133 焼き芋と倒れ人
あと焚き火で楽しめるのはなんだろうね。ビー玉も焼いてみる?
赤くなるまで加熱したビー玉を、水につけるとピシピシとひび割れて綺麗なのだ。
ただ、加熱しすぎると割れる。加熱が足らないとひびがあまり入らなくて綺麗にならない。ギリギリ、割れる寸前を見極めるのが大切だ。
まあ、割れたやつも綺麗なんだけどね。破片が尖っていると危ないけど。
そういえば、正月のどんど焼きだとお餅を焼いたりもするよね。書き初めも焼くんだったっけか。
どんど焼きを思い出したら食べたくなってしまった駄菓子を千円リピートで出す。
20円だ。20円で買えるのすごい。
ソース味のあられとピーナッツが美味いのだ。
「おいしい!」
濃い味がミミに受けている。にっこりと笑ったミミの可愛い口の端に青のりがついている。そう、このあられには青のりもついてたね。そういえば似た駄菓子がもう一個あったな。私はそっちの塩味の方が好きだった。
もう一つ、10円で買えた思い出の駄菓子を分け合う。
「わらわはこっちの方が好きじゃ!」
塩味はキララのお口に合ったようだ。どっちも美味しいよね。そしてこのパッケージはピーナッツが2つ入っていた。当たりだな。
こっちのあられはピーナッツはたいてい1粒しか入っていないんだよね。入っていないこともある。なので2つ以上ピーナッツが入っていると当たりの袋だと喜んでいたのだった。
当たりといえば⋯⋯。
ソース味のあられの袋をひっくり返して全部出してみる。
うん。そんなうまいことはいかないか。こっちのあられはたまに「あたり」と書かれた厚紙が入っていたのだけど、これはハズレのやつらしい。
千円リピートで当たり付きの当たりを買った履歴がどうなるのかちょっと興味があったのに。
ひとしきり遊んで、それでももう少し時間をかけたほうがよかろうと灰のなかのサツマイモを十分放置して熱がじっくり入るのを待った。
そうして出来上がった焼き芋の、美味しいこと。素晴らしいこと。
2つに割った芋から立ち上る湯気。その湯気にけむる黄金色のほっこりとした芋。かぶりついた時の芋の熱さ、甘さ、この上ない。舌の上に広がる甘み。寝かせたことでデンプンが糖に十分に変わっている。
甘い、ほこほこ。美味しい!
あまりの美味しさに顔が勝手にゆるむ。鼻歌を歌ってしまう。
焼き芋の歌。好き。屋台のあの歌も好きだけど、あの歌を題材にした焼き芋の歌も大好きだ。
特に下着名の歌手の曲は名曲だ。多分いろいろ事情があったのだろうか。歌手本人達が出演していたPVも大好きだ。いやでもなぜあの名曲を男二人で演じた……。
他にも焼き芋の歌はいろいろあるけどどれも名曲だと思う!
焼き芋は良いよね。
そうやって食べて。食べきれなかった分はルーナに持っていこうかな。それともこれを予行練習として第二回焼き芋を食べよう会を開催しようか。
そんなことを考えながら、いいお天気なのでしゃぼん玉もやって。
漂っていくしゃぼん玉を見つめていたら、そのしゃぼん玉の先に見えていた旅人かな。人がへしゃりと潰れたのが見えてしまった。
えっ、今、倒れた?
びっくりして、ミミとキララの方を見る。
「倒れたのう」
「だね」
どうしよう。そのままにしておくわけには、いかないよね。
様子を見に、そっと近寄ってみると、やはり人が倒れている。すごくなんていうか。倒れ方の見本みたいにばったりと、うつ伏せで。埃っぽく汚れた外套が長旅を感じさせる、男の人、かな……。
肌の色が濃い。髪の毛も濃い赤で暖かそうな外見だ。ここらへんの人でない、のかな。
私は完全な善人ではないので、少し観察してしまう。
危ない人だったら、怖いと思ってしまう。けど……。
うーん。わたしの簡易チェックだと、ヤバいオーラは感じない。くたびれた可哀想オーラを感じる。
手助けしても大丈夫そうかな?
ミミとキララを見ても警戒態勢というわけでもなく自然体だ。
危険は感じてなさそう。
「もしもし、どうかしましたか」
こんな時にどう声をかけるのが正解かは知らない。
へたに揺すらない方が良いだろう。脳だったらやばい。
昔、本当にはるか昔に受けた救命救急講習を思い出そうとする。
けど、覚えているのは「心臓マッサージは歌に合わせて肋骨を折るつもりでやれ!」とか「AEDのパットをつける時に胸毛が邪魔だったらパットを貼り付けて剥がしてむしれ!」とかそんな知識だけだ。役に立たない!
「……か、身体が急にしびれて……。何か一口、食べるものを……」
あ、意識はあった。良かった。かすれた声。
えっと、食べて大丈夫な状態なの?
お腹が減ってそれで動けないの?
しびれってもしかしてヒダル神的なやつ? ハンガーノックというか。
焼き芋食べる?
混乱しつつ、そこそこ大丈夫そうだったのでその人の上半身を起こし、側の木に身体を預けるよう体勢を変えさせる。
ミミに取ってきてもらった焼き芋とお水を手渡すと「ありがとう」と礼を言い、焼き芋を食べてその人は目を見開いた。
おや、髪だけでなく目も少し赤いのかな。茶色だと思っていた目が光の加減か、赤く光った気がした。
「うま!」
そして、シャキッと完全復活した。くたびれ果てていた外見が整ったというか、別人みたいにキリッとした。よく見ると美形さんだね。この人。赤い髪をかき上げたその人が、流し目と共に言った。
「ありがとう。美しい人達、私はなんと幸運なんだろう。こんなところでこんな優しさに触れるとは。突然の脱力になすすべもなく倒れ伏し、もはやこれまでと思われた時に舞い降りた救い。黄金色に輝ける甘露を我に与えし天使」
あ、駄目だ。ちょっと合わない人だ。てか、こっちの世界にも天使いるの?
曖昧な笑みを浮かべ、握られそうだった手をかわす。お元気になったようで良かったね、うん。
「大丈夫そうで良かった。では」
ミミとキララを守らなければ。ミミはともかくキララは私では隠しきれないけれど。でも初対面の時に天女っぽかったキララは天使に近い気がするから危険だよ。
なんとか視線を遮るように自分の身体を割り込ませ、少しずつ後退する。逃げよう。
「待ってくれ。優しい君」
待ちたくない。けど、門まで行くなら通り道なんだよね。うちの小屋。
活動報告で書かせていただきましたが、
「異世界千円」書籍化となりました。
みなさまのおかげです。
読んでいただき、本当にありがとうございます。




