131 夢を捕らえるもの
「お姉さま、今日は洞窟に行きました。黒印教団とかいう怪しい集団がいて……」
桃瀬さんからの夜電話ならぬ夜ブレスレット通信だ。なんだかとても大変な内容をあっさりさっくり話してくれるので、いつも、そうなの!? となる。
通信はかなり慣れてきたし、音声も明瞭。試したところダンジョン内でも通じる。すごいぞ。ただ、相互通信なので相手がしゃべっている時にしゃべっても聞こえない。なのでかちあわないように、忘れなければトランシーバーのように言い終わりに「どうぞ」をつけている。忘れることも多いけど。
「蚊取り線香をたいてたら、バタバタと倒れて面白かったです! どうぞ」
いやいや、ちょっとまって。蚊取り線香で倒せちゃう怪しい集団って何!?
蚊だったの? その人? たち。えっ、もしかして吸血鬼とか? そして何より聞きたいのは。いつも聞いているのは。
「怪我とかしてない? お腹減ってない? どうぞ」
私が心配して言うと、笑い声が返ってきた。
その明るい声を聞けることを嬉しいと思う。
ほんのささいな小さなささくれでも、靴擦れでも、少しでも痛いところがあったらポーションを使ってほしい。なんなら栄養ドリンク的に毎日飲むのはどうだろう?
そう提案する私に桃瀬さんは「栄養ドリンク、あれは頼りすぎるといろいろ……」と少し低い声で言った。見えないけど、半眼になっているような気がする。何か、嫌な思い出がありそうだね……。
うん、日本の栄養ドリンク、カフェインと糖分で無理やりシャッキリさせている感がある。いっとき流行ったよねシュークリームとコーヒー? それこそ栄養ドリンクだったか。シュンケル? あれをやると代償がすごい。確かに動けるけどそのあと屍みたいになるみたいな。
でも異世界のポーションはカフェインは入ってない、と思う。入ってない、よね?
ハーカセさんにも常習性があるとは聞いてないので大丈夫だと思う。
連続使用禁止時間とかあるのかな? 聞いてないからなさそう。でも連続で飲むと液体はお腹タプタプになるよね。ポーション腹になったりするのだろうか。
もしかするとビールみたいに水よりも飲みやすいとかあったりするのかもしれない。お酒飲みの人、水だったら飲めない量のアルコールを飲むから、似た感じで。
個人的に栄養ドリンクを飲むなら、ビタミンとカフェインを錠剤で、そして糖分を摂った方がコスパがいいんじゃないかという気もするのだけど、やはりあのドリンク剤になっているところに栄養ドリンクの良いところがあるのだろうと思う。
だって効きそうだよね。あの小さい瓶をぐいっといくのがやはり良い。缶のやつもそれはそれで良い。
それこそ、人には信仰がある。崇める栄養ドリンク神は人によって違う。
うちではファイトな感じのやつが定番だった。
「いっぱい作ったから。ほんとほいほい使ってね。あと栗も柿も食べてね。どうぞ」
「嬉しいですけど、サキさん、いくらこっちの材料で作ったものと言っても私たちに貢ぎ過ぎじゃないですか?」
呆れたような声が返ってくる。
貢いで何が悪いというのだろう。可愛い子に貢ぐのは良いことだ。世界の命運を背負って、こんな異世界で戦っている子に貢がないで他の誰に貢ぐというのだ。
あ、ルーナにも貢ぐけど。
なにか困っていることはないのか。欲しいものはないのか。食べたいものは。本来なら安全な場所で、美味しいものをお腹いっぱい食べて暖かい場所で寝る権利がある子たちなのに。
「もらってばかりだと悪いので、また食材持って帰りますね」
そう言う桃瀬さんが「帰る」という言葉を使ってくれたことに、胸がじわりとする。うん、怪我なく無事に帰ってきて。待っているから。
「ということで、サシェを作りたいと思います」
「どういうことなのか、つっこみ待ちかの?」
やれやれと言うように肩をすくめたキララ。ものすごく様になっている。
そのジェスチャーがしっくりくるのってすごい。
「サシェ?」
「安眠を誘う香り袋? やっぱり人間、食と睡眠が大事かなって。いっぱい食べていっぱい寝れているうちは大丈夫だから」
ミミに説明する。キララのつっこみにもお答えしないとね。いいボケが思いつかないからそのまま、正直に。
ご飯はちゃんと食べてくれているようだから。あとは睡眠。睡眠大事。寝れなくなったり食べれなくなると生物は弱い。
寝てても悪夢だと寝た感じがしないけど。夢、昔は白黒だとか言われていたけどカラーで夢を見る人もそこそこいるらしい。私はカラー派閥だ。ついでに嗅覚も痛覚もある夢を見るタイプ。
桃瀬さんたちがどんな夢を見るタイプかは知らないけれど、サシェの他にドリームキャッチャーも作るべきだろうか。
慣れない環境で熟睡できていない可能性に思い当たったので少しでも楽になるように助けになるものを。
安眠用のサシェなら、中身はラベンダーやカモミールなわけで、ハーブならまかせておけ! と思うわけだ。
ラベンダーもカモミールも花として可愛いので、種を買ったことがあって栽培済みだ。カモミールはカモミールティーになるし。
サシェは乾燥させておいた花部分を袋状に縫った布に入れるだけなので、ものすごく簡単に作成できる。少しもんだり振ったりすればふわりと香るハーブの柔らかな匂いはきっと心を沈めてくれることだろう。
ドリームキャッチャーも作るのはとても簡単で。輪っかと紐があれば作れる。
輪っかは柳の枝が良いと聞いたことがあったので、キララとミミとで探しに行った。
ちょうど昨日、強い風が吹いていたからか、大きな柳の木の下には、細い柳の枝がたくさん落ちていた。
「たくさん拾った」
ミミがはりきって集めてくれた枝をキララがより分ける。
「これは折れてしまうのじゃ」
しなやかで折れない枝だけを選りすぐる。思ったよりたくさんあるから、ドリームキャッチャーの他にカゴでも編むかな。
「ついでだからツル系も欲しいね」
「あっちにクーズがある」
葛っぽい植物、こっちにもある。ちょうどよいから少し採集していこう。
もう少ししたらクーズの根の採集依頼も出るのかな。
うちには堀職人がいるから、依頼が出たら取りに来ようか。
そういえばサルナシもカゴやロープに良い素材なんだよなぁ。さすがに頼んでも切って持ってきてもらうのは無理そうだけど。
「お姉さま、なんなんですかあれ。あまりにすっきり熟睡できて怖いです! 予備にもらったやつをケルベロスみたいな頭がいっぱいいる魔獣の側に置いたら全部の頭が一斉に寝ちゃいましたよ」
桃瀬さんからの夜電話ならぬ夜ブレスレット通信。なんだかとても大変な内容をあっさりさっくり話してくれるので、いつも、そうなの!? となる。
そうなの!? そんなことある!?
素でサシェのことサシュだと思っていました。
誤字報告、本当にありがとうございます。
m(_ _)m
いつもいつも感謝しています。




