚々と私が選んだ一番綺麗な水晶を納品して依頼人の査定の結果を待った。
後日、無事に「きれいな石」という基準を満たせたらしく、報酬のどんぐりもどきを袋いっぱい受け取ることができた。つやつやしたとても綺麗などんぐりもどきだ。
さっそくアルミホイルで包んだどんぐりを焚き火に放り込み加熱して食べてみよう。
どれくらい時間をかければいいのかよくわからないけれど火が通ればいいだろう、多分。
待っているとパキンと殻が割れてる音がした。おっ、わかりやすいな。
パキン、パチンという音が聞こえなくなったので取り出す。あちちっ。
少し冷ましてから殻を割って中身を取り出してみた。
百均のペンチって一個あると何かと便利だよね。
どんぐりもどきのお味は、なんていうかほっくりしていてほんのり甘い。
ちょっと栗に似た風味で素朴で美味しい。すぐに食べ終えてしまった。
塩をまぶせば良かったな。まだあるから次はそうしようと思う。
水晶採集楽しかったからまた行きたい。
納品せずに手元に残した水晶も、磨いて何かを作ってもいいかもしれない。
眺めているだけでキラキラした水晶は癒される。可愛い。
なかなか良い依頼であった。
水晶の石言葉は「純粋・無垢・繁栄」良い運気を呼び込むと言われる。
あの水晶が少年に幸運をもたらすことを願う。
2026年2月25日、本日書籍発売です。
イラストを描いていただいたKACHIN様(https://x.com/kachin4649)は、
鉱物イラストが、とても本当に素敵な方なのです。
どの鉱物もキラキラしていて、
反射や微妙な色まで再現されていて見ているとうっとりします。
(https://x.com/kachin_bdgb)
なので、鉱物、水晶を掘りに行く話を書いてみました。
楽しいですよね。
山でも川でも海でも、綺麗な石を探すの!




